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五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

フューリー

映画『フューリー』(監督:デビット・エアー)を見る。反『永遠の0』映画として素晴らしい。涙のネタとして戦争を使う『永遠の0』のような、CG頑張りました、そしてお前ら泣けという過剰な物語をつけることがない。回想も後日談も何もない、戦場のみの描写に終始し、本物の戦車がかもしだす実在感と、ディテールの表現で押し切る超重量級の作品である。『永遠の0』が押し付けるような説教臭い道徳もない。ちなみに、『紙の月』の観客がOLばかりだったのに対し、『フューリー』はほとんど高齢の男性だった。

2014/12/19(金)(五十嵐太郎)

ゴーン・ガール

映画『ゴーン・ガール』(監督:デヴィッド・フィンチャー)を見る。事前に予告編で紹介していた展開は、全体からすると、ほんの序でしかない。女は怖い、という率直な感想だとネタバレ気味になってしまうが、それに終わらず、映画が終わった後も、結婚という日常にひそむ不気味な恐怖の感覚が持続する。フィンチャー監督らしく、その後はメディアを巻き込み、何度も物語がひっくり返り、思いがけない結末に向かって、ツイストを繰り返す。要は一種のファム・ファタルものなのだが、ベン・アフレックの馬鹿夫ぶり名演が、その効果に大きく貢献している。

2014/12/18(木)(五十嵐太郎)

記録と想起・イメージの家を歩く

会期:2014/11/15~2015/01/12

せんだいメディアテーク 6Fギャラリー4200[宮城県]

3.11関係の映像を紹介するものだが、「イメージの家を歩く」の副題通り、25の小部屋が連鎖する展示デザインが印象的だった。リビング、寝室、台所など、すべて具体的なインテリアがある小さな空間に映像を置くのだが、なんとも不思議な気持ちになる。ただし、本棚の中身もフツーで良かったように思う。ゴダールやTAZなど、いかにも文化施設というセレクションではなく、どこの家にもありそうな平凡なモノの方が、この展示には向いている。作品は、酒井耕+濱口竜介が向きあう対話の撮影手法を再現した部屋、藤井光による沿岸風景、小森はるか+瀬尾夏美の波のした、土のうえ、川村智美の石巻記録、長崎由幹によるパイプの椅子インスタレーション、仙台で原発の問題を問う映像など、さまざまなタイプの作品を鑑賞できる。


酒井耕+濱口竜介による展示風景


2014/12/16(火)(五十嵐太郎)

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活動のデザイン展

会期:2014/10/24~2015/02/01

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

社会的、アート的、SFのテイストなど、今後の世界を考えるさまざまデザインを紹介するものだが、幾つか興味深い作品に出会う。時計の群が文字を形成するア・ミリオン・タイムズ、タクラムによる身体化された百年後の水筒、風で転がりながら地雷を除去する装置マイン・カフォン、ホンマタカシのカメラ・オブスキュラとしての建築、大西麻貴+百田有希の望遠鏡のおばけ、ドローンの巣などである。


左:ヒューマンズ シンス 1982 《ア・ミリオン・タイムズ》(2014)
右:大西麻貴+百田有希/o + h 《望遠鏡のおばけ》(2014)


2014/12/15(月)(五十嵐太郎)

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チェルフィッチュ「スーパープレミアムソフトWバニラリッチ」

会期:2014/12/12~2015/12/21

KATT 神奈川芸術劇場[神奈川県]

これは傑作である。コンビニを舞台にして、人々の物語をドライブさせるのが主眼ではなく、変わらない日本の日常やシステムを象徴するコンビニ論そのものになっているからだ。バッハの平均律にあわせて、48のシーンから構成される形式も良かった。そして岡田利規は彼女を念頭に脚本を書いたらしいのだが、水谷役の川崎麻里子の演技が忘れがたい。

2014/12/15(月)(五十嵐太郎)