2020年01月15日号
次回2月3日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

1984+36、Artists' Talk「回顧と展望」

会期:2019/11/03~2019/11/23

遊工房アートスペース[東京都]

杉並区の遊工房アートスペースを訪れ、高島亮三の個展「1984+36」のほか、レジデンスのプログラムで滞在しているニュージーランドのアーティスト、ヒカル・クラークによる「善良なるスポーツ精神」展の制作現場を見てから、トークのゲストとして参加した。


ヒカル・クラーク「善良なるスポーツ精神」展の制作風景より


高島はサイコロを用いた作品で知られるが、ただミニマルな要素を反復するだけでなく、日本社会への批評を込めている。例えば、大量のサイコロを集合させたメタ・サイコロというべき「ナショナル・ダイス」や、すべての面が赤い1の目になった「ジャパン・オール」などである(ちなみに、1の目が赤いのは国際標準ではなく、日本のサイコロに多い)。今回、筆者は執筆した時期があいちトリエンナーレ2019と重なったこともあり、「炎上する社会で求められる知性:高島亮三論」をカタログに寄稿した。すなわち(慰安婦を連想させる)少女像や天皇像などの具象的なアイコンはネットで燃えやすいが、高島のような抽象的な表現はそうした事態を避けやすい。なお、展覧会のタイトルは、言うまでもなくジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984』から36年後が、2度目の東京オリンピック開催の年にあたるという意味だ。同名の作品もあり、一円ならぬ「一丸」のコインに「一九八四+三十六年」と刻まれている。


高島亮三個展「1984+36」の展示風景より



高島亮三個展「1984+36」の展示風景より

さて、アーティスト・トークの「回顧と展望」は、遊工房アートスペースの活動30周年を記念する午前から夜まで続く長丁場のプログラムだったが、都合により筆者はリサーチャーのヤン・チェンと辻真木子がモデレータをつとめた第1部の「なんでこうなるの……?」にのみ参加した。

興味深いのは、高島とクラークのいずれもが東京オリンピック2020をテーマに選び、貨幣をモチーフにしていたことだ。トークでは、他のレジデンス作家であるクリントン・キングやジュリー・カーチスも交え、国家、あいちトリエンナーレ2019をめぐる状況、現代のアート・マーケットなどのトピックが話題になった。ここで改めて判明したのは、やはり日本人はオリンピックに対して特別な思い入れがあるということだった。そして民間のギャラリーが、設立当初から海外の作家を受け入れ、こうした国際的な議論の場を設けていることにも驚かされた。なお、2002年に開始された善福寺公園とその周辺を使った「トロールの森」という国際野外アート展にも、遊工房アートスペースが深く関わっている。


「Youkobo Exhibition|3-23 November, 2019」より、クリントン・キング&ジュリー・カーチスの展示風景

2019/11/10(日)(五十嵐太郎)

フェスティバル/トーキョー 19

会期:2019/10/05~2019/11/10

東京芸術劇場、あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)、シアターグリーン、トランパル大塚、豊島区内商店街ほか[東京都]

今年のフェスティバル/トーキョー 19は、大学用務が入り、2つの公演をキャンセルしたため、この日にやっと参戦することができた。

シアターグリーンのオクイ・ララ×滝朝子「Toツー通」は、なんの予備知識も入れずに観劇したのだが、「トランスフィールド from アジア」のテーマにふさわしい、日本、マレーシア、エチオピア、ミャンマーが交差するレクチャー・パフォーマンスだった。演劇というフォーマットでの完成度は粗いかもしれないが、「境界とは何か」を考えようというメッセージはダイレクトに伝わる。大変だとは思うが、率直に日本全国の学校で、こういう内容のプログラムを観劇できたら、とても良いだろう。授業や教科書だけでは伝わらない、切実なリアリティが体験できることが、舞台の魅力である。葛飾区の四ツ木がリトル・エチオピアになっていることも初めて知ったが、紹介されていたレストランにも行ってみたいと思った。さて「境界」というテーマだが、おそらく池袋の小さな劇場にわざわざ訪れる観客は、異文化交流の重要さをすでに十分わかっている層だろう。とすれば、劇場の内部と外の世界を隔てる大きな壁の存在も考えさせられた。

同日の夕方からは芸術劇場にて、シンポジウム「批評から見る〈トランスフィールド〉」を聴講した。まず、劇作家のナビラ・サイードと椙山由香が、今年5月にシンガポールで初めて開催されたアジアの批評家のプラットフォーム形成を目的とした国際ミーティング「アジアン・アーツ・メディア・ラウンドテーブル」を報告した。

続いて、この「アジアン・アーツ・メディア・ラウンドテーブル」にも登壇していた編集者の小崎哲哉が、あいちトリエンナーレ2019で発生した事件に触れて、表現の自由が窒息していく状況に対抗するために、アジア各地における検閲の状況を共有し、戦略を考える必要性を指摘した。なるほど、シンポジウムで触れられていたシンガポールにおける表現の検閲がかなり厳しいことさえ、日本ではほとんど知られていない。東南アジアのアートを束ねようという国立美術館の動向はすごいけれど、一方で、何がダメなのかというコードも国家が厳しく制限している。アジアのアーティストの叡智から、われわれが学ぶことは少なくない。

公式サイト: https://www.festival-tokyo.jp/19.html/

2019/11/02(土)(五十嵐太郎)

金峯神社、沢田マンション

高知で2つのセルフビルド建築を訪れた。ひとつは高知工科大学で教鞭をとる建築家の渡辺菊眞さんの分割造替・金峯神社、もうひとつは有名な沢田マンションである。


前者は地方の過疎化と高齢化する山間地において長い間、補修する費用がなく、ほとんど崩れかけていた神社を復活させるプロジェクトだ。興味深いのは、「分割造替」と命名したように、その際、拝殿と本殿に分割し、前者を地域住民が集まりやすい低い場所に移動させ、おかげで途絶えていた祭りが再開されたことである。一方、後者は江戸時代にさかのぼる小さい本殿だけを残し、老朽化していた覆屋は解体し、もとの敷地の隣に再建した。


そして驚くべきなのは、いずれも単管やポリカーボネートなどを用いた超ローコストのセルフビルドであること。したがって、見たことがない造形であり、簡素なデザインだ。一般的に寺院は建築家による新しいデザインが登場しやすいが、保守的な神社ではそれが難しい。だがここは、厳しい状況ゆえにラディカルな新しい神社モデルが成立した。もっとも、日本各地の限界集落の神社では、おそらく似たような状況を迎えているはずである。



金峯神社の拝殿



金峯神社の本殿に続く、壊れた鳥居と階段



金峯神社の本殿


念願の沢田マンションは、大きなショッピングセンターの近くにたつ。これは1971年から夫婦がセルフビルドで建設した5階建て集合住宅である(本来はもっと高い階数をめざしていたらしいが)。よくここまで許されたと思う凄まじいプロジェクトであり、世知辛くなってしまった現代日本ではもうできないだろう。

興味深いのは、シュヴァルの理想宮のように、この手の建築は装飾的になりがちだが、沢田マンションはそれがなく(住人が後から加えたと思われる装飾はあるが)、基本的にはコンクリートのヴォリュームが強調されたモダニズム系の造形だ。もっとも、合理的なプランというよりも、コンクリートの迷宮のような空間体験を味わう。また広い通路(植栽などが置かれ、コミュニティ・スペースになっている)、両サイドを貫通するヴォイド、多様な間取りなど、いかにも現代の建築家がやりそうなデザインも散見されて興味深い。


沢田マンションの外観



沢田マンションのスロープと階段



沢田マンションの通路



沢田マンションの屋上庭園


2019/10/30(水)(五十嵐太郎)

ART PROJECT KOBE 2019: TRANS-、「タトアーキテクツ」展

兵庫県神戸市、新開地地区、兵庫港地区、新長田地区(TRANS-)
ギャラリー島田(タトアーキテクツ展)
[兵庫県]

アートプロジェクト神戸2019のTRANS-は、これまでのジャンル混淆+非現代アート的な神戸ビエンナーレの祝祭とはまったく違う、むしろ岡山芸術交流に近い尖った企画だった。ディレクターは林寿美である。思い切ったのは、参加アーティストをわずか2名に絞っていること。もっともそのうちのひとり、神戸出身でもあるやなぎみわは3日間のパフォーミング・アーツの参加だから、実質的にはグレゴール・シュナイダーの個展を街に散りばめながら開催したというべきだろう。

彼の作品《美術館の終焉―12の道行き》はいずれも建築的であり、TRANS-のテーマにふさわしく、神戸の街の日常の隣に異世界を忍び込ませている。作品を順番にたどる旅を通じて、知らなかった神戸の顔に触れていく。遠隔地の空間におけるふるまいが同期する作品。旧研究所の廃墟の真っ白な空間。地下街で反復される同じ浴室。ツアーで訪れる2つの私邸の個室で展開されるアートやパフォーマンス。かつて労働者の宿泊所だった施設の室内が真っ黒に塗られ、暗闇で小さなライトを持ってさまよう体験。地下道のドアの向こうに出現する収容キャンプの個室群。そして拡張現実によって見える古い市場をさまようデジタル世界の高齢者たち。



グレゴール・シュナイダー《12の道行き》より。廃墟となった旧研究所の内部は真っ白な空間にされている



グレゴール・シュナイダー《12の道行き》より。廃墟となった旧研究所の中



グレゴール・シュナイダー《12の道行き》より。かつて労働者の宿泊所だった施設。室内は真っ黒に塗られていた



グレゴール・シュナイダー《12の道行き》より。拡張現実で見ることができる、デジタル世界の古い市場をさまよう高齢者たち

また、このTRANS-のタイミングにあわせて企画された島田陽「タトアーキテクツ」展(ギャラリー島田)も訪れた。実は島田は、今回のTRANS-の建築的な側面をバックアップした建築家でもある。さて、同展の1階は家型を中心にひたすら模型を並べる、いわゆる建築展の体裁だったが、一方で地階は偏光フィルムによる空間インスタレーションを展開していた。島田による偏光フィルムの作品は、神戸ビエンナーレ2011の元町高架下アートプロジェクトでも見ていたが、今回は特に吊るされた 2枚のフィルムで構成されるモノリスのような虚のヴォリューム群が、鑑賞者が移動する視差によって、驚くほど多様に色彩と表情を変えてゆく。個人的にはミース・ファン・デル・ローエのバルセロナ・パヴィリオンで体験した、めくるめくガラスのリフレクト現象を想起させた。あのとき自分はそれを幽霊のような建築だと思ったのだが、今回の展示室に構築された虚のヴォリューム群も、偏光フィルムによってそれに近い効果を生みだしていた。



島田陽「タトアーキテクツ」展より。家型を中心にした模型群の展示風景



島田陽「タトアーキテクツ」展より。偏光フィルムによる空間インスタレーション


公式サイト:
ART PROJECT KOBE 2019: TRANS- http://trans-kobe.jp/
タトアーキテクツ展 http://gallery-shimada.com/?p=6443

2019/10/22(火)(五十嵐太郎)

「Under 35 Architects exhibition」展覧会とシンポジウム

会期:2019/10/18~2019/10/28

うめきたSHIPホール[大阪府]

大阪における秋の恒例となったU35(「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会2019」)の展覧会とシンポジウムに今年も参加した。昨年のゴールド・メダルに選ばれた中川エリカはシード枠を使わず、不参加となったが、セレクションに公募だけでなく、推薦制度を導入したこともあり、いつもより個性的な若手建築家が揃った。それぞれの出展者を紹介しよう。

今年のゴールド・メダルに選ばれた秋吉浩気のプロジェクトは、デジタル・ファブリケーションの時代において、ハウスメーカーとは違う、新しい建築生産を視野に入れたもの。かつてFOBが挑戦した試みの現代ヴァージョンのようにも感じた。


秋吉浩気の出展作


伊藤維の作品は、フォルマリズム的な手法をベースとしているが、コンテクストを読みながら、それを崩していく住宅である。展示に用いた模型のための什器は家具としてリサイクルされるのも興味深い。


伊藤維の出展作

パーシモン・ヒルズ・アーキテクツ(柿木佑介+廣岡周平)は、埼玉の観音堂において片方の側面を開くデザインを試みた。なるほど、これは空間が奥に向かって展開する宗教建築において、新しい手法である。


パーシモン・ヒルズ・アーキテクツの出展作


佐藤研吾は、インドや福島でワークショップを展開しつつ、モノの工作のレベルから建築を捉えなおそうと企てる。その方向性は、全体性や構成に向かうよりも、スカルパ的なリノベーションに相性がいいのではないかと思われた。


佐藤研吾の出展作


高田一正+八木祐理子は、コペンハーゲンの運河の水上に建築的なパヴィリオンを浮かせるプロジェクトを展開している。来年、世界運河会議が名古屋で開催されるので、日本の場合、類似した試みはどこまで可能なのかに興味をもった。


高田一正+八木祐理子の出展作


津川恵理は、公共空間の実験や神戸のコンペの最優秀賞案などに対し、新しいノーテーションを構想している。おそらく、これが設計にどのようなフィードバックをもたらし得るかが今後の鍵だろう。



津川恵理の出展作


百枝優は、Agri Chapelから続く、樹木状の天井の架構によって、葬祭場でも空間の特性を獲得している。この手法を冠婚葬祭以外のプロジェクトで採用する場合、どのような展開になるかが期待される。


百枝優の出展作


なお、今年のゴールド・メダルの討議では、完全には説明しきれない謎や魅力を残す試みの伸びしろが注目され(しばしば審査の場面で起こることだが)、明快に設計されたことで限界もわかってしまう実作組が割りをくらう展開だった。


Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会2019 公式サイト: http://u35.aaf.ac/

2019/10/19(土)(五十嵐太郎)

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