artscapeレビュー
松本陽子/野口里佳「光」
2009年09月15日号
会期:2009/08/19~2009/10/19
国立新美術館[東京都]
いちおう「光」という統一テーマは設定されているけれど、ひとつの展覧会ではなく、ふたつの個展と見るべきだろう。野口部屋から入ると、まず富士山の写真《フジヤマ》。富士山を撮ったというより、富士山に登って撮った富士山のいわばセルフポートレートだ。そのあと海中写真、ピンホールカメラで撮った太陽、発光しているようにまぶしい雪景色……と続くが、それぞれのおもしろみは伝わってくるものの、全体としてなにをやりたいのかよくわからない。どうもすっきりしないまま、もやもやした気分を抱えながら松本部屋に入ると、こちらはまさにもやもやした絵ばかり。で、ひとつ気づいたのは、松本のいわゆるピンクの絵は床に水平に置いて描かれたものだから、重力感が希薄で、天地の違いもほとんどないことだ。そこで急に野口の写真が気になって戻ってみると、なるほど富士山の斜めの地平線に始まり、重力のほとんど感じられない海中写真や雪景色(水平に展示されている)、地平線が気になる《砂漠で》、タイトルそのものが示唆的な《飛ぶ夢を見た》と、いずれも重力に抵抗する、または重力を意識した写真といっていい。そこでもういちど松本部屋に戻ってみると、近作の緑のシリーズには明らかに天地があり、水平線らしきものが認められるものさえある。画材は、30年続いたピンクのシリーズがアクリルだったのに、緑のそれは油彩になっている。カタログに本人が書いてるところによると、数年前から床置きでの制作がきつくなったため、キャンヴァスを壁に立て、アクリルを油彩に変えたのだそうだ。松本も重力と格闘していたのだ。
2009/08/21(金)(村田真)