artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

アキ・ルミ新作展「庭は燃えている」

会期:2009/09/01~2009/09/29

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

何十枚もの写真をつなぎ合わせたうえに、手描きの図像を重ねたもの。余白がないほど空間をびっしりと埋めて、まるで熱帯密林みたい。一種の空間恐怖症だろうか。

2009/09/01(火)(村田真)

第1回所沢ビエンナーレ美術展:引込線

会期:2009/08/28~2009/09/23

西武鉄道旧所沢車両工場[埼玉県]

所沢駅に隣接する巨大な車両工場跡を会場にしたビエンナーレ。天井からは鉄骨の梁や作業用の足場が吊り下がり、床には引込線のレールが残るハードな空間なので、よっぽど存在感の強い作品でないと負けてしまう。そのため彫刻やインスタレーションが過半数を占め、絵画は細長い一室に追いやられている。しかも壁面をホワイトボードで覆ったうえに絵画を展示しているのだ。ここまでケアが必要なら、いっそ絵画はなくてもいいのでないか。ひとり長谷川繁だけが薄汚れた壁に直接絵画を掛けていたが、この展示は成功していたように思う。やはりこういう場所で見せる以上、空間の読み込みや展示の工夫は絶対不可欠だ。その意味で、森淳一の繊細きわまりない彫刻と、飯田竜太の事典を切り抜いた博物学的アートとでもいうべき作品はとても魅力的だが、この空間にふさわしいとは思えない。逆に、広い会場の中央の天井近くにクス玉を吊るし、ひもを手が届く手前の高さまで下ろした豊嶋康子の《固定/分割》は、この空間をよく読み込んだ作品といえる。しかも感心したのは、その手前にガラス球を吊った石原友明の作品、さらにその手前に球根のようなかたちをした戸谷成雄の木彫が置かれていること。つまり一部が球状になった作品が3つ並んでいるのだ。展示ディレクター(そんな人がいるのかどうか知らないが)のセンスが光る。

2009/08/30(日)(村田真)

長澤英俊 展──オーロラの向かう所

会期:2009/07/18~2009/09/23

埼玉県立近代美術館+川越市立美術館[埼玉県]

最初は北浦和の玉近へ。もう何年ぶりだろう、というくらい久しぶりぶり。長澤の作品は、もの派に似てトリッキーなところがあったり、日本的なものを感じさせる部分もあるが、むしろ構造力学への依存が強く、しかも詩的で物語性にあふれ、日本人には珍しくエレガントだ。天蓋つきのベッドのような《バグダッドの葡萄の木》、壁の上方にとりつけられた1畳部屋みたいな《詩人の家》に惹かれる。多摩美のインテリアデザイン出身と聞いてなんとなく納得。大宮から埼京線に乗って川越に行き、バスで市立美術館へ。まだ新しい美術館で、初の訪問となる。ここにはタイトルにも使われた大作《オーロラの向かう所》がある。なかに入るとほとんど真っ暗だが、目が慣れてくると広い展示室に大理石の列柱が見えてくるというインスタレーション。でもジェームズ・タレルのように純粋な視覚効果をねらった科学的探究とは異なり、神秘のベールをかぶっている。もう1カ所、遠山記念館にも足を伸ばしたかったが、カネも時間もないので断念。

2009/08/30(日)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00005155.json、/relation/e_00005152.json、/relation/e_00005517.json s 1209074

メキシコ20世紀絵画展

会期:2009/07/04~2009/08/30

世田谷美術館[東京都]

最初の部屋に、チラシにも載ってるフリーダ・カーロのエリマキトカゲみたいな《メダリオンをつけた自画像》が1点、うやうやしく飾られている。これを見てがっかりした。いやこの作品はいいんですよ。いいんだけど、それが水戸黄門の印籠のごとく掲げられてるということは、これがこの展覧会の最高の作品ですよ、これに勝る作品はもうありませんと最初に宣言してるようなもんではないか。やっぱ印籠は最後に出さなきゃ。実際、日本の戦前のシュルレアリスム絵画や戦後のルポルタージュ絵画に通じる作品や、壮大な壁画運動を彷佛させるような作品もあってそれなりに考えさせられるが、全体に小粒の作品が多いせいか、なんだメキシコ絵画ってこの程度かよと思ってしまう。リベラかシケイロスの壁画の原寸大レプリカが1点でもあれば、また印象も違っただろうが、まあカネもかかるし、レプリカじゃよけい印象が悪くなりかねないし。

2009/08/27(木)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00005204.json s 1209073

大巻伸嗣「絶・景──真空のゆらぎ」

会期:2009/08/01~2009/11/08

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

トーキョーワンダーサイト(TWS)からステップアップしたアーティストのひとり、大巻伸嗣の個展。ゴミを燃やして生成されたスラグという砂状の物質を、デ・マリアの「アースルーム」のごとく2階のギャラリーいっぱいに敷きつめ、1カ所に穴を開けて1階の床に山をつくったり、別の部屋では黒い空間にスラグで土手をつくり、水をたたえて舟を配し、正面の壁に都市のイメージを映し出したりしている。大巻はTWSとともにゴミや環境問題についてのリサーチを続けているというが、まだ「作品」としてこなれてないように思う。

2009/08/27(木)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00005531.json s 1209072