artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
レオナール・フジタ展
会期:2009.06.12~2009.07.21
そごう美術館[東京都]
再発見された4点の幻の大作を目玉に、昨年「レオナール・フジタ展」が全国を巡回したが、これも同じかと思ってのぞいたら、壁画を中心に再編成されたものだという。乳白色の地に面相筆による繊細な線描を売りとするフジタには、勇ましい壁画の大作は似合わないが、これが契機となってのちの戦争画や戦後の教会のフレスコ画にいたるとすれば、画家の生涯にとってきわめて重要な作品に位置づけられる。結果的に成功したにせよ失敗したにせよ、人気の高い乳白色の画面を打破しようとした点に、フジタの不屈の画家魂を見てとることができる。
2009/07/02(木)(村田真)
戦争画の相貌──花岡萬舟連作
会期:2009.06.15~2009.07.11
早稲田大学會津八一記念博物館[東京都]
ぜんぜん知らなかったが、花岡萬舟は日本画も洋画も手がけた画家。その彼が描いた戦争画57点が2年前に會津八一記念博物館に寄贈され、約半数が修復を終えて公開されているのだ。まず見て驚くのは絵がヘタなこと。作品サイズも変化に乏しく、絵画形式には無頓着だったこと。彼は長く中国大陸にいて、日本軍の工作員のような任務にもついていたという。よくあるような従軍画家ではないし、頼まれて戦争画を描いたわけでもないらしい。彼自身、作品の出来映えをほとんど気にしなかったそうだ。つまり、日曜戦争画家? 作品よりむしろ画家本人に興味がわいてくる。
2009/07/01(水)(村田真)
名和晃平「L_B_S」
会期:2009/06/19~2009/09/23
メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]
鹿の標本を水疱瘡のように透明の球体でびっしりと覆ったり、仏像やベビーカーなどの表面にカビが生えたようにポリウレタン樹脂を吹きつけたり。これらは彫刻の表面性やテクスチュアなどの問題に対するひとつの解だろうか。不思議だったのは、水槽に粘性の強い乳白色の液体を入れ、下からグリッド状にボコボコと泡立てる作品。これはなんだろうと思ってふと目をあげると、この空間を特徴づけるガラスブロックの窓(というより壁)が目に入った。作者がどこまで計算したかは知らないけれど、このグリッド状のボコボコ泡の液体と、量塊感のある半透明のガラスブロックが奇妙な共鳴を起こしているのだ。
2009/06/30(火)(村田真)
青木野枝作品展「空の粒子」
会期:2009/06/09~2009/07/01
ツァイト・フォト・サロン[東京都]
中国あたりで撮ったらしいボケ写真を丸く切ってつなげたり、四角いまま並べたりした写真作品。というかコラージュ作品。というか、ひょっとして彫刻作品? みたいな、どうにも落としどころが見つからない座り心地の悪い作品ではある。それゆえクセになりそうな。
2009/06/30(火)(村田真)
松山賢「地図」
会期:2009/06/06~2009/07/18
ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アート[東京都]
ますます悶絶技巧の冴える松山画伯だが、今回は女性の肌にレース模様が重なる艶かしい絵。思い出すのはギュスターヴ・モローの描くサロメ、なかでも《刺青のサロメ》と通称される絵だ。これはサロメの白い裸身がアラベスクでびっしりとおおわれ、題名のごとくそれが刺青にも見えるというもの。実際には衣装の模様なのだが、それを描きかけのまま残すことで異様な効果を生み出した。モローはルネサンス以来対立する線と色という絵画の二項対立を、1枚の絵のなかで融合させずにあえて分離することで、線描重視の古典主義にも色彩重視のロマン主義にも与しないみずからの立場を表明したのだ。してみると、松山画伯もついに古典主義ともロマン主義とも訣別するお覚悟を決められたのだろうか。19世紀かお前は。
2009/06/30(火)(村田真)