2020年12月01日号
次回12月15日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

ヨコハマトリエンナーレ2020 AFTERGLOW─光の破片をつかまえる

会期:2020/07/17~2020/10/11

横浜美術館、プロット48[神奈川県]

ヨコハマトリエンナーレの内覧会に足を運んだ。イヴァナ・フランケによってふさがれたファサードを抜けて、グランドギャラリーの大空間に入ると、ニック・ケイヴによる大量の庭飾りを吊るしたインスタレーションや、青野文昭の独自の修復を施した作品群が出迎える。訪れたタイミングでは、アトリウムの天井はすべて閉じられていて、だいぶ暗かったので、むしろトップライトの開口を開けた方がいいのにと思ったら、時間によって照明が変化し、やがて明るくなり、あえて光のコントロールをしていることを理解した。


イヴァナ・フランケによってふさがれたファサード



ニック・ケイヴ《回転する森》


実は「AFTERGLOW──光の破片をつかまえる」というテーマから、どんな内容になるのか、事前にはなかなか想像しにくかったが、いざ会場で見ると、なるほど、ベタにきらめく作品や部屋の照明から、蛍光シルクや半減期まで、さまざまなレヴェルで「残光」を感じさせる作品が、美術館に集まっている。本展のキーワードでは、毒との共生もうたい、コロナ禍の現状も受け入れる、おもしろいコンセプトだ。新館長の蔵屋美香による「いっしょに歩くヨコハマトリエンナーレ2020 ガイド」も楽しい。また常連の日本人作家が少なかったり、日本になじみがない外国人の作家が多く、横浜に居ながら、まるで海外で国際展を見ているかのようだった。


青野文昭の作品群



ジャン・シュウ・ジャンの新作インスタレーション

今回のヨコハマトリエンナーレは、3人組の芸術監督も海外作家も来日できないまま設営され、当初の予定を遅らせながら、なんとかオープンにこぎつけたが、おそらく現場は大変だっただろう。実際、今度の12月にスタートする予定だった札幌国際芸術祭2020は、新型コロナウイルスの影響によって中止が決定された。

なお、ヨコハマトリエンナーレのもうひとつの会場、プロット48では、美術館にあったような作品の説明がほとんどなく(間に合わなかったのか?)、既知の作家でもないことから、さすがに消化不良だった。会場に使われた建物は、旧横浜アンパンマンこどもミュージアムである。丹下健三の横浜美術館と同様、にぎやかな形態をもつポストモダンのデザインだ。それが整備されないままのややラフな状態の展示会場で行なわれており、興味深い空間の使い方だった。これまで倉庫やモダニズム建築のリノベーションをアートの展示で使うことは多かったが、そうではないタイプの空間の再利用は、今後ほかでも増えていくだろう。


第二会場・プロット48の外観



ファラー・アル・カシミの新作インスタレーション



ファーミング・アーキテクツの展示風景


公式サイト:https://www.yokohamatriennale.jp/2020/

2020/07/16(木)(五十嵐太郎)

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バンクシー展 天才か反逆者か

会期:2020/03/15~2020/09/27

アソビル[神奈川県]

モスクワ、マドリード、リスボン、香港など、2018年から世界を巡回し、100万人が来場したという「バンクシー展 天才か反逆者か」を鑑賞した。会場はいわゆる美術館ではない。横浜駅からブリッジを経由し、ほぼ直結でアクセスできる、旧横浜中央郵便局別館をリノベートしたアソビルの2階だ。アソビルは、横丁をイメージした飲食店街、スポーツ、キッズテーマパークなどが入る複合施設であり、イベント・フロアの一角でバンクシーが展示されていた。いわば資本主義の空間において、反資本主義とされるアーティストの作品が並ぶのはややアイロニカルだと思いつつ、かといって反権威も標榜するから、会場が立派な公立美術館で開催したとしても微妙だろう。バンクシーは、ストリートで活動してきたわけだから、あまりきれいにリノベートされた建物ではなく、廃屋に近い状態の空きビルだったら、雰囲気が合っていたかもしれない。もっともその場合は、動員や来場者の制限などで、別の問題が生じるだろう。そもそも路上のアートを箱の中で展示する困難さを拭うことは難しい。


会場のアソビルに向かう通路


さて、資本主義、政治、戦争批判などを批判するバンクシーの作品だが、二次元アートとしての表現は、必ずしも新しくはない。既存のアートにおける手法を流用し、組み合わせたものと言えるだろう。また現場にない作品は、どうしてもアウラは剥がれ落ちる(これは建築展と同じ弱点だ)。ちなみに、会場にキャプションの説明はなく、スマートフォンで音声を聴くシステムとなっていた。


会場に展示されていた、バンクシーのアトリエのイメージ



世界各地のバンクシー作品



戦争批判のバンクシー作品

個人的に興味をもったのは、バンクシーによるリアルなプロジェクトである。例えば、パレスチナ自治区に世界一眺めの悪い「ザ・ウォールド・オフ・ホテル」を開業したり(ニューヨークの高級ホテル、ウォルドルフのパロディ)、期間限定のアンチ・テーマパーク「ディズマランド」を建設したことなどだ。前者は紛争地帯を観光するホテル、後者はディズニーランドへの明白なあてこすりである(著作権の侵害にうるさい同社は反応したのか?)。ところで、アソビル2階の会場出入口では、壁面に展開する梅沢和木の作品と遭遇し、思わぬ収穫があった。


「ザ・ウォールド・オフ・ホテル」


「ディズマランド」(部分)



会場出入口に展開されていた、梅沢和木の作品

2020/07/15(水) (五十嵐太郎)

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カセットテープ・ダイアリーズ

主人公の幼少時代を振り返る冒頭のシーンで、いきなりルービックキューブとメン・アット・ワークの固有名詞が語られるように、1980年代のカルチャーにあふれた映画である。もっとも、カセットテープやウォークマンなど、懐かしいアイテムを振り返るだけの作品ではなく、社会と文化の関係にも切り込み、想像以上に素晴らしかった。

イギリスに急増するパキスタン移民の長男ジャベドは、強権的な父や差別の圧迫を受けていたが、ブルース・スプリングスティーンの音楽と出会うことで覚醒し、文章の表現にめざめるという物語だ(これは実話をもとにしており、のちに彼はジャーナリストになる)。嵐の夜、絶望の淵で彼が、初めて「ダンシング・イン・ザ・ダーク」を聴いて、その歌詞に衝撃を受けるシーンは印象的である。クィーンのフレディ・マーキュリーも、「パキ」と罵られたらしいが(実際の彼はパキスタン系ではないが)、主人公の境遇は、アメリカの労働者の状況を題材とするブルースの歌詞とシンクロしたからである。それは本来の状況と違う文脈に置かれても、強い意味や新しい解釈を獲得する言葉の普遍性ゆえだろう。

個人的に映画を観ながら思ったのは、ジャベドの姿は昔の僕であるということだった。もちろん筆者はほぼ同年齢で、1980年代を過ごしたことで親近性も感じたが、決して彼のような厳しい環境ではなかった。だから、歌詞への共感という意味ではない。では、なぜそう思ったのか。音楽との出会いから、文章で表現することに向かった経緯が、彼と同じだったからである。筆者の場合は、もっとハード・ロック寄りだったが、アルバムのライナーノーツや音楽雑誌を読み漁り、そこからバンドの系統図や影響関係などに興味をもち、建築を学ぶ前に、作品を言語化したり、歴史的に位置づけることをおのずと学んでいった。現在は、建築やアートに関する文章を執筆することがメインだが(『200CDロック人名事典』、『200CDザ・ロック・ギタリスト』、『文藝別冊 ピンク・フロイド』、『文藝別冊 アイアン・メイデン』など、音楽について書く仕事も稀にあるのだが)、間違いなく、自分の原点にロックがあったことを思い出させる映画だった。

公式サイト:http://cassette-diary.jp/

2020/07/10(金)(五十嵐太郎)

ARTPLAZA 磯崎新パネル展、坂茂建築展 仮設住宅から美術館まで

大分市アートプラザ、大分県立美術館[大分県]

大分市と由布院を訪れ、師弟である磯崎新と坂茂を比較する機会を得た。前者が手がけた《大分市アートプラザ》(旧大分県立大分図書館)では、公共建築を中心とした「ARTPLAZA 磯崎新パネル展」が、後者による《大分県立美術館》では、開館5周年記念事業として1階のフロアをまるごと使いきる大型の個展「坂茂建築展 仮設住宅から美術館まで」が、それぞれ開催されていた。いずれも自作における展覧会であり、会場の建築そのものが最大の展示といえるだろう。

興味深いのは、両者のプレゼンテーションの手法である。磯崎が木の模型を使用していたことはよく知られていよう。スタイロやスチレンボードなどの素材を使った、通常の建築模型がすぐに劣化するのに対し、木造の模型は長期的な耐久性をもつからだ。実際、ルネサンスの時代に制作された木の模型は現代まで残っているし、日本でも前近代の木造雛形が文化財になっている。とすれば、100年以上存在できるかあやしい現代の日本建築よりも、木の模型の方が残る可能性が高い。それゆえ、彼の模型は、建築の理念を表現する媒体になっている。


磯崎新が手がけた《大分市アートプラザ》の外観


「ARTPLAZA 磯崎新パネル展」の様子と木の模型


一方、坂の展示では、1/3のスケールなど、ときには会場の天井に届くような大型の木造模型が特徴である。それは必ずしも全体のかたちを示したものではなく、部分模型だったり、ディテールを確認するモックアップに近い。また彼は、スウォッチのオフィスなど、木を多用することでも知られているが、実際の建築でも木造に挑戦している。鉄筋コンクリートの建築を木で表現しているわけではない。すなわち、坂の場合、モノとモノがどう組み合わさるかを具体的に示すためのツールとして、木の模型が位置づけられている。また表層として木を使うのではなく、あくまでもテクトニクスを重視していることもうかがえるだろう。


大分県立美術館における「坂茂建築展」の展示風景



「坂茂建築展」に展示されていた木造模型



「坂茂建築展」に展示されていた《静岡県富士山世界遺産センター》の木造模型

由布院の駅周辺では、両者の共演を楽しめる。なぜなら、磯崎が《由布院駅舎》(1990)、坂が《由布市ツーリストインフォメーションセンター》(2018)を設計しているからだ。いずれも木を使うが、やはり二人の違いが浮かびあがる。磯崎は理念的な幾何学のかたちを優先しているのに対し、坂は湾曲する大断面の集成材によって大胆な木の架構を成立させることに主眼を置く。


磯崎新が手がけた《由布院駅舎》の外観



坂茂が手がけた《由布市ツーリストインフォメーションセンター》

ARTPLAZA 磯崎新パネル展
会期:2020/06/01〜2020/08/30
会場:大分市アートプラザ(大分県大分市荷揚町3-31)

坂茂建築展 仮設住宅から美術館まで
会期:2020/05/11~2020/07/05
会場:大分県立美術館(大分県大分市寿町2-1)

2020/07/05(日)(五十嵐太郎)

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弘前れんが倉庫美術館「Thank You Memory─醸造から創造へ─」

会期:2020/06/01~2020/09/22

弘前れんが倉庫美術館[青森県]

新型コロナウイルスの影響によってオープンが遅れていた弘前れんが倉庫美術館を訪れた。この場所は奈良美智の「A to Z」展(2006)以来なので、14年ぶりの再訪になる。これは注目の若手建築家、田根剛による日本国内の最初の公共施設となるが、およそ築100年になる建物の外観はほとんど変えていない。彼の署名のように、エントランスに特殊な煉瓦積みを試みたり、金色に輝く屋根に葺き替えたりしたくらいだ。また内部も長い歴史の記憶をとどめるかのように、壁の質感を残し、二階の旧事務室・旧研究室では木造の壁やガラスなど、来館者が見えない部分でもオリジナルを保存している。



田根剛による日本国内初の公共施設、弘前れんが倉庫美術館


弘前れんが倉庫美術館のエントランス


美術館二階の左手が旧事務室・旧研究室にあたる

日本のリノベーションは、完成すると小綺麗になってしまいがちだが、遺跡のように残った倉庫の雰囲気をよくとどめた空間だ。そういう意味では、ヨーロッパ的なスタイルを感じさせる。もっとも、ただ保存したわけではなく、美術館において新しく挿入した階段をあえてエイジングしたり、カフェ・ショップ棟は正面の外壁以外は新築だが、既存の倉庫と調和する煉瓦を用いるなど、いろいろ工夫をしている。



手前の建物がカフェ棟


美術館のエントランスホールに、奈良の《A to Z Memorial Dog》が展示されている

さて、同館のオープニング展は、もともと酒造工場だったことから「醸造」というキーワードが用いられ、弘前という場所の記憶をめぐる作品群によって構成されていた。特に冒頭の畠山直哉+服部一成は、倉庫の歴史をリサーチしつつ、過去に使われた建築の断片を紹介していた。天井高が15mに及ぶ展示室3の大空間に面するナウィン・ラワンチャイクンと尹秀珍も、弘前の人物や街をテーマに作品を新規に制作していた。もっとも、コロナ禍のため、海外在住の作家はリモートでの設営となり、大変だったらしい。地元出身の奈良美智は、めずらしく写真の作品を展示していた。潘逸舟は、かつて弘前にて芸術で暮らした経験と記憶をもとにインスターレションを出品していた。

この美術館は特別なコレクションをもってスタートするわけではなく、こうした展覧会を通じて新規に制作された作品を収集するという。とすれば、活動を継続することによって、弘前の地域資産を掘り起こしながら、それを蓄積していくことになるはずだ。



「Thank You Memory」展示風景(畠山直哉と藤井光の部屋)


「Thank You Memory」展示風景(手前が笹本晃、奥がナウィン・ラワンチャイクン)

2020/06/28(日)(五十嵐太郎)

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