artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
Made in Takarazuka vol.4 入るかな? はみ出ちゃった。~宮本佳明 建築団地
会期:2023/09/16~2023/10/22
宝塚市立文化芸術センター[兵庫県]
宝塚市立文化芸術センターでは、市にゆかりのあるアーティストを紹介するシリーズを企画しており、その第4弾として宮本佳明の建築展が開催された。「入るかな? はみ出ちゃった。」という不思議なタイトルは、彼の実作についていずれも原寸大の模型を並べているからで、住宅《SHIP》(2006)、《澄心寺庫裏》(2009)の屋根、《香林寺ファサード改修》(2015)などの一部が展示室に貫入したかたちになっている。またそれほど大きくない《クローバーハウス》(2006)や《elastico》(2010)は、内壁の輪郭をなぞり、展示室内に収まっている。
以前、筆者はKPOキリンプラザ大阪の展示コミッティとして、「宮本佳明展 巨大建築模型ミュージアム ─環境ノイズエレメントを解読し、都市を設計せよ─」(2005)を企画したが、このときも大きな模型を用いていた。また芸術監督を務めたあいちトリエンナーレ2013では、愛知芸術文化センターの吹き抜けにおいて、宮本は1/1のスケールで福島の原発の図面をなぞっている。今回は10作品のボリュームを再現しているが、会場からはみ出る部分を想像させて興味深い。
筆者は5作品を訪れたことがあり、それぞれの空間体験も思い出した。アートと違い、実物を展示できないのは建築展の特徴だが、これはきちんと大きさを伝える試みだろう。大きな模型という意味では、「第5回ヒロシマ賞受賞記念 ダニエル・リベスキンド」展(広島市現代美術館、2002)が各部屋にちょうどぎりぎりで入るサイズで、さまざまなプロジェクトの巨大模型を挿入していた(ゆえに、縮尺はばらばら)。なお、宮本の最新の仕事となる、村野藤吾の《八幡市民会館》(1958)をリノベーションする《北九州市立埋蔵文化財センター》のセクションでは、完成前ということで、通常の模型と建築への介入を料理法的に説明するパネルを並べている。
宮本展と連動し、会場から歩いてすぐの《「ゼンカイ」ハウス》(1997)が公開中ということで、20年ぶりくらいに再訪した。これは阪神淡路大震災によって全壊判定を受けた宮本の実家を解体せず、事務所にリノベーションした彼の代表作である。ちなみに、東日本大震災の後は、ここまで衝撃的かつ批評的な作品は登場しなかった。当初は鉄骨を木造家屋に突き刺した異形の外観だったが、いまや街に溶け込み、思わず通り過ぎてしまう。内部はあまり変わっていないが、右隣の空き地は消え、左隣の建物も事務所化し、そこに大量の資料を入れている。
入るかな? はみ出ちゃった。~宮本佳明 建築団地:https://takarazuka-arts-center.jp/post-exhibition/post-exhibition-3692/
2023/09/18(月)(五十嵐太郎)
建築学生ワークショップ仁和寺2023
会期:2023/09/17
仁和寺[京都府]
毎年恒例の建築学生ワークショップは、これまで伊勢神宮や出雲大社など、日本各地の聖地で開催されてきた。そこに全国から集まった学生のチームが、1日だけの仮設構築物をつくるプログラムである。その魅力は以下の通り。普段は絶対に建てられない歴史建築のそばで作品をつくれること。模型や提案に終わらず、実寸のスケールで建てることで、リアルな空間体験ができること。セルフビルドで材料の重さや強度を体感できること。異なる学校や学年から構成されるグループを通じて、共同作業を学べること。そして多様な分野のプロフェッショナルが講評に参加するため、意匠、歴史、構造、美術、デザインなどさまざまな視点から批評を受けられることである。さて、今年は仁和寺が舞台となり、ついに初の京都開催となった。もっとも、二王門の北側が公開プレゼンテーションの会場だったため、炎天下のもと9時間、世界でもっとも過酷な講評会が行なわれた。
最後は10作品に対し、投票で点数が入り順位が付けられたが、個人的に気になった4作品について触れたい。まず2位に入賞したgroup 3は、五重塔に対峙しつつ、歩くと、音が鳴る仕掛けを導入していたが、歴史建築への読解は表面的だった。仁和寺の五重塔は、逓減率が低いという造形的な特徴をもつことに加え、17世紀にあえて和様でつくっており、意図的に復古的なデザインを選んでいる。こうした固有性を無視すると、五重塔=シンボリックという記号的な捉え方になってしまい、醍醐寺、東寺、法隆寺など、どこの五重塔でも同じ案が成立してしまう。
今回、興味をもったのは、イメージの喚起力が強い、キャラクター性をもった作品である。ヘリウムを使って、数多くの小さい箱型のボリュームを浮かせたgroup 6の作品は、風によって動き、途中から、門の真ん中を通る龍のように見えた(3位)。また綿と倒木を用いてアクロバティックに構造を成立させたgroup 5は、毛を刈り取らないまま放置された羊が大変なことになった状態を想起させて、ユーモラスだった(1位)。一方、ワークショップでよく用いられる竹ではなく、苔や鉋屑(かんなくず)などユニークな素材を使った班はほかにもあったが、ちぐはぐな導入だったため、うまく全体的なイメージの喚起力を獲得できなかった点でで、ヘリウムや綿の作品と命運が分かれた。
縄を活用したgroup 4はあまり評価されず、入賞しなかったが、まず遠くから眺めたとき、経堂に対して程よいボリュームで斜めから対峙している、大きな蜘蛛のように感じられた。しかも長い脚が出ている鬼=モンスター。ただ、近付いて説明を聞くと、その内部に上空を見上げる求心的な空間があることが重要だった。講評では「それが目的ならば、乖離したような外観は何なんだ」と批判されていたが、筆者はそのギャップを興味深く感じた。例えば、ゴシック建築は内部に聖なる空間を実現するために、外部に構造をむき出しにすることで結果的にグロテスクな風貌になっている。それと同じことが起きているのではないか。ただし、本作品に内外を隔てる壁はない。つまり、group 4の作品には、スパイダー・ゴシックという強いキャラクター性がある。
建築学生ワークショップ:https://ws.aaf.ac/
2023/09/17(日)(五十嵐太郎)
アニメーション美術の創造者 新・山本二三展 ~天空の城ラピュタ、火垂るの墓、もののけ姫、時をかける少女~
会期:2023/07/08~2023/09/10
浜松市美術館[静岡県]
浜松市美術館を訪れ、今年の8月に亡くなったアニメ背景美術の巨匠の展覧会、「新・山本二三」展の最終日に駆け込みで入った。1969年以降、彼は『サザエさん』(1969-)、『一休さん』(1975-82)、『未来少年コナン』(1978)から、『天空の城ラピュタ』(1986)、『火垂るの墓』(1988)、『天気の子』(2019)まで、数多くの作品を手がけ、ゲームの美術や絵本の挿絵も描いている。ジブリの宮崎駿のような有名性はないが、おそらく、ほとんどの日本人は知らない間に山本の絵に慣れ親しんでいるはずだ。また実際、会場では親子連れが目立ったが、親も子も楽しめる内容だろう。今回のタイトルに「新」と付いているのは、2011年に神戸市立博物館で始まった「日本のアニメーション美術の創造者 山本二三」展がその後も全国で巡回していたからだ。2014年に筆者は静岡市美術館で鑑賞し、映画館で大きく伸ばしても耐えられるよう、小さな絵に細部を緻密に描く手技に感心させられた。新旧両方の展示のカタログを比較すると、131ページから231ページに増えており、単純にボリュームからも内容が充実したことが確認できる。なお、前回の展示では、最初の会場であった神戸を舞台とすることから『火垂るの墓』を詳しく取り上げており、担当学芸員の岡泰正の論考は今回のカタログに再録された。
山本はもともとカメラマンに憧れ、絵を描くことが好きだったが、それでは食っていけないということで、夜学の大垣工業高校定時制建築科を卒業後、働きながら、アニメーションの専門学校に入ったという。彼が図面やパースの技術を学んだ経験は、キャラではなく空間を表現する背景美術の仕事に生かされており、今回の展示では高校時代の設計課題も紹介されていた。なるほど、しっかりと建築の室内外を描いている理由として納得が行く。展示全体を通していくつかのテーマが設定されており、第1章「冒険の舞台」(『ルパン三世 PART2』[1977-80]など)、第2章「そこにある暮らし」(『じゃりん子チエ』[1981-83]など)と続く。第3章「雲の記憶」(『時をかける少女』[2006]など)と第4章「森の生命」(『もののけ姫』[1997]など)では、「二三雲」と呼ばれる独特な雲の表情や、作品の世界観を決定する森や自然に注目する。そして第5章「忘れがたき故郷」では、2010年から2021年にかけて全100点を完成させたライフワークである、生まれ育った五島列島の風景画シリーズを取り上げる。なお、浜松市美術館では、特別に浜松城を描いたドローイングも出品されていた。
アニメーション美術の創造者 新・山本二三展 ~天空の城ラピュタ、火垂るの墓、もののけ姫、時をかける少女~:https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/artmuse/tenrankai/nizou.html
関連レビュー
「架空の都市の創りかた」(「アニメ背景美術に描かれた都市」展オープニングフォーラム)|五十嵐太郎:artscapeレビュー(2023年07月01日号)
山本二三展|五十嵐太郎:artscapeレビュー(2014年09月15日号)
2023/09/08(金)(五十嵐太郎)
第4回ソウル都市建築ビエンナーレ(松峴緑地広場会場)
会期:2023/09/01~2023/10/29
松峴緑地広場[韓国、ソウル]
今回のソウル都市建築ビエンナーレの全体ディレクターは、5月に釜山で《キスワイヤー・センター》(2013)と工場をリノベーションした文化施設《F1963》(2016)など、彼の作品を見ていた韓国の建築家チョ・ビョンスだった。メイン会場は、都心でありながら、植民地の時代は朝鮮殖産銀行の社宅、戦後はアメリカ軍の宿舎などに使われていたため、長い間壁に囲まれていた松峴緑地広場である(2022年10月から公園として開放)。今後、ここをどう活用するかが検討されているらしい。ともあれ、これまでのビエンナーレは東大門デザインプラザがメイン会場だったので、初めての屋外の展示空間は大きく印象が変わり、市民に知られるチャンスを増やしたはずだ。また東側には、学校をリノベーションし、2021年にオープンした《ソウル工芸博物館》も存在する。屋外に仮設のパヴィリオンやインスタレーションが点在し、いずれも身体で体験する空間になっており、解説の文字は少ない。すなわち、サブ会場となる都市建築展示館と市民庁とは明快に役割を分担している。
広場では、ビエンナーレに先行して高さ12メートルの階段式の象徴的な構築物が建設され、ソウルの風景を眺める展望台「ハヌルソ」(空と出会う場所という意味)になっている。普通に街を歩いていても、これは何だろう? と気づくくらいの存在感をもつ。なお、周りの山の風景と呼応するかのように、頂部の床には土が盛られていた。ビエンナーレでは、これを「スカイ・パヴィリオン」と命名し、その脇にランドスケープとして、低い丘の中央に水を貯めた「アース・パヴィリオン」が存在する。
また大階段の下では、グローバル・アート・アイランドのコンペ案(トーマス・ヘザーウィックやBIGらが入賞)や、世界各地の大学から漢江の未来像を提案する「グローバル・スタディーズ」を展示していた。ほかには中庭の屋外を反転しつつ室内化したようなアウトドア・ルーム、大きな三角形に挟まれたペア・パヴィリオン、空気を送り込んで膨らむドーム、竪穴式住居のようなパヴィリオン、音が鳴るサウンド・オブ・アーキテクチャー、テントの下の丸いドローイング・テーブルなど、国内外の建築家による作品が楽しめる。こうした展開は、これまでのビエンナーレになかった新機軸だろう。
第4回ソウル都市建築ビエンナーレ:https://2023.seoulbiennale.org/indexENG.html
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2023/09/07(木)(五十嵐太郎)
第4回ソウル都市建築ビエンナーレ(ソウル都市建築展示館/ソウル市民庁・市庁舎会場)
会期:2023/09/01~2023/10/29
ソウル都市建築展示館/ソウル市民庁・市庁舎[韓国、ソウル]
第4回ソウル都市建築ビエンナーレの都市建築展示館と市民庁・市庁舎の会場を訪れた。これまでに初回と2回目を見ているのでこれで3度目だが、今回の全体テーマは「ランド・アーキテクチャー、ランド・アーバニズム」であり、複数のテーマから構成されている。このエリアでは、「ソウル100年のマスタープラン」と、各国のプロジェクトを紹介する「ゲストシティ」、海外建築家へのインタビューなどが展示されていた。いずれも文字の説明が多いパネルを用い、すべてを読み込むのには相当な時間がかかる。「ソウル100年〜」は、タイプAからタイプFまでの方向性の分類を提示しながら、山、水と風の道から構成される自然環境を背景として、密集都市ソウルに関するさまざまなヴィジョンを提案するものだ。身近なコミュニティの建築ではなく、気候変動など、大きな時間軸を意識した未来的な都市デザインの提案もあり、意欲的な試みである。また「ゲストシティ」ではロッテルダム、シアトル、ブダペスト、シンガポール、香港、ニューヨーク、トロント、パリ、セビリア、東京などの開発の事例を紹介していた。著名な建築家としては、スティーヴン・ホール、ヘルツォーク&ド・ムーロン、ドミニク・ペローらの作品を含む。
東京については、三つの展示が出品されていた。まず都市建築展示館では、日建設計によるMIYASHITA PARKと東京駅八重洲口の開発である。そして市民庁における、クリスチャン・ディマーと小林恵吾による池袋の「Ikebukuro, Tokyo: Probably Public Space?(おそらく公共空間?)」(小林は2017年のビエンナーレでも、谷中調査を出品)と、ジエウォン・ソンらによる日本橋や丸の内周辺の再開発のリサーチだった。ほかの都市とは違い、いわゆるアトリエ系の建築家によるプロジェクトが選ばれていないのは、そもそも彼らの注目すべき作品が、東京にないという状況を暗示していたのかもしれない。
なお、都市建築展示館では、第41回ソウル建築賞の展示も開催しており、最優秀賞は安藤忠雄が設計した《LGアートセンター》(2022)だった。前回、時間切れで訪問を断念していたが、今回は金浦空港入りでその近くなので、立ち寄ってきたばかりだった。これは貫通する円筒、幾何学的なボリュームの組み合わせを明快に表現したデザインをもつ。ホールゆえに、外観のみでも仕方ないと思ったが、各階のホワイエまで見学することができた。施設が開放的だったことで、さらに心象が良かった。
第4回ソウル都市建築ビエンナーレ:https://2023.seoulbiennale.org/indexENG.html
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2023/09/05(火)(五十嵐太郎)