artscapeレビュー
《キンベル美術館》、《フォートワース美術館》
2015年01月15日号
[アメリカ合衆国テキサス州]
ルイス・カーンの《キンベル美術館》(1972)は、40年以上がたったと思えない新鮮さで、今なお比類なき空間である。いや、用途を超えた力強い形式性の反復ゆえに、これがもっと昔から存在する廃墟のリノベーションのように見える。また当時から変わっていない可動壁のシステムや設備のおさめかたがおもしろい。
ただし、天候の状況やスポット照明のせいか、光の効果はあまり感じられなかった。翌日に再訪すると、今度は天気と時間帯がよく、光の奇蹟に遭遇することができた。手前の水面に低い角度で射し込む西日が反射し、外ヴォールト内部だけでなく、スリットを通じて、内部の天井に届き、映像のような、ゆらめく光の帯が発生する。それがさらにもう一度反射して、床に届く。またヴォールト同士の隙間をぬって、玄関床に鋭い光の弧を描く。水面をバウンドした光が奥のカフェの壁に到達する。ガラス面の反射によって、光と逆方向の外部に落ちる影。トップライトからの採光と絡みあう別の光。こうした様々な現象が時間の経過とともに、刻々と光の状態が変化していく。光が差し込む角度を考えると、夏や午前では体験できないかもしれない。
2013年にオープンしたばかりの《キンベル美術館》のレンゾ・ピアノによる《新棟》(2013)は、カーン棟と中心軸や幅をそろえ、空間単位の反復も類似させながら、彼らしい軽やかな明るい建築になっている。透明性が高く、普段から見えるホール、屋根に緑を配し、埋めたように見せる奥のヴォリュームなどは現代的である。カーンへのリスペクトと、自身の個性を巧みに融合させた知的な作品だ。このプロジェクトをピアノに依頼したのが、お見事である。ともあれ、キンベル美術館では、コレクションの展示が完全無料で、太っ腹だ。カーン棟では、古代彫刻、イタリア、スペイン、フランス、イギリス、近代絵画、建築の各段階のスタディ模型の展示、ピアノ棟では、アフリカ、アジア、企画展、ホールが割り当てられている。ちなみに、カーンの最初期案は、むしろアーチが足下で連続していた。
安藤忠雄の《フォートワース美術館》(2002)は、想像以上にデカく、外に対してL字配置で閉じて、内側の水面からの見えを勝負する。住吉の長屋ほか、過去作の要素を引き延ばしながら、大空間において再構成したかのようだ。展示は近代と現代美術が中心である。ジェニー・ホルツァーや屋外のセラが良い。企画では、シンディ・シャーマン、キース・ヘリング、バスキア、ゲリラ・ガールズなど、1980年代のアメリカ現代美術を回顧していた。
2014/12/27(土)(五十嵐太郎)