artscapeレビュー

永遠の0

2014年03月15日号

映画『永遠の0』を見る。山崎貴の過去作『ALWAYS』などと同様、特撮/CGは見応えがあり、日本映画としてかなり頑張った作品だと思う(もっとすぐれた原作がつけば、本当に傑作がつくれるのでは)。が、物語の内容は、『ALWAYS』と同様、のれない。なるほど、内容は必ずしも好戦的ではないが、自己犠牲の美化ではある。そして、なぜ若者が絶望的な特攻を強要されたのかという当時の背景や社会が説明されないために、結局、不治の病にかかった現代の純愛物語(これも社会を描かない)のようだ。すなわち、死を避けられない特攻は、不治の病と同様、ロマンティックに涙を流させる装置であり、大ヒットするのもうなずける。もうひとつ気になったのは、歴史への態度である。戦時下を描いた最近の最高峰の歴史/小説であるローラン・ビネの『HHhH』と、エンタメの『永遠の0』を比較するのは申しわけないが、やはり歴史を遊んでいると思うのだ。つまり、現代の視点から都合のいいありそうな登場人物をつくり、作家が自分の意見を彼らに語らせ、過去を理想化するフィクションである。一方、『HHhH』は、プラハに送り込まれた二人の青年によるナチスの「野獣」ハイドリッヒの暗殺事件を描いたものだが、著者が歴史と葛藤しながら、著者の都合のいい想像を入れることを、いかに避けながら執筆するかを苦しみながら書いたものだ。歴史を扱うことに関して、頭が下がるような労作である。

2014/02/03(月)(五十嵐太郎)

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