artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
空間社屋
[韓国、ソウル市]
金壽根が設計した《空間社屋》(1976)へ。かつては『空間』誌の編集部や事務所が入っていたが、今年からアラリオ(あいちトリエンナーレに参加した名和晃平、青野文昭も扱う)のミュージアムに転用された。原美術館のように、トイレを含む、各部屋にアートを置く。が、もとの空間の雰囲気はだいぶ消えた。もっとも、前は頼んで内部を見せてもらったが、現在は入場料を払えば、誰でも観覧できること、また貴重な建築が使われ続けていることはありがたい。
2014/11/29(土)(五十嵐太郎)
国立現代美術館ソウル館、「MMCA Hyundai Motor Series 2014:イ・ブル」展
会期:2014/09/30~2015/03/01
国立現代美術館ソウル館[韓国、ソウル市]
《国立現代美術館ソウル館》(2013)は、景福宮隣のギャラリー街にある文化的な環境に囲まれていることから、高さを抑え、既存の近代建築をリノベーションしながら、谷口吉生風のモダンな空間を継ぎ出したものだ。動線はややわかりにくい。が、展示は充実していた。まず、吹抜けを利用して、レアンドロ・エルリッヒによる船と仮想水面のインスタレーションが展開する。「イ・ブル」展は2つの新作だった。カンパネラ『太陽の都』に着想をえた、鏡の断片を床に散りばめた大空間と、ブルーノ・タウトのクリスタルのユートピアを参照した、天井から逆さ吊りの巨大インスタレーションである。いずれも、これまで彼女が得意とした手法を、さらに劇的に展開している。コレクションの他は、バウハウスにおけるオスカー・シュレンマーのメカニカルな身体運動や衣装、グロピウスのトータルシアターなどの特集展示、金壽根らの作品を含む、韓国の近代建築のアーカイブ展示、数学的なアートなど、盛りだくさんだった。国立美術館に建築がちゃんと入っているのが羨ましい。
2014/11/29(土)(五十嵐太郎)
《univ.church》、《Chungha BUILDING》
[韓国、ソウル市]
Lee EunseokのChongsin の《univ.church》と、MVRDVの《Chungha BUILDING》(2013)を見学した。いずれもリノベーションであり、古い躯体に新しいマスク=仮面をかぶせて外観を一新している。ただし、内部空間の介入が少ないのが物足りない。後者は周辺にブランド建築が多く、街並みが刺激的だった。
2014/11/28(金)(五十嵐太郎)
韓国漫画博物館
[韓国、京畿道富川市]
韓国漫画博物館(2000年開館)は、東大門のデザインプラザとは対照的に、しっかりとした常設展示で、韓国の漫画史を紹介し、展示の工夫もさまざまで楽しい。開架のライブラリーもそれなりの量を自由に手にとれる。改めて、多くの日本漫画が韓国に入っていることがよくわかる。日本でも、国立の漫画博物館をつくるべきではないか。学芸員と面会し、日本の漫画と比較しつつ、韓国の漫画における窓表現についてヒアリングを行う。80年代前の検閲によってリアリズム表現を避け、建築などの背景を記号化したこと。日本と韓国の住宅事情、長期連載や日常生活表現の違いなど、興味深い話をうかがう。
2014/11/28(金)(五十嵐太郎)
東大門デザインプラザ
[韓国、ソウル市]
ソウルのザハ・ハディドが設計した《東大門デザインプラザ》(2014)を訪れる。部分オープンしたものを2010年に見たときの評価は最悪だったが、全体像を見て印象は良くなった。彼女らしいダイナミックな空間で、多くの観光客も集まる、新しい都市のランドマークになっている。他のザハ建築と同様、とくに屋内外の通路、やたら天井高のある螺旋のスロープ、階段などの動線が徹底的に見せ場となっている(ショートカットせず、空間の体験を強いるべく無理矢理長く歩かせられるのだが)。ただし、逆に展示空間は弱い。4階の子供向け常設も、彼女の空間と無関係の展示デザインである。ザハの場合、移動の空間が魅力的なのだから、空港や駅など、交通施設の相性が良いだろう。デザインミュージアムは常設のコレクション展示がなく、コンテンツがまだスカスカの印象だった。内部への自然光が少ない。リベスキンドのユダヤ博物館と同様、展示がないときが、一番カッコよいタイプの空間である。夜の表情を確認すべく再訪したら、内からの光の演出をやりたかったので、開口を減らしたのかとも思った。夜も人気は絶えず、特にカップルが多い。ある意味でコンテンツがなくても、空間の力だけでこれだけの集客があるのは凄いことだ。
2014/11/27(木)(五十嵐太郎)