2020年07月01日号
次回7月15日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

リニューアルされたMoMA

ニューヨーク近代美術館(MoMA)[米国、ニューヨーク]

昨年末にリニューアル・オープンしたニューヨーク近代美術館(MoMA)を見学した。これは2004年の谷口吉生による増改築に続くプロジェクトになったが、ディラー・スコフィディオ+レンフロが手がけている。彼らはハイラインや《ザ・シェッド》に続く抜擢であり、今やニューヨークの顔をつくる建築家だ。もっとも、外観のイメージが大きく変わる、派手なリノベーションではない。主に室内の空間構成やシークエンスを設計している。一階は動線の混雑を解消すべく、チケットカウンターのエリアを新設し、道路に面した無料のギャラリーや、階段で半地下に導入するショップがつくられた。



ショップ


展示エリアとしては、西側に大きく面積を増やし(リチャード・セラの巨大作品を置くことができるスペースも登場)、上下のフロアを眺望が良い階段でつなぎ、ここでも動線の改善をはかっている。またパフォーマンスなどに使うスタジオ、クリエイティビティ・ラボなどが導入された。全体に彼ららしい洗練されたデザインが展開している。



西側に新設された階段



西側



西側



無料ギャラリーでの展示《Mine Kafon



リチャード・セラの展示空間


19世紀から21世紀までのアートの動向を紹介する3フロアに及ぶ常設エリアは、美術、建築、デザインを混ぜていることも目を引く。したがって、同時代性において相互の分野を見ることができるのだ。もちろん、ジャンルを超えた膨大なコレクションを持つからこそ可能な複合タイプの展示とも言えるが、日本でもこういうコレクションの展示を見たい(通常は、どうしても美術の流れだけになってしまう)。20世紀の展示スペースを紹介する建築の部屋では、MoMAの建築の歴史を振り返ることに加え、採用されなかった興味深い初期案も知ることができる。



ボツになった初期MoMA案


なお、日本人の作家はどれくらい入っているかも確認していたが、気づいたところでは、西沢立衛や草間彌生らの名前を見つけた。ただし、アメリカの近現代美術で知られるホイットニー美術館のコレクションでも、草間を含むことを踏まえると、ニューヨークに在住したアメリカ的な作家としての意味合いも強いかもしれない。逆にMoMAの常設において、中国の存在感は強く、特に天安門事件の前後をめぐるアート表現に関して、一部屋を使い、特集展示も行なっている。

2020/01/16(木)(五十嵐太郎)

ニューヨークの新しい観光名所

[米国、ニューヨーク]

およそ三年半ぶりのニューヨーク訪問だったので、新しい観光名所を訪れた。まずはハドソン・ヤードの再開発のエリアである。ここでトーマス・ヘザウィックによる《ヴェッセル》と、ディラー・スコフィディオ+レンフロによる《ザ・シェッド》が並ぶ風景は、まるで怪獣対決だ。前者は階段のお化けのような構築物である。ちなみに、まわりのビルよりも低いために、展望台として機能するわけではない。ただ登って降りるだけである。ある意味では無目的な施設だ。にもかかわらず、希有な空間体験そのものが目的になっており、朝から多くの観光客が集まっている。一方、後者は移動する空気膜の覆いであり、どことなくモスラのような相貌だ。



トーマス・ヘザウィック《ヴェッセル》



ディラー・スコフィディオ+レンフロ《ザ・シェッド》


ちなみに、やはりディラー・スコフィディオ+レンフロの設計によって、高架の線路を空中の遊歩道に改造したハイラインも、ハドソン・ヤードまで伸長し、隣接してザハ・ハディドによるマンションが登場している。すなわち、ニューヨークでは、独創的な建築を加えることで、都市に新しい魅力を次々に重ねている。



ディラー・スコフィディオ+レンフロの設計によるハイライン




ザハ・ハディドによるマンション


9.11の跡地における超高層ビルの開発やメモリアルは、すでにほとんど整備されたが、ひときわ目立つのは、ワールド・トレード・センター駅のオキュラス《オキュラス》だろう。ビル群はそこまでアイコン的なデザインではないし、基本的にメモリアルの空間は地下に展開しているのに対し、サンティアゴ・カラトラヴァによる有機体のようなデザインは、先端が尖った無数の骨状の構築物になっているからだ。これも怪獣になぞらえるならば、針に覆われた甲羅をもつアンギラスというべきか。また、大屋根の下に広がる内部空間は、商業施設だが、宗教的な崇高さすら獲得している。これらの新名所が誕生した同時期、東京がつまらなくなった理由を考えさせられた。それはニューヨークがこの街にしかできないプロジェクトを遂行しているのに対し、東京は東京にしかできないことに挑戦していないからではないか。そして日本の地方都市は、おきまりの商業施設を並べる「東京」の真似をしない方がいい。だが、いまの東京は「東京」を真似している大きい地方都市のようだ。



サンティアゴ・カラトラヴァ《オキュラス》



サンティアゴ・カラトラヴァ《オキュラス》

2020/01/16(木)(五十嵐太郎)

「メイド・イン・トーキョー:建築と暮らし 1964/2020」展

会期:2019/10/11~2020/01/26

ジャパン・ソサエティー[米国、ニューヨーク]

ニューヨークのジャパン・ソサエティーに足を運んだ。エントランスの吹き抜けには、これまでなかった奈良美智の大きな作品が設置されている。これは購入したわけではなく、長期貸与の形式をとって、今後も定期的に変えていくという。



奈良美智の作品


さて、訪問の目的は、アトリエ・ワンとディレクターの神谷幸江によって上階のギャラリーで企画された「メイド・イン・トーキョー:建築と暮らし 1964/2020」展である。「メイド・イン・トーキョー」は、東京の複合建築を調査した彼らのプロジェクトの名称でもあるが、今回の狙いは、タイトルに含まれる二つの年号からもうかがえるように、前回と今回のオリンピックの時代における東京建築を比較することだ。それゆえ、会場では仮設壁で囲まれた空間を入れ子状につくり(両側の端部が湾曲したかたちは、スタジアムの見立てらしい)、その外側を1964年、内側のエリアを2020年に割り当て、模型、写真、映像、ドローイングなどを用いて、作品を紹介する。興味深いのは、壁には開口部を設け、二つの時代を同時に観察できる場所があちこちに生じていることだ。会場デザインも、アトリエ・ワンが手がけている。



2020年のエリア


またいくつかのビルディング・タイプ やテーマを設定し、おおむね入口から順番に「競技場」、「駅」、「リテール」、「オフィス」、「カプセル」、「住宅」といったジャンルごとに各時代の代表作を選んでいる。総花的に多くの事例を紹介するというよりは、作品の数はかなり絞り込んでいる。例えば、《国立代々木競技場》と《新国立競技場》、《そごう》と《GINZA SIX》、《中銀カプセルタワービル》と《9h》、《塔の家》と《西大井のあな》などだ。やはり、すでに半世紀以上に及ぶ歴史の審判を受けた定番の名作を並べると、どうしても近年できたばかりの東京建築は重厚さや大胆さに欠ける印象を受けるが、こうした状況そのものが時代の変化を示しているのかもしれない。



左が丹下建三《国立代々木競技場》、右が隈研吾の《新国立競技場》



手前に現代のビックカメラ、奥に昔のそごうが見える




黒川紀章《中銀カプセルタワービル》



浅草の《9h》


なお、同展は、建築だけでなく、ハイ・レッド・センター、山口勝弘、小沢剛、AKI INOMATA、竹川宣彰、風間サチコなど、建築や都市に関わる新旧のアーティストの作品や活動も紹介し、別の角度から、それぞれの時代の雰囲気を伝えていた。



風間サチコの作品

2020/01/15(水)(五十嵐太郎)

パラサイト 半地下の家族

飛行機の中でポン・ジュノ監督の映画『パラサイト』を鑑賞した。もっとも、後から映画のスクリーンに合わせて、美術監督が豪邸の空間を設計したことを知り、映画館でも見たくなった。途中から出てくる、異様な地下空間はさすがにセットだと思っていたが、どうやら地上部分もセットだったらしい。ちなみに、シャンデリアなどのアイテムによって豪華さを示すのではなく、建築雑誌に登場するような大きなガラス張りのリビングなど、モダンなデザインによって高級さが演出されている。韓国映画やドラマは、冬ソナ・シリーズをはじめとして、『私の頭の中の消しゴム』 、『イルマーレ』 、『建築学概論』など、しばしば建築や建築家が重要な役割を占めているが、本作ももうひとつの主役は、金持ちの住宅と貧乏人の半地下の住処ということになるだろう。前者はそれぞれが個室に分かれ、家族はバラバラであるのに対し、後者はほとんどプライバシーを獲得することができないものの、助けあう家族のイメージを空間で体現している。

興味深いのは、お手伝いというポジションが重要な位置づけになっていることだ。なるほど、その家の施主でもないし、家族の一員でもない他者でありながら、もっとも密接に住宅に関わる職業である。そして日中、家族が外に出かけているときも、家で作業をしている。実際、『パラサイト』において、家政婦は建築家が設計した住宅の秘密を知っており、その家の特殊ルールを決めたり、家族に大きな影響を与えるなどして、住宅という空間を影で支配していた。レム・コールハースが設計したボルドーの家を題材としたドキュメンタリー映画『コールハウス・ハウスライフ』でも、もはや住人が暮らしていないために、家政婦が主役だった。亡くなった主人の思い出を語る墓守のようでもあり、常に掃除という行為を通じて、住宅のあらゆる表面を触っている。特に空間の特徴に対して定型化された所作は、ほとんどコレオグラフィーに近い。こうした家政婦の重要性も、豪邸ならではかもしれない(ドラマ「家政婦は見た!」を想起せよ)。それにしても、『パラサイト』の終盤の激しい展開は予想できない。ここで抑圧された階級差や、隠された空間の分節が突如むきだしとなり、凄まじいカタルシスを迎える。

2020/01/04(土)(五十嵐太郎)

上海のリノベーション建築群

[中国、上海]

中国は新しい奇抜な建築ばかり増やしているというイメージを持たれがちだが、実際は日本以上に保存やリノベーションに力を入れている。例えば、上海の外灘に並ぶ近代の様式建築群は、まるごとファサードが保存されており、世界でも稀なエリアを形成している。船からイルミネーションに彩られた夜景を鑑賞すると、浦東の現代建築群と対照的な眺めを楽しむことができる。日本では横浜にかつて様式建築が数多く残っていたはずだが、かなり消えてしまった。政府の力が強く、土地の私有性がない分、残そうとしたら本格的に街並みも残せるのが、中国の有利な点だろう。

今回、上海で訪問したいくつかのリノベーション建築を紹介しよう。およそ5年ぶりの訪問となった《1933老場坊》は、もともとイギリス人の建築家が設計したもので、オーギュスト・ペレや、アントニン・レーモンド風の外観をもつ近代建築である。不思議な空間構造は本来、立体的な屠殺場として機能的につくられたからだ。かわいい水路もおそらく血が流れていたはずであり、細い空中通路の視界をさえぎる異様に高い壁も牛を歩かせるためだろう。もっとも、これは現在、おしゃれなお店が多い人気スポットに変容しており、リノベーションの力を感じさせる事例だ。


《1933老場坊》の外観


《1933老場坊》の細い空中通路

また浦東の隈研吾による《船厰1862》は、造船所をシアターと超高級の商業施設に改造したものである。インスタ映えするレンガのスクリーンだけかなと思いきや、内部のリノベーション空間がカッコいい。斜めに切り込む通路、意表をついて吹抜けの中心軸に位置する構造体、サインなど、見所も豊富だ。


隈研吾による《船厰1862》の外観


《船厰1862》の内部


ウェストバンドもリノベーションによる展示施設が多い。エリアの北部にある格納庫をリノベートした《余徳耀美術館》は、藤本壮介が手がけた。ガラスアトリウムのカフェ、ラウンジのバカでかさに彼らしさを感じる。ただ、残念ながら、巨大な空間は展示に活用されておらず、話題の作品《レインルーム》も故障中だった。


藤本壮介が手がけた《余徳耀美術館》の外観


《余徳耀美術館》の内部

柳亦春が設計した《龍美術館》も、ウェストバンドのアート施設である。これは厳密な意味ではリノベーションとは言えないが、旧貨物線を挟んで、半アーチを両サイドにのばす巨大なT字形を反復する建築だ。空間の形式は、卒計でありそうな感じだが、朽ちた産業施設と絡むことで、両者の対比が鮮烈になっている。ここでは、地上は現代美術、広大な地下は書や古美術が展示され、いずれも中国の作家が紹介されていた。やはり日本にはそうない大空間だが、ここを有効に使える現代美術はこれからだろう。


柳亦春が設計した《龍美術館》の外観


《龍美術館》の内部

2020/01/02(木)(五十嵐太郎)

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