2019年08月01日号
次回9月2日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

《ソウル都市建築展示館》

ソウル都市建築展示館[韓国・ソウル]

市長の肝いりで完成した《ソウル都市建築展示館》のオープニング・シンポジウムに出席した。日本統治時代の建物の跡地を敷地とし、景福宮にも近い抜群のロケーションである。コンペで選ばれたターミナル7・アーキテクツが設計した。背後の古い教会が大通りからよく見えるように、ほとんどの施設を地下に埋め、屋上は柱の痕迹だけを残しつつ、公園のようなオープンスペースとして開放している。1階にカフェがあり、大階段に誘われて、降りていくと、途中でソウルの歴史や都市を紹介するギャラリーが視界に入り、一番下に到着すると、大きな展示空間が広がる。ここは屋根の下とはいえ、完全な室内ではなく、屋外の延長になっているのは興味深い。また市庁舎がある向かいの道路側には、地下の通路からアクセスでき、ここにも街の紹介を展示している。

この施設を「ソウル都市建築展示館」と呼ぶと簡単なのだが、英語の表記では「ミュージアム」ではなく、「ホール」であり(ちなみに、英語の名称は「Seoul Hall of Urbanism & Architecture」で、略称は「Seoul Hour」)、やはり正確にいうと、建築「博物館」ではない。それはオープニングの午前のセッションにおいて、モントリオールのカナダ建築センター(CCA)のジョヴァンナ・ボラシに加え、巨大な都市模型を置くシンガポール・シティ・ギャラリーのサブリナ・コーが発表したことからもうかがえる。都市計画を市民に提示する後者の性格が強いからだ。なお、オープニングの企画展示は、ウィーンの集合住宅の歴史と建築家の社会的な役割がテーマとなっており、筆者は後者の展示協力を行なった。その展示では、かつてゲスト・キュレーターとして参加した金沢21世紀美術館の「3.11以後の建築」展と同様、伊東豊雄らによる「みんなの家」、はりゅうウッドスタジオの木造仮設住宅群、被災地における坂茂の試みが紹介された。したがって、それぞれの展示内容は、午後のシンポジウムのセッションのテーマとなり、筆者と芳賀沼整が発表した。

《ソウル都市建築展示館》外観


《ソウル都市建築展示館》屋上から市庁舎を望む。柱跡も見える


《ソウル都市建築展示館》大階段


《ソウル都市建築展示館》都市インフラの展示


《ソウル都市建築展示館》ウィーンの集合住宅についての展示


《ソウル都市建築展示館》「みんなの家」の展示


《ソウル都市建築展示館》被災地における坂茂の試みと、はりゅうウッドスタジオの木造仮設住宅群の展示

2019/03/29(金)(五十嵐太郎)

菊池聡太朗「ウィスマ・クエラ」

会期:2019/03/26~2019/04/03

ギャラリーターンアラウンド[宮城県]

東北大の五十嵐研の大学院を修了した菊池聡太朗の個展が、仙台の現代美術のギャラリーターンアラウンドで開催された。インドネシアのカリスマ的な建築家マングンウィジャヤによるジョグジャカルタの自邸《ウィスマ・クエラ》をタイトルに掲げているように、彼が図面なき増殖建築に魅せられ、その記録写真や記憶を独自のインスタレーションとして表現したのである。おそらくマングンウィジャヤは日本で無名と思われるが、カンポンのプロジェクトによって、イスラム世界の建築を顕彰するアガ・カーン賞を受賞している。独自の建築哲学をもち、職人集団と活動しながら、きわめて異形のデザインを行なっていた。彼のデザインは、広義には装飾性がポストモダンと呼べるのかもしれないが、ある種のヘタウマ的なテイストで、既存のカテゴリーに括ることが難しい。特に自邸は、彼の死後も日常的に小さな増改築が繰り返され、建築や家具などの境目も曖昧になっている。

菊池はインドネシアに留学中、この建築にしばらく滞在し、目の前で起きる変化も記録しながら、その空間体験をどのように視覚化するかを修士設計のテーマに取り組んでいた。そして彼が現場で撮影した時空間が錯綜した写真群を展示する空間を独自のルールによって構築し、学内外の講評会で高い評価を得た。彼は東京都写真美術館で開催中の「ヒューマン・スプリング」展を含め、写真家の志賀理江子の制作を長い期間にわたってサポートしたことで、観念的なデザインに陥らず、スケール感をリアルに理解した設計に到達したことも、修士設計の最終成果物に説得力を与えている。ただし、ギャラリー・ターンアラウンドでは、その展示空間を1/1で再現するには十分な広さがないこともあり、ドローイングと小さくプリントした写真群のインスタレーションで、別の空間を創造した。志賀はもちろん、リー・キットの影響なども見受けられるが、短い期間で、新しい独自の世界を高い密度で出現させた力量は高く評価できるだろう。

マングンウィジャヤの自邸《ウィスマ・クエラ》


「ウィスマ・クエラ」展、会場の様子


「ウィスマ・クエラ」展、会場の様子


「ウィスマ・クエラ」展、会場の様子


「ウィスマ・クエラ」展、会場の様子


「ウィスマ・クエラ」展、会場の様子


2019/03/26(金)(五十嵐太郎)

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《台南市美術館》《林百貨店》

台南市美術館[台湾・台南]

台南でオープンしたばかりの、坂茂による《台南市美術館》を訪れた。コンペで選ばれたものだが、高雄のコンペ(マリタイム・カルチャー・アンド・ポピュラー・ミュージックセンター国際コンペ)と同様、このときも平田晃久の案は2位だった。企画展以外は無料のようで、あちこちから自由に出入りできる空間の特徴がさらに引き出されていた。これまでにはない彼の新しいデザインとも言えるが、内部の巨大なアトリウムから天井を見上げると、なるほど《ポンピドゥ・センター・メス》の発展形として解釈できる。すなわち、形状は異なるが、同じく大屋根の下の箱群という構成だ。また《メス》では、都市の風景を見せるべく3つの直方体が違う方角に配置されていたのに対し、《台南》では閉じたキューブとしつつ、その数を増やして積層させ(展示室の内壁の色も鮮やか)、外を登ることを可能とし、さらに都市に開く。全体としては、ザハ・ハディドによるソウルの《東大門デザインプラザ(DDP)》と同様、都心に出現した人工的な丘のようだ。また日が暮れると、若い子があちこちでたむろしたり、記念撮影し、独特の公共空間を提供することに成功していた。

過激なデザインの《国家歌劇院》によって台中が注目されていたが、負けじと台南の建築も盛り上がっている。ちょうど謝宗哲のキュレーションによる「台南建築トリエンナーレ」が開催されていた。これまでは南方の括りだったのを、今回は台南に絞って実施したという。また新名所として約40年間、廃墟として放置されていた日本統治時代の《林百貨店》が再生された。リノベーションを手がけたのは、あいちトリエンナーレ2013で伏見地下街を担当した打開連合設計事務所である。屋上には空爆の跡も残されており、レトロな感覚をくすぐる空間だ。台南には日本統治時代の建築が数多く残るが、それをうまく生かした仕事である。またMVRDVは、景観の要所で邪魔な存在になっていた李祖原による商業施設を解体しつつも、すべて撤去するのではなく、あえて廃墟状態で残す野心的なオープンスペースのプロジェクトを進行中だった。台南は都市としての魅力に磨きをかけている。

《台南美術館》外観


《台南美術館》内観


《台南美術館》館内のサイン


《台南美術館》展示室


「台南建築トリエンナーレ」


《林百貨店》外観


《林百貨店》屋上

2019/03/18(月)(五十嵐太郎)

平田晃久「人間自然」展

会期:2019/03/16~2019/06/23

忠泰美術館[台湾・台北]

台北の忠泰美術館で開催している平田晃久の個展「人間自然」にアドバイザーとして関わり、そのオープニングやシンポジウムに出席した。キュレーションを担当したのは、建築史家の市川紘司である。内覧会では多くのプレスが訪れ、その日の夕方から各種のメディア報道があり、現地における建築への関心の高さがうかがえる。なお、忠泰美術館は企業による美術館であり、これまで現代アートや建築(フィンランドのマルコ・カサグランデなど)の企画展を開催したほか、若手建築家の支援などを行なってきた。

「人間自然」展は、まず入口の天井に《Tree-ness house》の部分(おおむね)実寸模型が逆さにぶら下がり、階段を登ると、これまでに構想した建築の原型=種を紹介する。その後、12の島に見立てた建築プロジェクト群を模型や映像とともに展示していた。ギャラリー・間における平田展の巡回ではなく、まったく新しい内容になっている。高雄の《マリタイム・カルチャー・アンド・ポピュラー・ミュージックセンター》のコンペをきっかけに、平田は台湾と関わりをもち、台北や台南などのプロジェクトも紹介されている。空っぽの状態よりも、人が点在すると映える場に見えるのは、平田ならではの会場デザインだろう。そして順路の最後の通路には、一直線にレイアウトされた彼のテキストが続く。3月16日のトークイベントは、平田のレクチャーのあと、謝宗哲を司会に迎え、市川、五十嵐を交えて討議が行なわれた。

また平田が設計した集合住宅《台北ルーフ》を事務所スタッフとともに見学した。これまでに実現した彼の作品としてはボリュームが最大級のプロジェクトだろう。ただし、インテリアは、中国と同様、スケルトン売りの商品となっており、平田がデザインしたものではない。エントランスの天井のみ、作品のコンセプトを想起させる意匠が施された。各住戸の大きくとったテラスの傾斜した小屋根の群が、周辺環境と同化しつつ、雨を流す視覚的な造形をもち、屋根を山という自然になぞらえた彼の建築思想を表現している。

「人間自然」展、群島に見立てた会場デザイン


「人間自然」展、天井から逆さに吊られた《Tree-ness house》の部分(おおむね)実寸模型


「人間自然」展、アイデアの種


「人間自然」展、台北のプロジェクト


「人間自然」展、《台南市美術館》コンペ案


《台北ルーフ》外観


《台北ルーフ》屋上から見下ろす

2019/03/15(火)(五十嵐太郎)

『移動都市/モータルエンジン』

[全国]

フィリップ・リーブのSF小説を原作とし、「ホビット」のシリーズで知られるピータージャクソンが製作を担当した「移動都市/モータルエンジン」は、「インポッシブル・アーキテクチャー」展が面白かった人におすすめの映画だった。都市が都市を捕食するという設定は、一体何を意味するのかと訝しがったが、驚くべきことに文字通り、見たことがない場面が展開される。すなわち、いきなり最大の見せ場でもある冒頭のシーンが示したように、移動する巨大都市が小さな街を追いつめ、大きな開口部を広げて、相手が所有している資源もろとも内部にとりこむ。具体的には、頂部にセントポール大聖堂を載せた「ロンドン」が、ハーフティンバーの建物をのせた街を追いかける。もっとも、ここは宗教施設ではなく、再び世界の覇権を握るための秘密の場所となり、映画の終盤はここが重要な舞台となった。また最初は不審人物を追いかけていたはずが、「ロンドン」の外に放りだされた主人公=トムの視点で映像が進むことで、巨大都市の隠れたメカの機構や外の世界の様子も描かれる。ゆえに、機械仕掛けの都市の視覚的な快楽に酔いしれることができる作品だ。

60分戦争によって一度世界が滅びたポスト・カタストロフの世界では、いったん技術が退化し、スチーム・パンクの設定のように、異なる発展を遂げたため、都市が移動するのが当たり前になっている。いや正確に言うと、少数派として地表に定住する非移動都市。したがって、アーキグラムのプロジェクトではないが、いろんなウォーキング・シティが登場し、空想建築のオンパレードが目を楽しませる。例えば、虫のように地をはう建築、空に浮く乗物や空中都市。なお、キャラクターとしては、じつは人間よりも、異常な執念でヘスター・ショウを追跡する「復活者(人造人間)」のシュライクが目立つ。破壊の限りを尽くす非情な怪物的相貌ゆえに、それが抱えていた孤独や悲しみが深く突き刺さるからだ。

2019/03/05(火)(五十嵐太郎)

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