2020年12月01日号
次回12月15日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

奈義町の建築をまわる

[岡山県]

公共交通機関だと、かなり時間がかかるため、いつも断念していた磯崎新の《奈義町現代美術館》(1994)をついに訪問した。第三世代の美術館論で知られる建築であり、やや観念的な作品だと思っていたが、実空間は想像以上によかった。特に宮脇愛子、岡崎和郎、荒川修作+マドリン・ギンズのアートとの絡みが緊張感を伴い、素晴らしい。21世紀に入り、サイトスペシフィックなアートは、各地の芸術祭で当たり前になったが、《奈義町現代美術館》は、こうした動向を先駆けている。実際、インスタ映えを目的にした若いカップルの来場者が多かった。

現在、おいしいピザ屋が入る別棟のレストランは、eurekaがリノベーションを担当し、開放的な空間になっている。彼らは奈義町の街づくりに関わっており、景観のコード策定に協力したり、《しごとスタンド》(旧ガソリンスタンド、2017)などを手がけた。これは高さの違う間仕切りを入れ、通路部分をむしろ子供スペースとする逆転の計画である。限られた予算のなかで、サインも工夫している。



磯崎新《奈義町現代美術館》



ガソリンスタンドをEurekaが改装した《奈義町現代美術館》レストラン棟



ナギカラ、熊本大学景観デザイン研究室、Eureka、Tetor、ktmm《しごとスタンド》


eurekaとTetorによる《ナギテラス》(2018)は、特筆すべきプロジェクトである、これはバスや通学など、交通の結節点にたつ、多世代が交流する公共施設だ。異なる向きの小さい屋根の連なりに分節し、さまざまな高さの視点場を設けながら、ランドスケープと連動して、中央を貫通する坂道をつくる。新築というよりは、増改築を重ねて、生まれたようなデザインにも見える。



稲垣淳弥+佐野哲史+永井拓生+堀英祐/Eureka、山田裕貴+山本良太/Tetor《奈義町多世代交流広場 ナギテラス》


奈義町では、思いがけない建築や人物とも遭遇した。アーティストの花房徳夫が、セルフビルドによって工場を改造した《gallery FIXA》(2017)と《café calme》(2020)も、とてもカッコいい空間だった。ここの壁に飾られていた絵になんとなく見覚えがあり、聞いてみると、鈴木紗也香の作品だと判明する。愛知芸文センターにおけるアーツ・チャレンジ2013の展示で、壁紙と絵画が不思議な関係をつくる彼女の絵を見ており、窓学的にも面白い作品だったことから印象に残っていたからだ。実際、窓がある室内の絵を多く描き、図と地の関係が曖昧になる独特の平面性を構築している。現在、鈴木はカフェの隣にアトリエを構え、そこで絵画教室も開いているという。



花房徳夫がセルフビルドで工場を改造した《café calme》



《café calme》の隣にある鈴木紗也香のアトリエ



アーツ・チャレンジ2013に展示されていた鈴木紗也香の作品群

2020/10/03(土)(五十嵐太郎)

MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020

会期:2020/08/12~2020/11/03

国立新美術館 企画展示室1E[東京都]

本来、これは東京オリンピック2020を祝福する企画のひとつとして凱旋帰国展が準備されていたものだと思われるが、当のオリンピック開催のタイミングがずれてしまったため、キャンセルされた世界都市博が本来開催されるはずだった1996年の「近代都市と芸術展」や「未来都市の考古学」展(いずれも東京都現代美術館)のような位置づけになった。

さて、筆者は2018年にパリで開催された「MANGA⇔TOKYO」展(以下、パリ展)を鑑賞しているので、そちらと「MANGA都市TOKYO」展(以下、東京展)とを比較したい。内容はほぼ同じだが(導入部の店舗、レッドカーペット、絵馬の企画などがなくなった一方、いくつかコンテンツが増えたようにも思われた)、会場の雰囲気が違う。パリ展の写真を何枚か紹介してみよう。


パリのラ・ヴィレットで開催された「MANGA⇔TOKYO」展会場


(東京展にはない)レッドカーペットが出迎えてくれる



パリ展における巨大な東京模型と壁面の映像



パリ展における『AKIRA』と『エヴァンゲリオン』の展示


本展の最大の目玉である巨大な東京模型と映像のスクリーンについては、東京展の会場・国立新美術館も天井はそれなりに高いのだが、パリ展を見ている身からすると小さすぎる。なにしろラ・ヴィレットの会場は最大で21mの天井高があり、それに負けない存在感を模型と映像が示していたからだ。一方の東京会場は、漫画やアニメの小さい原画にとっては高すぎるホワイト・キューブである。パリ展の原画展示エリアは、もう少し背が低い黒い壁の連続だった。また東京会場では、パリ展よりも模型に近づけるのだが、その分、やや粗が見えてしまう。やはり、森ビルが制作している東京模型ほどの精度はない。


こちらが東京展における東京模型と壁面の映像


東京展における東京模型。映像にあわせて舞台にスポットライトがあたる。写真は都庁の瞬間

とはいえ、ただ日本のオタク文化を漫然と紹介するのではなく、東京という切り口を設けたことは展示の骨格を明快にしており、評価できるだろう。また最終パートの都市空間に飛び出るキャラは、ゲスト・キュレーターの森川嘉一郎による20年前から変わらないテーマを表現している。

「MANGA都市TOKYO」展は、各種作品の場所をインデックス化する作業を行なったことが成果だろう。ただし、その先として、どのような手法で、その場所を描いたかという細かい分析が欲しい。個別の作品キャプションには、そうした説明がまったくないので、欲求不満になってしまう。むしろ、キャプションの文章を読むと、展示側ではなく、おそらく出品者側が書いたと思われる物語の内容に関する説明に終始していた(宣伝風の文体も、キュレーターが執筆したとは思えない)。パリで紹介する際は、そもそも作品の基本説明が求められるだろうが、日本で行なうならば、有名な漫画やアニメの粗筋を少し減らしてでも、表象の分析を深めた方がよかったのではないか。

なお、パリ展でも簡素なカタログだったが、東京展のカタログも展覧会のメイキング的な側面が強く、企画の成果であるインデックスの一覧が収録されていない。画像などは権利関係で掲載が難しいのかもしれないが、せめてリストがあると資料的な価値が高まったのではないか。また展示では、原画のオリジナルと複製が混ざっていたが、その境界線も興味深い。


初音ミクのコンビニは、パリ展でも東京展でもほぼ同様だった


公式サイト:https://manga-toshi-tokyo.jp/

関連レビュー

ジャポニスム2018 「MANGA⇔TOKYO」/「縄文─日本における美の誕生」|五十嵐太郎郎:artscapeレビュー(2018年12月15日号)

2020/09/27(日) (五十嵐太郎)

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建築学生ワークショップ東大寺2020

東大寺 大仏殿 北側[奈良県]

毎年秋の恒例となっている、NPO法人アートアンドアーキテクトフェスタが主催する建築学生ワークショップだが、今年はコロナ禍によって筆者がレクチャーを行なう予定だった説明会がキャンセルされるなど、スケジュールの遅れはあったものの、無事、奈良の東大寺で行なわれた。

これまで伊勢神宮、出雲大社、比叡山の延暦寺、明日香村のキトラ古墳など、名だたる古建築を舞台に開催されてきたが、いよいよ東大寺である。重源が手がけたダイナミックな構造の南大門が残っており、とりわけ建築家にも人気の古建築である。公開の最終講評会に訪れたら、なんと大仏殿の背後に椅子や机が並べられていた(感染予防にも良いだろう)。いつもの講評会は関連施設の会館などが使われていたが、今回は会場が屋外であり、幸い雨も降らず、朝から夕方まで、ずっと目の前の大仏殿を眺めながら、学生の発表を聴くという至福の体験だった。これは忘れがたい講評会になるだろう。実際、このエリアがイヴェントで使われることはほとんどなく、プリツカー賞の授賞式など、特別な機会に限られる。


大仏殿背後の会場


大仏殿前の作品

ワークショップでは、全国から集まった学生が8チームに再編され、東大寺の境内のあちこちに作品がつくられた。大仏殿や鐘楼の正面、宝庫や二月堂の近く、講堂跡などがサイトになっていたが、ぐるっとひとまわり歩くだけでもかなり広範囲である。明らかに例年よりも広く、東大寺のスケールの大きさを感じさせる。


南大門前の木の皮を使った作品


宝庫前の石を用いた作品


二月堂の階段に続く作品

このワークショップは、ただ絵を描いて終わりではなく、学生がプロの協力を得て、実際にリアルな構築物をつくることが醍醐味だ。しかも佐藤淳や腰原幹雄らが講評に参加し、構造や構法のレベルで細かいコメントがなされるのが、ほかのワークショップにはない最大の特徴である。筆者も歴史建築の再訪だけでなく、それを楽しみに毎年参加している。

さて、今年の作品は、東大寺からパワーをもらったせいか、例年より作品の水準が高かった。また石、鹿せんべい、木の皮など、作品に使われた素材もユニークである。めずらしく、音をテーマにした作品もあった。惜しむらくは、重源が採用した大仏様に対する解釈を組み込んだ作品がなかったことだろうか。


鹿せんべいを練りこんだ作品


鐘堂前の音をテーマにした作品


公式サイト:https://ws.aaf.ac/

関連レビュー

建築学生ワークショップ伊勢2018 提案作品講評会|五十嵐太郎:キュレーターズノート(2018年09月15日号)

2020/09/20(日) (五十嵐太郎)

熊本城見学通路、熊本市現代美術館、熊本草葉町教会、オモケンパーク

[熊本県]

熊本に日帰りで出かけ、日本設計が手がけた《熊本城見学通路》を「見学」した。2016年の震災で熊本城が被害を受けたことから、現在、内部に入ることができない。そこで修復中の城を外から見学するための通路である。建築のメディアなどでは、カッコいい俯瞰や見上げの写真が紹介されているが、実際、現地を訪れると、当然ながら、そのような見え方を追体験することはできない。だから、ダメというわけではない。なにしろ、これは城を見るための構築物であり、それ自体が目立ってはまずいだろう。あくまでも脇役に徹しなければいけない。


日本設計が手がけた《熊本城見学通路》


2016年の震災で崩れた熊本城の石垣

もっとも、思いがけず楽しめたのは、空中を散歩するような体験だった。熊本城自体は、すでに明治時代に焼失しており、再建されたものである。むしろ、文化財として重要なのは、城壁やまだ地面の下に眠っているかもしれない遺構だ。したがって、杭を打つなどの工事はできず、コンクリートの置き基礎としたり、通路がカーブする部分ではリングガーダー構造を採用するなど、通路を支えるデザインも工夫されている。


空中を散歩するような《熊本城見学通路》


通路のカーブにはリングガーダー構造が採用されている

商業施設の上部に入る《熊本市現代美術館》は、企画展が開催されていないタイミングに加え、コロナ禍ということもあり、内部はとても静かだった。初めて訪れた木島安史による《日本基督教団 熊本草葉町教会》はコンクリートの箱に対し、正面のファサードに巨大な金色の十字架が立つ。内部に入ることはできなかったが、独特の色使いやオブジェ的なディテールは、プレチニックを想起させた。


《熊本市現代美術館》


木島安史《日本基督教団 熊本草葉町教会》

その後、震災で空き地になった商店街の一角に挿入された、矢橋徹による《オモケンパーク》に立ち寄り、カフェで過ごした。アーケード街に面し、両側は目一杯までビルが立っているのに対し、ここはぽっかりと穴が開きつつも、存在感のある小さな構築物をぽつんと置く。店舗の背後の庭やルーフバルコニーなど、屋外の空間も楽しむことができる。こうした開放的かつ余裕のある空間の使い方は、東京の都心では不可能であり、地方都市ならではかもしれない。ここでは、マルシェや坂口恭平らのイヴェントなども行なわれるという。


矢橋徹《オモケンパーク》

2020/09/17(木)(五十嵐太郎)

式場隆三郎:脳室反射鏡

会期:2020/08/08~2020/09/27

新潟市美術館[新潟県]

もう現存しないが、奇妙な住宅について記録した式場隆三郎の著作『二笑亭綺譚』(1937)の新装版(2020)に筆者は寄稿したので、どこかの巡回先で行こうと思っていたのが、この「式場隆三郎:脳室反射鏡」展である。それが実現したのは新潟市美術館だったが、精神科医の式場はもともと新潟出身で、イントロダクションとなる展示においても医学関係の資料は、地元の新潟大学から借用していた。彼が医学を学びながら、一方で早くから文芸や芸術に関心をもっていたことが、よくわかる。式場が多くの著作を刊行していたことは知っていたが、それ以外の様々な領域におよぶ、八面六臂の活躍ぶりに改めて驚かされた。なるほど、アーティストではない彼をめぐる美術展が成立するわけである。

具体的にいうと、彼は専門の領域に閉じない、一般層にも訴えるプロデューサーとして、大きな影響力をもっていた。例えば、現在ならばアール・ブリュットと呼ばれるであろう「特異児童画」への注目、ゴッホの国内紹介、山下清の発掘、草間彌生のデビューに関わったこと、民芸や三島由紀夫との関係、そして病院はもちろん、伊豆のホテル経営などである。ちなみに、ようやく二笑亭が登場するのは、展示の最後のパートだ。ここでは新装版に収録された木村荘八の挿絵や、この建築に触発されたインスタレーションなどが展示されていた。

全体を観ていくと、無垢なる天才というようなステレオタイプの芸術家像を一般に流通させたのも、彼だったのかもしれないと思ったが、専門の美術史家でもなく、美術批評家でもない精神科医が、これだけの活動をしたことは率直に驚かされる。

個人的に一番、関心を抱いたのは、1950年代に国内の各地を巡回し、大きな反響を呼んだゴッホ展だった。これはオリジナルの作品ではなく複製画によって構成されていたが、それゆえに様々な場所での開催も可能となり、多くの日本人が初めて観るゴッホとなったのである。展覧会では、そのときの複製画や当時使われたキャプションが一堂に会し、さらに写真資料などを使い、当時の会場の雰囲気まで再現されていた。現在、ホワイトキューブでオリジナルの名画を鑑賞するのが当たり前になったが、敗戦から10年の日本人がこのように美術を受容していたことを知る貴重な内容である。


巡回会場である、新潟市美術館の外観

関連レビュー

式場隆三郎:脳室反射鏡|村田真:artscapeレビュー(2020年07月01日号)

2020/09/12(土)(五十嵐太郎)

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