artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

鴻池朋子 展──インタートラベラー 神話と遊ぶ人

会期:2009/07/18~2009/09/27

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

絵画、彫刻、インスタレーション、映像とさまざまなメディアを駆使して、広大なギャラリー空間を1冊の絵本のように編集してしまった力技は、見事というほかない。一つひとつを個別に見ると、絵はイラストっぽかったり、ミラーボールを使ったインスタレーションは学芸会ぽかったりもするが、それをカバーしてお釣りがくるほどの想像力の大きな流れが全体を貫いている。

2009/08/26(水)(村田真)

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手塚愛子 展

会期:2009/07/16~2009/09/09

ケンジタキギャラリー[東京都]

1枚の織物から1色だけ糸を引き抜いてみたり、薄い布にあやとりのようすを刺繍してみたり。糸を手であやつるあやとり自体が刺繍を暗示するが、ここで興味深いのは、布の裏側にたわんだ糸が透けて見えること。その背後の糸は、あやとりのイメージを形成するうえで欠かせないネガの部分を担っているのだ。その半透明の透けぐあいが、ちょうどマティスの何度も描き直したドローイングを想起させることもつけくわえておこう。

2009/08/26(水)(村田真)

絵画の、あつみ

会期:2009/07/25~2009/08/23

練馬区立美術館[東京都]

コレクションを基礎とした企画展示。絵画というと「なにが描かれているか」という表面のイメージばかり気になり、「どこに描かれているか」という厚みをもった物質的側面は無視されがち。その「厚み」に注目した興味深い展示だ。絵具をこってり盛り上げた油絵をはじめ、キャンヴァスの裏側、日本画の表装や油絵の額縁なども見せているが、最大の目玉は、美術館ファサードを覆うガラス面に描いた吉田暁子の作品だ。ガラスに和紙を貼って色を塗り、オバケみたいなものを現出させている。ガラスは物質性が希薄なので厚みを感じさせないが、向こう側の風景も採り込むことができるから、いちばん厚みがある(奥行きが深い)とも言えるだろう。

2009/08/22(土)(村田真)

真夏の夢

会期:2009/08/16~2009/08/30

椿山荘[東京都]

昨年は六本木の住宅展示場で若手アーティストの展覧会を開いた「団・DANS」が、今年は結婚式場で知られる文京区の椿山荘を借りて、庭園と宴会場に作品を展示した。芝生の庭に色とりどりの作品を並べたり(秋好恩)、散策路にありえない標識を立てたり(中田ナオト)、鯉の棲む池に巨大ファスナーを横たえたり(北川純)、明治の元勲・山縣有朋が基礎を築いたという名園でよくこんなことをやらせたもんだと感心する。いくら8月はヒマとはいえ式場はけっこう稼動しているし、新郎新婦が庭に出て池をながめたら巨大なファスナーが浮かんでたなんて、シャレにならないではないか。あ、ファスナーはふたつのものをひとつに結びつけるからシャレになるか。でも、ひとつのものをふたつに分ける機能もあるから、やっぱりシャレにならんわいケーケー。

2009/08/22(土)(村田真)

松本陽子/野口里佳「光」

会期:2009/08/19~2009/10/19

国立新美術館[東京都]

いちおう「光」という統一テーマは設定されているけれど、ひとつの展覧会ではなく、ふたつの個展と見るべきだろう。野口部屋から入ると、まず富士山の写真《フジヤマ》。富士山を撮ったというより、富士山に登って撮った富士山のいわばセルフポートレートだ。そのあと海中写真、ピンホールカメラで撮った太陽、発光しているようにまぶしい雪景色……と続くが、それぞれのおもしろみは伝わってくるものの、全体としてなにをやりたいのかよくわからない。どうもすっきりしないまま、もやもやした気分を抱えながら松本部屋に入ると、こちらはまさにもやもやした絵ばかり。で、ひとつ気づいたのは、松本のいわゆるピンクの絵は床に水平に置いて描かれたものだから、重力感が希薄で、天地の違いもほとんどないことだ。そこで急に野口の写真が気になって戻ってみると、なるほど富士山の斜めの地平線に始まり、重力のほとんど感じられない海中写真や雪景色(水平に展示されている)、地平線が気になる《砂漠で》、タイトルそのものが示唆的な《飛ぶ夢を見た》と、いずれも重力に抵抗する、または重力を意識した写真といっていい。そこでもういちど松本部屋に戻ってみると、近作の緑のシリーズには明らかに天地があり、水平線らしきものが認められるものさえある。画材は、30年続いたピンクのシリーズがアクリルだったのに、緑のそれは油彩になっている。カタログに本人が書いてるところによると、数年前から床置きでの制作がきつくなったため、キャンヴァスを壁に立て、アクリルを油彩に変えたのだそうだ。松本も重力と格闘していたのだ。

2009/08/21(金)(村田真)