2020年01月15日号
次回2月3日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

上海万博博物館、中華芸術宮

[中国、上海]

せっかくの機会なので、今回は上海万博の跡地をまわった。筆者にとっては9年ぶりの再訪であり、新しいオフィスビルなどがたっていたが、国家イベントのレガシーとして懐かしい建築もいくつか残っている。激しい造形の《上海万博博物館》は、その名の通り、万博や世界博などの歴史を紹介する施設だ。入り口には歴代の博覧会の名前と開催年が並び、最後に大阪万博2025が提示されている。



上海万博の跡地の現状


《上海万博博物館》の外観

ロンドン万博(1851)における《クリスタル・パレス》の巨大模型や、複数の万博を通じた近代におけるパリの都市変遷をたどる映像で始まり、各万博の会場模型(ウィーン1873年、シカゴ1893年、サンフランシスコ1915年、など)や新しい乗り物の歴史が続き、ニューヨーク世界博(1939)の《針と球》、ブリュッセル万博(1958)の《アトミウム》、シアトル万博(1962)や大阪万博(1970)の塔など、それぞれのシンボルとなった建築の大きな模型もある。もちろん、ハイライトは上海万博(2010)の記録だ。空間のシークエンスとしては、だんだん登って、最後は屋上に出て、万博会場の跡地を望む。



ロンドン万博(1851)における《クリスタル・パレス》の巨大模型


シカゴ万博(1893)の会場模型


大阪万博(1970)で菊竹清訓が設計した「エキスポ・タワー」の模型


上海万博(2010)を紹介するコーナー

続いて対岸に移動し、《中華芸術宮》を訪れた。上海万博の旧中国館である。斗栱の木組を巨大化したようなデザインによる逆ピラミッド型の赤い建築は、中国風をベタに表現したものだろう。当時、訪れたときはあまりにも長蛇の列で(待ち時間が8時間といった噂も)、最初から入るのをあきらめたパヴィリオンにようやく入ることができた。が、内部は予想していたのだが、エスカレーターで最上階まで登って、スロープで順番にまわりながら降りる空間構成だけで、デザイン的に見るべきものはない。膨大な展示は、団体展のような雰囲気である。中国らしいと感じたのは、絵のサイズが大きいこと。中華芸術宮の外観は、今なおアイコン的な強度をもつ。建築グッズにもなる圧倒的なわかりやすさなのだ。



《中華芸術宮》の外観


《中華芸術宮》の内部。最上階までエスカレーターで登って、スロープで降りてゆく

2019/07/18(木)(五十嵐太郎)

「自由な建築」展、パワーステーション・オブ・アート(PSA)

会期:2019/07/18~2019/10/07

パワーステーション・オブ・アート(PSA)[中国、上海]

上海万博の跡地にある《パワーステーション・オブ・アート(PSA)》において、石上純也の「自由な建築(Freeing Architecture)」展のオープニング・トークに登壇した。パリのカルチエ現代美術財団からの巡回展である。展示物としては、6月に完成した《サーペンタイン・パヴィリオン》が増えたようだが、基本的には同じセットだ。なお、石上が手がけた5つのコンクリートのキャンチレバーがどーんと張りだす「JINS上海環球金融中心店」のインテリアは、紹介されていない。


「自由な建築」展を解説する石上純也


会場構成も石上純也が手がけていた

もっとも、ガラス建築のカルチエでは緑に包まれた明るい空間の展示だったが、上海は閉ざされた美術館の上階において、作品ごとに小部屋に仕切られ、かなり見せ方が違う。「四角いふうせん」や「テーブル」など、これまでギャラリーという特殊な場で実験的な「建築」をインスタレーションとして出現させた彼が、建築の模型や図面を見せるいわゆる普通の建築展を開催したことが大きなポイントだろう。それだけ美術館の外部で進行するリアル・プロジェクトが世界各地で増えており、中国の《谷間のチャペル》もすでに建設を開始している。オープニング後のディナーは、カルチエがバックについているだけに、ゴージャスだった。果たしてこの展覧会を、日本に巡回できるだろうか。


《サーペンタイン・パヴィリオン》の模型を解説する石上純也


石上純也が手がけたことで話題をよんだ「JINS上海環球金融中心店」のインテリア

さて、《PSA》は発電所をリノベーションした高い煙突つきの巨大建築である。ゆえに、ロンドンのテート・モダンを想起させるだろう。同時開催は、イヴ・クライン×李禹煥×丁乙「挑戦する魂(The Challenging Souls)」展、エレーヌ・ビネの建築写真展(ジョン・ヘイダック、ル・コルビュジエ 、リベスキンドの作品など)、1階のチェコのおもちゃデザイン展「ミニ・ワンダーズ(Mini Wonders)」など、盛りだくさんだった。やはり、スケール感を生かした大きなインスタレーションは迫力があり、現代美術の展示場としてのポテンシャルをもつ。PSAは建築系の展示が多く、今年はジャン・ヌーヴェルやゴードン・マッタ・クラークの展覧会などが続くようで、充実したラインナップに驚かされた。


発電所をリノベーションした《パワーステーション・オブ・アート》には、高い煙突がついている


イヴ・クラインの展示風景


エレーヌ・ビネの建築写真展の風景


チェコのおもちゃデザイン展「ミニ・ワンダーズ」の風景

2019/07/17(水)(五十嵐太郎)

フィーバー・ルーム、プラータナー:憑依のポートレート

会期:2019/06/30~2019/07/03

東京芸術劇場[東京都]

東京芸術劇場において、「響きあうアジア2019」のプログラムを通じ、現代のタイに関わる舞台芸術を2つ体験した。ひとつは2年前、開始時間を間違える痛恨のミスで見逃したアピチャッポン・ウィーラセタクンの《フィーバー・ルーム》(2015)である。普通に客席で座るのではなく、舞台側を使う演出は、ほかにも体験したことがあるけど、これほど効果的な作品は初めてだった。というのは、これまでは基本的に客と演者の両方が舞台側にいるという設定だったが、本作は舞台と客席の関係を反転し、しかもプロジェクターが投影する映像の一方向性を逆に利用していたからである。

(以下の内容は、少しネタバレ的な部分を含むが、たとえそれを知っていたとしても、予想を超える体験になるはずだ)。

前半は舞台側で完結しており、正面と左右に吊り下げられたスクリーンに囲まれ、病院から川や洞窟をさまよう映像を鑑賞する。が、観客席と隔てる幕が開けると、夜の豪雨と雷鳴の風景が出現し、そこからはプロジェクターが放つ光の粒子を全身に浴びる体験に移行するのだ。これはスクリーンの彼方、いや夢の中に没入する奇跡の映像体験である。そしてCGや3Dを駆使した大予算のハリウッド映画にもできない世界だ。どんなにお金をかけようとも、結局は旧来の劇場のシステムをなぞっているからである。


もうひとつの作品は、タイの小説家ウティット・ヘーマムーン×岡田利規×塚原悠也《プラータナー:憑依のポートレート》(2018)である。なんと休憩を一回挟み、4時間超えの長丁場だった。若いアーティストという個人、サブカルチャーの受容、国家の社会的な激動が絡みあう、四半世紀にわたる性と政治をめぐる物語である。特に俳優らがもみくちゃになる激しい身体運動は、演劇ならではの見せ場だった。日本人にとっては、あまりタイの歴史はなじみがないが、同時代の出来事を想像しながら、共感して鑑賞することができる。考えてみると、岡田の《三月の5日間》(2004)も、大きな歴史的事件(=アメリカのイラク攻撃)と渋谷の一角の若者の性愛をパラレルに描いた演劇であり、《プラータナー》の演出に向いていたのではないか。

公式サイト:https://asia2019.jfac.jp/

2019/07/03(金)(五十嵐太郎)

HMSベルファスト号

[イギリス、ロンドン市]

映画やアニメではさんざん見ていたが、ロンドンで本物の軍艦に初めて乗船した。現在、テムズ川に係留された「HMSベルファスト号」は1938年に進水し、第二次世界大戦ではDデイ(ノルマンディー上陸作戦)でも活躍し、1963年に退役した軽巡洋艦である。建築で言えば、モダニズムの時代にあたり、どれくらいの効き目があるのかわからないが、外観は迷彩を施されていた。全長は187m。高層ビルを横倒しにしたくらいの長さがある。乗船すると、テムズ川の両岸がよく見え、ロンドン橋のほか、右手にはノーマン・フォスターによるロンドン市庁舎、左手にはバンク周辺の高層ビルが林立する風景が楽しめる。つまり、かつての戦艦はすっかり観光地となり、都市を眺める展望の機能を獲得している。艦橋からの見晴らしも確認できる。戦争と観光は、ともに眺めのよい場所をおさえることが重要であるという原理を想起させるだろう。



テムズ川に浮かぶ「ベルファスト号」。乗船して内部を見学できる


「ベルファスト号」の見学案内図

とはいえ、当時の最先端テクノロジーをつぎ込んだ、海に浮かぶ鉄の建築だ。やはり、内部の空間も興味深い。大量の乗客を収容するために、垂直に十数層も重ね、上部を客室、下部をサーヴィスのバックヤードにあてる大型客船(全長も350m以上あり、横倒しにした超高層ビルだ)とは違い、機能性を最優先する戦艦は、食堂、調理場、食料貯蔵庫、ハンモックの寝床、売店、治療室など、生活関係の空間をおおむねワンフロアに集約し、水平移動だけですむようにレイアウトされている。



「ベルファスト号」内のオペレーションルーム


「ベルファスト号」に設置された三連装砲塔内部


「ベルファスト号」内のチャペル

展示で興味深いのは、ロンドンが得意とする(?)蝋人形を使い、当時の様子が再現されていること。逆にいうと、それ以外の空間は、砲塔から司令室まで、船員がそれぞれの立場で、コマのひとつとなる巨大な戦闘機械である。とりわけ、当時は最先端だった旧式のコンピュータを備えており、船の技術が輝いていた時代を象徴するかのようだった。



弾道計算を行なっているところ


船内の治療室。歯科検診の様子が再現されている


ハンモックの寝床が再現されている

2019/06/28(金)(五十嵐太郎)

「マンガ」展

会期:2019/05/23~2019/08/26

大英博物館[イギリス、ロンドン]

16年前、京都国立博物館で「アート オブ スター・ウォーズ」展が巡回したときも驚いたが、ロンドンの大英博物館で「マンガ」展(The Citi exhibition Manga)が開催されている。もちろん、これは持ち込みではなく、館の学芸員による独自企画だ。大英博物館は、2013年の「春画」展(Shunga: Sex and Pleasure in Japanese Art)も話題を呼んだが、今回は現代日本のサブカルチャーを真正面からとりあげている。



大英博物館「マンガ」展、会場入口付近の様子


マンガの読み方を教えるコーナー

「マンガ」展は、まず冒頭において読み方(コマの順番、ふきだしの形、オノマトペなど)と描き方、近代以前の絵画や明治の新聞漫画との連続性、手塚治虫という原点を説明したあと、スポーツ、冒険、SF、ホラー、学習漫画など、多岐にわたるジャンルを紹介している。複製が多かったパリの「MANGA⇔ TOKYO」展(2018)に比べると、原画を借りられている点は、さすが大英博物館だ。



ふきだしのセリフの上に英訳が貼られている


マンガ編集の現場にあたる編集部の紹介

もっとも、膨大なタイトルがある漫画の世界を網羅するのは難しく(なぜあの作品がないのかを考えだすと、キリがない)、むしろ漫画週刊誌の編集部=生産現場、貸本屋、コミケ、コスプレ、ゲーム化、官公庁や鉄道のキャラ利用、アート化(赤塚不二夫の娘、ロンドン在住のアーティストの赤塚りえ子の作品、ほか)など、漫画をとりまく日本の状況を視野に入れたのが特徴的である。アートを扱う美術館ではなく、人類学的な切り口をもつ博物館ならではの試みだろう。




手塚治虫のコーナー


手塚治虫の展示コーナー、天井から拡大したコマが吊り下げられている

さて、絵画やプロダクトとは違い、漫画を展示する方法には工夫が必要である。しかも日本語の作品だ。原画のサイズは小さいため、会場の天井から拡大したイメージを数多く吊り下げて、天井の高い空間を保たせている。また実際の漫画を並べた本棚を設置し、自由に読めるコーナーをつくり、QRコードから電子書籍にもアクセスをうながす。言語に関しては、いくつかの手法が確認された。原画にアクリルをかぶせ、ふきだしの日本語の上に英訳を貼っているもの。原画の横に拡大した同じイメージを並べ、複製画のふきだし内は英訳とするもの。さらにオノマトペは、コマの欄外に意訳を付すもの。いずれにせよ煩雑になるのは避けられない。また天井から吊るされたイメージも合わせると、同じ絵が3回も登場するのはあまりスマートではないように思われた。そして余談だが、漫画家を紹介するキャプションに血液型まで入れたのは(日本的なのかもしれないが)不要だろう。



赤塚不二夫の娘・赤塚りえ子の作品


実際のマンガ本が並べられている書棚

2019/06/28(金)(五十嵐太郎)

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