artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
メトロポリタン歌劇場「アイーダ」
メトロポリタンオペラハウス(リンカーンセンター内)[アメリカ合衆国ニューヨーク市]
ニューヨークへ移動する。朝に出発したのに、時差や飛行機の大幅な遅れで、リンカーンセンターのオペラ「アイーダ」に間一髪で到着する。椅子に座った瞬間に音楽が始まった。高さのある舞台を生かし、垂直方向に展開する舞台美術が、ど迫力。最後は、上下二段に空間をつくり、それぞれに物語が進む。いかにもエジプトらしい太い柱の神殿のイメージも再現している。このスペクタクル感、オリエンタリズム、そして過度なロマンは、映画の前身といえるだろう。
2014/12/29(月)(五十嵐太郎)
《エイモン・カーター美術館》、《フォートワース・コミュニティ・アーツ・センター》、《フォートワース科学歴史博物館》
[アメリカ合衆国テキサス州]
エイモン・カーター美術館(1961)へ。ここの手前のテラスから、キンベル美術館やフォートワースの街を一望できる。フィリップ・ジョンソンが設計したモダンだけど、古典風味の建築で、リンカーンセンターのデザインに近い。が、最大の特色は、テキサスのシェルストーンによる壁・柱・天井だろう。近づいて見るとよくわかるのだが、ぎっしりと貝殻の跡がある石のテクスチャーは驚くべき存在感だ。アメリカの芸術を紹介する美術館だが、オキーフ、ハドソン・リバー派、レミントンとラッセル、ちょうど企画展をしていたジョージ・ビンガムなど、西部の方に焦点をあてる。キンベルと同じく、ここも無料だ。日本も企業や財団などによる私立美術館は少なくないが、高い入場料のものばかりである。
《フォートワース・コミュニティ・アーツ・センター》(1954)は、バウハウスのヘルベルト・バイヤーによって設計された。彼はグラフィック・デザインで有名だったが、建築も手がけていたとはあまり知らなかった。いわゆるモダニズムだが、地元の建築による同じテイストの増築がなされている。安藤建築が新しくできるまでは、フォートワース近代美術館はここにあったようだ。
さらに隣の《フォートワース科学歴史博物館》(2009)は、レゴレッタの設計である。メキシコ色が強いこの地ならではのセレクションだろう。目がさめるような鮮やかな色の組み合わせで、空間を構成し、バラカン風の中庭や、カーン風(?)の連続ヴォールト天井を組み込む。科学の展示は、わかりやすく楽しい。エントランスの吹抜けでは、911の世界貿易センタービルの残骸である焼けた鉄骨を展示している。
またその隣の《カウガール博物館》(2002)と《殿堂》(2002)は、一見昔のテキサス・デコ風だが、近くの博覧会のときにつくられたアールデコ建築、ウィルロジャース・メモリアルセンターへのオマージュであり、2002年竣工の新築だった。展示を見て、アメリカの映画におけるカウガールの表象の研究をやったら面白そうと思う。
2014/12/28(日)(五十嵐太郎)
《キンベル美術館》、《フォートワース美術館》
[アメリカ合衆国テキサス州]
ルイス・カーンの《キンベル美術館》(1972)は、40年以上がたったと思えない新鮮さで、今なお比類なき空間である。いや、用途を超えた力強い形式性の反復ゆえに、これがもっと昔から存在する廃墟のリノベーションのように見える。また当時から変わっていない可動壁のシステムや設備のおさめかたがおもしろい。
ただし、天候の状況やスポット照明のせいか、光の効果はあまり感じられなかった。翌日に再訪すると、今度は天気と時間帯がよく、光の奇蹟に遭遇することができた。手前の水面に低い角度で射し込む西日が反射し、外ヴォールト内部だけでなく、スリットを通じて、内部の天井に届き、映像のような、ゆらめく光の帯が発生する。それがさらにもう一度反射して、床に届く。またヴォールト同士の隙間をぬって、玄関床に鋭い光の弧を描く。水面をバウンドした光が奥のカフェの壁に到達する。ガラス面の反射によって、光と逆方向の外部に落ちる影。トップライトからの採光と絡みあう別の光。こうした様々な現象が時間の経過とともに、刻々と光の状態が変化していく。光が差し込む角度を考えると、夏や午前では体験できないかもしれない。
2013年にオープンしたばかりの《キンベル美術館》のレンゾ・ピアノによる《新棟》(2013)は、カーン棟と中心軸や幅をそろえ、空間単位の反復も類似させながら、彼らしい軽やかな明るい建築になっている。透明性が高く、普段から見えるホール、屋根に緑を配し、埋めたように見せる奥のヴォリュームなどは現代的である。カーンへのリスペクトと、自身の個性を巧みに融合させた知的な作品だ。このプロジェクトをピアノに依頼したのが、お見事である。ともあれ、キンベル美術館では、コレクションの展示が完全無料で、太っ腹だ。カーン棟では、古代彫刻、イタリア、スペイン、フランス、イギリス、近代絵画、建築の各段階のスタディ模型の展示、ピアノ棟では、アフリカ、アジア、企画展、ホールが割り当てられている。ちなみに、カーンの最初期案は、むしろアーチが足下で連続していた。
安藤忠雄の《フォートワース美術館》(2002)は、想像以上にデカく、外に対してL字配置で閉じて、内側の水面からの見えを勝負する。住吉の長屋ほか、過去作の要素を引き延ばしながら、大空間において再構成したかのようだ。展示は近代と現代美術が中心である。ジェニー・ホルツァーや屋外のセラが良い。企画では、シンディ・シャーマン、キース・ヘリング、バスキア、ゲリラ・ガールズなど、1980年代のアメリカ現代美術を回顧していた。
2014/12/27(土)(五十嵐太郎)
フォートワース
[アメリカ合衆国テキサス州]
アメリカのフォートワースへ。高速を使って、空港から市内まで見える風景は、高いビルがなく、空が大きく見えるような平らな土地と、起伏のある土木インフラが続く。おそらく、良い景観を狙ったのだろうが、橋脚や壁などの土木構築物の表面が、すべて土っぽい色で塗装されていたり、似た色の擬岩、擬石積でおおわれている。施工がラフなのはともかく、デザインとして褒められない。ダウンタウンは、こじんまりとしてこぎれいで、あまり人気はないが、サンダンス・スクエアだけは賑わう。ハリボテっぽい、あるいは書き割りのような建物も散見されるが、実は復元や修理によるものが多い。端正なアールデコや、20世紀初頭の建築がよく残っている。様式建築系では、もこもこしたルスティカ風の仕上げを過剰に使うのが、この地域の好みのようだ。日本の地方都市より、全然豊かな建築資産を維持している。現地に到着して泊まるホテルが、実はケネディ大統領が暗殺された前夜に宿泊していたところと知って驚く。
2014/12/26(金)(五十嵐太郎)
『ザ・メイズ・ランナー』、『ザ・ギバー』
日本ではまだ公開されていない『ザ・メイズ・ランナー(THE MAZE RUNNER)』(監督:ウェス・ポール)と、『ザ・ギバー』(フィリップ・ノイス、原作:ロイス・ローリー)は、よく似た設定だった。前者は記憶を失った青年らが巨大な壁の迷路に囲まれた世界に送り込まれ、そこで安定しかけてきた共同生活を継続するか、危険と向きあい脱出するかの選択を迫られる。後者は歴史、感情、色彩が抹消された、白い家が並ぶ郊外住宅地のようなユートピアにおいて、過去の記憶を学ぶ役割を担わされた主人公が閉じた世界の外に向かう。
2014/12/25(木)(五十嵐太郎)