artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

風間サチコ展「平成博2010」

会期:2010/10/07~2010/11/27

無人島プロダクション[東京都]

風間はいまどき珍しい木版画で世相を風刺するアーティスト。ドーミエにしろグロッスにしろ社会風刺を版画に託したのは、より多くの人々の目に触れるように願ってのことだが、風間の版画は1点制作。ほとんど版画にする意味がないように思えるけれど、黒く太い線の表現はたしかに力強く、訴求力をもつ。版画以外に資料として、戦前戦中に国内で開かれた博覧会の記念絵葉書もあってつい見入ってしまった。

2010/10/26(火)(村田真)

岡崎和郎 展「補遺の庭」

会期:2010/09/11~2010/11/03

神奈川県立近代美術館鎌倉[神奈川県]

岡崎和郎というと「ひさし」くらいしか知らなかったが、彼の作品は「ひさし」も含めて「御物補遺(ぎょぶつほい)」という概念に集約されるらしい。「御物補遺」とは、従来のオブジェでは見落とされてしまったなにかを補足するようなオブジェを制作することをいう。よくわからないけど、彫刻の鋳型を思い浮かべればいいかも。たとえば《ウィリアム・テルに捧ぐ》という作品はリンゴの型を抜いた石膏に穴を開けたもので、これは見ればわかる。額縁や手形を型どった作品もわかりやすいが、よくわからないのが「ひさし」だ。わからないなりにおもしろいとは思うが。いずれにせよ、シュルレアリスムとコンセプチュアル・アートがねじれて合体したような、その意味では日本ならではのアーティストといえる。

2010/10/26(火)(村田真)

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都筑アートプロジェクト2010 ニュータウン+ニュータウン+ニュータウン

会期:2010/10/09~2010/11/05

大塚・歳勝土遺跡公園+都筑民家園[神奈川県]

雨のショボ降るなか見に行く。会場は、弥生時代の竪穴式住居と江戸時代の民家が復元された丘の上の公園一帯で、周囲をニュータウンに囲まれてるため新旧の落差が激しい。そこに切り込めばおもしろい作品が生まれるかも。まず丘に登る途中、ビニール傘でつくったトンネルをくぐる。今井紀彰が子どもたちとコラボしたものだ。今井は竪穴式住居の横にもビニール傘や梱包材で「秘密基地」をつくっていて、これがホームレスの家を思わせ、竪穴式住居との対比が笑える。大谷俊一は二つ出しているが、民家園の裏のなかば埋もれた湯たんぽみたいな作品が傑作。タイトルの《OOPARTS》は、考古学では「場違いな発掘品」といった意味があるらしい。まさにぴったり。阿部剛士の《盆栽-MH》は民家園の庭にキャプションだけ置かれ、近くにはマンホールのふたがあるだけで作品らしきものは見当たらない。考えてみれば民家園にマンホールがあるのも変なので触ってみると、これがプラスチック製の作品だった。マンホールのふたに土がたまり植物が芽を出せば、たしかに盆栽になる。タムラタクミは竹林のなかに約30個のミラーボールをぶら下げて光を当て、まるで月に帰るかぐや姫の送別パーティー。客はタヌキかゲジゲジか。これは愉快。

2010/10/25(月)(村田真)

大西伸明「新しい過去」

会期:2010/10/01~2010/10/30

ナディッフ[東京都]

いつもの入口が閉ざされているため、脇の通用口から入っていくと、ギャラリーいっぱいに銀色のシートに覆われた小屋が建っている。あれ? 大西伸明ってトリッキーな作品をつくる人じゃなかったっけ、小屋のなかにあるのかなと思って周囲をめぐるが、どこからも入れない。奥に錆びた鍵と空気の抜けたバスケットボールが展示され、一部が透明になっていて、ああこれこれ。ありふれた物体を型取りした透明樹脂に色を塗り、オリジナルそっくりに再現した作品。すべて完璧に再現したら「本物」と区別がつかなくなるので、一部を透明なまま塗り残してある。鍵だったら端っこが透明になっているので、鍵そのものが消えかかっているように見えるのだ。問題の小屋も、銀色のシートを透明樹脂で型取り着色した「つくりもの」だった。2階には、有刺鉄線やハイヒール、壊れた椅子、木の葉などが展示され、すべて一部が透きとおっている。これは見事。

2010/10/19(火)(村田真)

村田朋泰「スプライシング」

会期:2010/10/02~2010/10/31

ナディッフ[東京都]

ギャラリーの床に、昭和の香り漂う床屋の縮小モデルが置かれている。10分の1くらいの大きさだろうか、克明に再現された椅子、鏡、洗面台などを上から眺める趣向だ。ギャラリーの壁は黒く塗られ、小さな電灯をいくつか灯しただけで、しかも人物がいないせいか哀愁が漂う。人形アニメの背景としてつくられたんだろうけど、これだけでリッパな作品。

2010/10/19(火)(村田真)