artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

「Uneven Growth:Tactical Urbanisms for Expanding Megacities」展

会期:2014/11/22~2015/05/10

MoMA(ニューヨーク近代美術館)[アメリカ合衆国ニューヨーク市]

MoMAの建築セクションでは「不揃いな成長:膨張するメガシティの戦略的アーバニズム」展と題し、ムンバイ、ラゴス、香港、NY、イスタンブールなどの6都市のリサーチ&データ展示。こうした切り口は、レム・コールハースが流行らせ、2014年のヴェネツィアビエンナーレでピークになった手法だが、見せ方が完全にスタイル化している。デザイン部門は、音や音楽関係をテーマにした展示で面白い。が、やはり一番の迫力は20世紀美術のコレクションを展示する常設のエリアだろう。卒計やイベントで学生を見ていると、普段美術館に行かないだけでなく、企画展しか重視しない雰囲気を感じるが、本当に強い美術館は、常設のすごいところだ。2年前に大がかりな日本現代美術の企画展を見たが、今日駆け足で見たところ、日本人で展示されていたのは、スピーカーとゲーム(インベーダーやパックマン)などのデザイン系くらいである。ただ、建築部門では、日本建築展を準備しているようだし、そもそも箱の増改築を谷口吉生が手がけている。MoMAの止めは、レストランのザ・モダンがいつも美味いこと。『地球の歩き方』などの旅行ガイドはショッピング、レストラン、ホテルの後にようやくミュージアムの頁が来るくらい、食の方が好きなんだから(建築の説明はテキトーだし)、せめて日本の美術館も、こういうお店が普通にあるとよい。

2014/12/31(水)(五十嵐太郎)

「Henri Matisse:The Cut-Outs」展

MoMA(ニューヨーク近代美術館)[アメリカ合衆国ニューヨーク市]

マティスの「カット・アウト」展は、彼の切り抜き系の作品にしぼって紹介するもので、最初は小さい書物の挿絵くらいの大きさだが、チャペルのステンドグラスやスイミング・プールになると、壁全体、部屋まるごとのスケール感で展開する。切り絵を並べて、それで配置やサイズを検討する、創作のプロセスもよく示していた。1階では、あいちトリエンナーレの映像プログラムで紹介したビル・モリソンの作品を上映する。激しく劣化したフィルムを意図的に使うために、もとの物語と関係なく、独特のイメージをつくるのが興味深い。ロバート・ゴーバー展は、シンクや壁紙など、日用品をしつこく作品化し、不気味なズレを生じさせる。スターテバント展は、オリジナルをつくらず、いわばパクリアートを追求する。その他、美術系では、デビュッフェ、ロートレックの特集展示など、充実したラインナップである。

Robert Gober:The Heart Is Not a Metapor
会期:2014/10/4~2015/1/18

2014/12/30(火)(五十嵐太郎)

メトロポリタン歌劇場「椿姫」

メトロポリタンオペラハウス(リンカーンセンター内)[アメリカ合衆国ニューヨーク市]

メトロポリタン歌劇場のオペラ「椿姫」は、とてもモダンな演出だった。華やかな館で着飾った男女が入り乱れるのではなく、壁が弧を描き、床が斜めに傾いた白い抽象的な空間にソファだけを置く。赤い服のヴィオレッタ一人に対し、何十名ものスーツ姿の男たちが登場する。むしろ、マリリン・モンローの「紳士は金髪がお好き」のシーンを彷彿させる。

2014/12/30(火)(五十嵐太郎)

「ZERO:明日へのカウントダウン、1950-60」展

会期:2014/10/10~2015/01/07

グッゲンハイム美術館[アメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタン]

グッゲンハイム美術館のZERO展が思いがけず、素晴らしい。1950-60年代にドイツ、オランダ、ベルギー、イタリアのアーティストらが展開した、戦後の新しい出発としての芸術運動ゼロに焦点をあてたものだ。2013年にグッゲンハイムで同時代の具体美術展を開催していたが、20世紀の再考シリーズである。ゼロ展は、デュッセルドルフから始まった歴史、展覧会の再現、雑誌、映像、キネティック、振動や揺らぎによる視覚効果、火や煙で描く絵画、ニューマティックへの関心、光の操作などを紹介し、なるほど、その先駆性が確認できる。展覧会に参加したイヴ・クラインは、本当に才能があったのだと改めて感心させられる。

2014/12/30(火)(五十嵐太郎)

「CUBISM THE LEONARD A. LAUDER COLLECTION」展

会期:2014/10/20~2015/02/16

メトロポリタン美術館[アメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタン]

ラウダー・コレクションによるキュビスム展は、ブラックとピカソの二人が、1910年前後に毎年どのように急速に進化したかを並べつつ、グリやレジェの試みも紹介する好企画である。別のセクションでは、ブラックの40年代の室内絵画があり、上から見下ろす折りたたまれた不思議な遠近法だった。続いて、ポロックの6点の絵画を見る。3点はアメリカの抽象画の流れに置かれ、適度に余白を残した「秋のリズム30」が白眉である。残り3点は、彼が師事したベントンの巨大壁画「アメリカ・トゥデイ」(1930~31)をめぐる展覧会に関連して、ポロックの初期作品が紹介されていた。トーマス・シュトルートの特集展示は、1970年代半ばのニューヨークを撮影した初期の作品から、パンテオン、ミラノ大聖堂、天安門広場、タイムズスクエアなどの建築や風景写真までを紹介する。またエル・グレコ展も開催中で、複数の企画展が同時に開催できる巨大美術館ならではの充実した内容である。

2014/12/30(火)(五十嵐太郎)