artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
混流温泉文化祭
会期:2014/03/08~2014/03/23
丸屋ビル、仲見世通り商店街、平和通り商店街[静岡県]
久しぶりに熱海を訪問した。近年は人が減っていると思いきや、日曜だからなのか、それとも若者が海外に行かなくなったからなのか、想像以上ににぎわっていた。熱海に移住した戸井田雄(せんだいデザインリーグ2006で、地面に穴を掘ったファイナリスト)が企画した混流温泉文化祭を開催しており、駅前の商店街からuwabamiの作品が各店舗のショーウィンドウに展開する。メイン会場は、銀座通りの丸屋ビルの1階と地下である。かつてパチンコ屋だった建物の内部で、勝正光の鉛筆画、近藤洋平による椅子のインスタレーション、眞島竜男による温泉での着替え映像作品、田原唯之の交換する水のインスピレーション、木村恒介の横縞になった風景写真、机の傷に蓄光性の塗料をすり込んだ戸井田の作品が楽しめる。このイベントは、岩室温泉のある新潟からのサポートで実現できたらしい。銀座通り周辺の街歩きを行なう。震災と津波、そして大火のために戦前の建物はなくなり、20世紀後半のものだが、昭和の時層を感じる味のある建物が多く、なかなか面白い。その後、アートと街づくりをめぐって、藤浩志とトークを行なう。あいちトリエンナーレとかぶり、彼がディレクションした十和田奥入瀬芸術祭に行けなかったのが惜しまれる。
写真:近藤洋平による椅子のインスタレーション
2014/03/16(日)(五十嵐太郎)
未来へのマモリ・デザイン「熱発コンペ/日本列島、一部、発熱」二次審査 公開プレゼンテーション
ものづくり体験館[兵庫県]
遠藤秀平が設計した姫路の《ものづくり体験館》へ。彼が得意とする、帯状の要素を折りたたんだタイプの建築ではないが、直交する幾何学を回転/ドライブさせるデザインだ。特筆すべきは、素材の種類の多さである。天井、壁、床など、あらゆる面の仕上げが、異なるテクスチャーのバリエーションを奏でる。ものづくりの施設ゆえの選択だろう。
ここでは、未来へのマモリ・デザインコンペの公開プレゼンテーションと審査・討議に参加した。テーマの「熱発」は、+5度になった世界を想定するというもの。以前、遠藤秀平が企画した、+5mになった世界を考える、水没コンペの続編にあたる。1次選考を通過した9組が発表を行なうが、審査員(12名)の方が多いという贅沢な場だった。個人的には日常の延長だと、どうしても既視感が強くなりがちなので、極端な作品に興味をもった。例えば、蚊の誘導という類例がないユニークな切り口の森本悠義。逆円錐の海上都市を構想する劉志超(筆者による極熱賞は、これを選んだ)。そして水上の円型フロート群による遊農生活を提案した木作洋輔である。
2014/03/15(土)(五十嵐太郎)
東北大学五十嵐研究室ゼミ合宿2
会期:2014/03/10~2014/03/14
[中国・寧波市、杭州市、上海市]
寧波では、王 による《寧波博物館》と、隣接する公園に点在する5つのパヴィリオン、倉庫をリノベーションした寧波美術館のほか、馬清運による《寧波城市展覧館》と《天一広場》を見学した。王 は、スイスのピーター・ズントー、あるいはポルトガルのアルヴァロ・シザのように、地域に根づく建築家としてデザインを展開している。古材も活用するテクスチャーの感覚も素晴らしい。杭州は三度目の訪問だった。今回は、中国美術学院象山キャンパスの王 による一人万博状態と言うべき彼の建築群(ただし、隈研吾の美術館を建設中)、チッパーフィールドによる《良渚博物館》と《九樹村》、磯崎新の《中国湿地博物館》、六和塔、西湖をめぐる。王 の建築は、蘇州の庭園デザインを現代的に解釈し、立体化したかのようだ。むろん、かつてI. M. ペイもこれの引用を試みたが、ポストモダン的で記号的な操作感が強く、王の方がより手触りのある空間的な体験として展開している。中央の北京とは違う、江南の文化を意識した文人的な建築家の態度を感じられ興味深い。最後は上海に戻り、張永和が手がけたインテリアのあるレストランで食事をとる。
写真:上=寧波博物館(設計・王 )中=中国美術学院象山キャンパス(設計・王 )下=良渚博物館(設計・チッパーフィールド)
2014/03/10(月)~2014/03/14(金)(五十嵐太郎)
東北大学五十嵐研究室ゼミ合宿1
会期:2014/03/10~2014/03/14
[中国・寧波市、杭州市、上海市]
東北大学の五十嵐研のゼミ合宿で、中国を訪れた。上海は6回目の訪問になるが(最初は1991年頃)、留学生の辛夢揺と、清華大に留学中の市川紘司のコーディネートによって、まだ訪れていなかった最新の建築を効率的にまわることができた。とくに寧波と杭州で見学した、中国初のプリツカー賞受賞者でもある王 (ワンシュウ)の建築群、上海の屠殺場をリノベーションした1933老場坊、そしてneri&huによるおしゃれなリノベーションが印象に残る。ほかに上海では、磯崎新の《上海大証大ヒマラヤ芸術センター》、安藤忠雄の《震旦博物館》、隈研吾の《Z58》、青木淳の《尚嘉中心》など、日本人建築家の作品が増えていた。浦東一の高さとなる超高層ビルの上海センターは、もうだいぶ完成しており、すでにとても目立つランドマークになっている。
写真:上=《1933老場坊》、中上=neri&huによるリノベーション。中下=磯崎新《上海証大ヒマラヤ芸術センター》、下=《上海センター》
2014/03/10(月)~2014/03/14(金)(五十嵐太郎)
せんだいデザインリーグ2014 卒業設計日本一決定戦 公開審査
東北大学百周年記念会館川内萩ホール[宮城県]
仙台にて、卒計日本一決定戦の審査を担当した。午前は約3時間半かけて全作品を見る。昨年の日本一、高砂充希子の「工業の童話/パブリンとファクタロー」の影響が大きいことに驚く。すなわち、まわりの風景要素のサンプリング×搭状に積むタイプの作品が目立つ。そう言えば、大西麻貴の翌年にも同じ現象が起きていた。午後のファイナルの審査では、九州大学の岡田翔太郎による「でか山」で、日本一となる。アーキグラムのインスタントシティや神社建築の起源説のひとつを想起させる、七尾のプロジェクトだ。これは本当にできたら、是非行ってみたいと思わせる力があった。でか山は、この提案だからこそ、模型がデカ過ぎなのもありだと思ったが、来年以降、大きい模型だから評価されたと勘違いが起きないことを願う。今年の日本一決定の最後はでか山が突出し、バトルになりにくい流れだったが、ファイナリストでその可能性があったのは、東京理科大の安田大顕の「22世紀型ハイブリットハイパー管理社会」だった。22世紀管理社会は、ちゃんとした形態操作も伴うアイロニカルな社会批評なのだが、後者の細部があまり徹底されていないのが惜しかった。22世紀型の「理想」社会は、例えば、人口の半分が「犯罪者」とされ、いまの刑務所とは違うシステムだというところまで、フィクションのディテールがあれば推した。日本三は九州大学の市古慧の「界隈をたどるトンネル駅」である。リニアモーターカーの開通を見込み、名古屋駅の地下を巨大開発するというもの。地下街が発達した名古屋ならではの特性を活かし、名駅地下の着眼点はよいが、気になったのは、駅から納屋橋、錦三、円頓寺までずっとトンネル地下街が続くこと。これはさすがに相当な長さと規模になってしまう。今年は審査委員長が北山恒だったことから、全体として社会性が強く問われたと思う。
2014/03/09(日)(五十嵐太郎)