2021年06月15日号
次回7月1日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

八戸の文化施設をまわる

[青森県]

西澤徹夫+タカバンスタジオが設計した《八戸市美術館》の現場を訪れた。すでに工事はおおむね終了しており、広場などが整備され、オープンを待つ状態だったが、やはり印象的だったのは、高さ18mに及ぶ「ジャイアント・ルーム」である。頭上から明るい光を導き、工場のような空間だった。


偶然かもしれないが、実は八戸は、臨海部に工業地帯を抱えた工場のまちでもある。それゆえ、2013年から「八戸工場大学」(八戸工業大学の間違いではない。念のため)という事業を推進している。これは工場景観や産業遺産を学んだり、プロダクトに関連するワークショップを開催するほか、アートプロジェクトを行なうものだ。例えば、2018年に解体される煙突をライトアップする「さよなら、ぼくらの大煙突」が実施されている。かつて刊行されていた青森エリア限定でとりあげる建築雑誌『Ahaus(アーハウス)』3号(2005)でも、八戸セメント株式会社や八戸火力発電所など、八戸の産業遺産が紹介されていた。こうして考えると《八戸市美術館》は、そのスケール感覚において地域の文脈を継承したのかもしれない。



床に示された、新しい《八戸市美術館》のプラン


八戸の工場を推したり、《八戸市美術館》の活動場所にも使われているのが、《八戸ポータルミュージアム はっち》(2011)だ。はっちとは、「市の玄関口となる博物館」をコンセプトに掲げ、産業、産物、歴史など、様々な切り口からまちの魅力を展示する小さなブースやエリアの集合体である。インフォメーション・センターが立体化したような建築だが、レジデンスや展覧会など、アートプロジェクトも推進している。



《八戸ポータルミュージアム はっち》外観



《はっち》内にある、八戸の工場紹介コーナー



《はっち》内にある展示ブースの様子



八角形をした《はっち》の吹き抜け


実は、まちづくり文化推進室が、はっちや《八戸市美術館》を担当しており、ほかに書店を運営する《八戸ブックセンター》(2016)や、屋内型広場の《マチニワ》(2018)なども関わっている。すなわち、アートと文化によるまちづくりを明快に打ちだしており、一連の流れにおいて《八戸市美術館》は位置づけられているだ。2011年から南郷アートプロジェクトも継続しており、突然、ハコものが整備されたわけではない。



《八戸ブックセンター》店内の様子



《マチニワ》の内部


なお、《八戸市美術館》は、建築計画の佐藤慎也が館長に就任し、さらに《十和田市現代美術館》、《青森県立美術館》、《国際芸術センター青森》、《弘前れんが倉庫美術館》と、青森県内の建築デザインが特徴的な5館の連携協議会を発足している。オープン後、どういう展開をするか楽しみだ。

参考サイト:
青森アートミュージアム5館連携協議会:https://aomorigokan.com

2021/01/22(金)(五十嵐太郎)

山形 美の鉱脈 明治から令和へ

会期:2020/12/10~2021/01/31

山形美術館[山形県]

サブタイトルに「明治から令和へ」とあるように、山形美術館の収蔵品を中心に展示し、一挙に蔵出しする内容だった。全体は1章「肖像 自己と他者」、2章「かたち ミディアムの可能性」というふうに6章に分かれているが、ところ狭しと並べられた作品数が膨大なので、個別の説明はなく、キャプションも壁につけられず、番号を見ながら、ハンドアウトで作家名と作品名を確認することになる。山形的なるものを基調としようとしているが、作品を絞って選んだわけではなく、またテーマも大づかみにならざるをえないので、むしろ鑑賞者の読解に委ねられるだろう。読みとるラインはさまざまだが、鉱脈の中で際立つのは、6章「場所 アノニマスとコレクティヴ」における三瀬夏之介らの試みである。2009年に東北芸術工科大学でスタートとした「東北画は可能か?」のプロジェクト、1930年代の東根市長瀞小学校における想画教育の再発見、文化財を修復する「現代風神雷神考」などだ。彼らの活動からは、決まった枠組に収束し、排他的になっていく地域性ではなく、開かれた地域性への志向が読みとれる。

さて、1964年に開館した《山形美術館》は、実は公立ではない。《青森県立美術館》が2006年にオープンしたとき、これで全国の都道府県に県立美術館が揃ったと思っていたが、山形県はまだなのである。展示の途中、壁に大きな年表があって、これが興味深い。戦後のかなり早い時期に、美術館設立の動きがあったものの、地元の美術家が公立化に反対したという。なぜか。敗戦前の官による検閲の苦い記憶があったからだ。そうした意味では、公立化には動きが早すぎたのかもしれないが、一方で近年、自己検閲が再び注目されていることを想起すると、これは過去の話ではない。その結果、民間の山形新聞が音頭をとって、県と市が協力して美術館が設立された。なお、現在の建築は、開館から20年程で建て替えられ、1985年に再オープンした二代目である。地元で多くの建築を手がけ、家型のデザインを作風とする本間利雄が設計した。やはり、大きな切妻屋根が印象的な建築だが、外観の壮大さに比べると、内部に吹き抜けはなく、展示室もそこまで大きくない。また、常設の吉野石膏コレクションは、フランス近代絵画の教科書的な作家を揃えており、後発の地方美術館にはないものだ。


本間利雄設計の《山形美術館》。大きな切妻屋根が印象的だ

2021/01/20(土)(五十嵐太郎)

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GUNDAM FACTORY YOKOHAMA

会期:2020/12/19~2022/03/31

山下埠頭[神奈川県]

実物大のガンダムは、すでに2009年からお台場や静岡などで展示されており、ただ野外で立っているだけなら、わざわざ横浜まで足を運ぶつもりはなかったが、今回はついに動くというので、時間指定の予約をとって訪れた(なお、高所で真横から見学できるドック・タワーの観覧席は、平日でも売り切れだった)。



横浜の山下埠頭に設営されたGUNDAM FACTORY YOKOHAMA会場



鉄骨フレームのドック・タワーに固定されている、実物大のガンダム像


いきなり富野由悠季のあいさつで「ちゃんと歩かせることができなくて申し訳ない」という一文があるのだが、実際、地上レベルから見ると、基壇のような壁で囲うことによって巧妙に隠されてはいたものの、両足は浮いており、確かに動くけれども歩いて前に進んでいるわけではない。これまでもそうだったように、ガンダムは単独で立っているわけではなく、鉄骨フレームの格納庫ドック・タワーに背中をつけている(正確に言うと、格納庫に固定して安定させないと動かせないのだろう)。が、これに関連する展示が予想外におもしろかった。すなわち、ガンダムを車両扱いできないことから(そう言えば、パトレイバーは特殊車両の扱いだった)、高さ18mの建築(5、6階のビルに相当)としてのガンダムをどう動かすのかについての、言わば『プロジェクトX』なのである。



巨大像の足元からガンダム像を見上げる観客たち



まさに歩き出さんとする瞬間のガンダム像


展示からは、各ジャンルの専門家や企業が結集し、このプロジェクトを推進させたことがうかがえる。そして工学・情報系技術の苦労と工夫が具体的に説明されていた。特に興味深いのは、いくつかのボツ案を紹介しつつ、なぜそれが採用されなかったかの理由が示されていたことである。例えば、射出カタパルトで加速する?(広い敷地が必要なうえに、先端で減速させる残念な演出になる)、トレーラーから起き上がる?(それ以外の演出に幅がない)、足下に台車を置いて歩かせる?(すり足歩行はガンダムらしくない)、などだ。



技術協力したパートナー企業のメッセージパネル



5G通信を利用して、まるでコックピットに搭乗したかのような体験が味わえる「GUNDAM Pilot View SoftBank 5G EXPERIENCE」


そもそも、モビルスーツが人型であることに大きな無理があることもわかる。目的を決めて、最適化させると、ほかの形態のほうが合理的なはずだ。しかし、ガンダムのような不動人気のコンテンツでなければ、このようなプロジェクトが成立しえないのも事実だろう。それゆえ、ここでのエンターテインメントへの努力は、将来、何らかのかたちで実際の技術にフィードバックされるはずだ。ところで、1970年の大阪万博で磯崎新が担当した動く巨大ロボットの《デメ》は、これより少し小さい14mである。ただし、足はない。



リアルタイムのガンダム稼働情報が表示されるARウインドウ


公式サイト:https://gundam-factory.net/

2021/01/19(火)(五十嵐太郎)

「フランシス・ベーコン」展と葉山周辺の建築

会期:2021/01/09~2021/04/11

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

久しぶりに葉山の神奈川県立近代美術館を訪れた。というのも、1月9日にスタートした「フランシス・ベーコン」展が、政府の1月7日の緊急事態宣言を受けて、12日から臨時休館となることが決まったので、急いで出かけたからだ。実際、この原稿を書いている時点でも、さらに緊急事態宣言が1カ月延長されたことを受け、同展はいまだ再開に至っていない(会期は4月11日まで)。つまり、現時点ではわずか3日間しか開催されていない。個人的な意見だが、美術館は人がそこまで密になる場ではないし、しゃべらないようにすれば、ほとんど問題がないと思うのだが、もったいない。


《神奈川県立近代美術館 葉山》の外観。設計は佐藤総合計画


さて、バリー・ジュールのコレクションによる展示は、完成された有名なベーコンの作品ではなく、その構想のスケッチ、本や雑誌の人物写真への描き込み、そして最初期の作品を紹介していたことで、非常に新鮮だった。ミック・ジャガー、プレスリー、グレタ・ガルボ、ヒトラー、ケネディらの肖像、メイプルソープの作品、ボクシングを含むスポーツや電気椅子の処刑場面の写真など、既存のイメージに手を加えることで、完全にベーコンの世界に変容していた。また結局、作品化されず、ありえたかもしれない他の作品の可能性も、圧倒的である。以前、あいちトリエンナーレ2013の長者町ビジターセンターで、一日店長を泉太郎がつとめ、ライブで似顔絵を描くイベントをやったのだが、その辺の雑誌を適当にめくって、下地になる写真を素早く選び、少し加筆するだけで、似顔絵が成立していた。そのときアーティストの力に感心したが、ベーコンの加筆も驚くべき技である。

ベーコンがアイルランド生まれということで、同時開催のコレクション展は「イギリス・アイルランドの美術─描かれた物語」だった。主に文学との絡みで作品を紹介し、中世の装飾本に学んだウィリアム・ブレイクや、英国らしさを打ち出したホガースの版画、渦巻派に接近した久米民十郎、ストーンヘンジを取材したヘンリー・ムーア、小説『ユリシーズ』を題材としたリチャード・ハミルトンなど、興味深いセレクションである。


併設のレストランからは海が見える《神奈川県立近代美術館 葉山》


なお、美術館の向かいは、芦原義信による《富士フイルム葉山社員寮》があったのだが、現在は改装されて《四季倶楽部 プレーゴ葉山》 になっており、宿泊できるようだ。また坂を登ると、吉田五十八が既存家屋を増改築した《山口蓬春記念館》がある。とくにモダンな意匠による大開口をもつ画室や、桔梗の間は、気持ちがよい空間だ。また住宅を展示空間に変えたリノベーションは大江匡によるもので、ポストモダン的なデザインである。


芦原義信が手掛けた《富士フイルム葉山社員寮》は現在《四季倶楽部 プレーゴ葉山》に改装された



吉田五十八の設計による《山口蓬春記念館》の画室



中庭から見た《山口蓬春記念館》の外観。住宅を大江匡が展示空間にリノベートした

2021/01/10(日)(五十嵐太郎)

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燃ゆる女の肖像

18世紀のフランス革命前のフランスにおいて、女性の画家マリアンヌが、見合いに使うために、伯爵夫人の娘エロイーズの肖像画を描くことを依頼され、小舟に乗って、ブルータニュの島に渡るところから物語は始まる。言うまでもなく、リンダ・ノックリンが「なぜ女性の大芸術家は現われないのか?」(1971)で論じたように、あるいはゲリラ・ガールズが、女は裸にならないと美術館に入れないのか(すなわち、作品の題材としてのみ消費されている)と抗議したように、美術史は男性中心の世界観でつくられてきた。そうしたジェンダー論的な意味で、実在はしていたが、歴史に埋もれていた女性の画家(ただし、本作は架空の画家を設定している)を主人公とした映画という意味で画期的な作品である。また映画に登場する画家も、しばしば男性だろう。しかも本作では、マリアンヌとエロイーズの秘められた恋愛を通じ、クィアの切り口もあわせもつ。そもそも、この映画の島のシーンでは、ほとんど男性が登場しない。召使いのソフィ、そして島の女たち。しかし、冒頭と最後に描かれる都市は、男社会である。

とにかく、全編映像が美しい。それだけでも十分に見る価値のある傑作だ。さらに絵描きの映画というジャンルから考察しても、ここまで丁寧に見る/見られるの関係を主題化したのは稀かもしれない。エロイーズを見るマリアンヌの顔が、繰り返し登場する。最初は散歩をしながら観察し、後から記憶で描くのだが、途中からはモデルになった彼女を凝視するのだ。じっとしているマリアンヌもまた、エロイーズを同じように見ている。一方的なまなざしではない。交差する視線の映画である。そして冥界から妻をとりもどす詩人が「決して振り返ってはならない」と警告される、オルフェウスの伝説をめぐる会話が効果的に挿入されている。それは、二人が離れた席にいる劇場のラストシーンにおいて、いやおうなしに思い出されるだろう。ところで、映画がよかったので、パンフレットを購入したのだが、あらすじをなぞるような文章ばかりで、内容が薄いのが残念だった。せめて美術史やジェンダー論の専門家に寄稿を依頼すべきだろう。


公式サイト:https://gaga.ne.jp/portrait/

2021/01/04(月)(五十嵐太郎)

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