artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

SHORT PEACE

会期:2013/07/20

大友克洋の『ショートピース』は短編のオムニバスだが、『火要鎮』における空間の表現が面白かった。近世の日本を題材とする作品は三編含まれていたが、これは特に日本美術がもつ巻物形式や吹抜け屋台の空間表現を、あえてアニメに移植し、そのフレームの中で人を動かしながら、伝統を活用している。その結果、通常の映画にはない、画面の斜めスクロール、人の瞬間移動と同時存在なども起き、独特の時空表現をもたらしている。

2013/08/01(木)(五十嵐太郎)

米田知子「暗なきところで逢えれば」/トーキョー・ストーリー2013「私をとりまく世界」

[東京都]

暗なきところで逢えれば:東京都写真美術館 2階(2013/7/20~9/23)
私をとりまく世界:トーキョーワンダーサイト渋谷(2013/7/13~9/23)

米田知子の「暗なきところで逢えれば」展(東京都写真美術館)は、場所と記憶をめぐる写真たちが並ぶ。一見なんの変哲もない風景と思い、通り過ぎたものが、別刷の作品リストのタイトルを読むと、歴史的な事件の現場であることがわかり、そのギャップに驚かされる。すなわち、直後のドキュメントではなく、しばらく時間が経過した後に現場で撮影したものだ。モニュメントとは違うかたちで、日常のなかに静かにひそむ記憶を抉る。
次に、やはりあいちトリエンナーレ出品作家の池田剛介が参加している、渋谷の「トーキョー・ストーリー2013」展へ。南相馬の仮設住宅地では自転車による発電プロジェクトを行なったように、水と運動エネルギーを使うのは彼の特徴だが、今回は「干渉の森」と題し、ぐるぐる回転する小さな植物群を使い、とりわけユーモラスにも見えるインスタレーションだった。微振動が電気エネルギーとなって、かすかな音に変換される。

写真:池田剛介 《干渉の森》

2013/07/31(水)(五十嵐太郎)

風立ちぬ

宮崎駿の映画『風立ちぬ』を見る。震災と敗戦という2つの廃墟に挟まれた、工学/芸術、ロマンティシズムの物語だ。これを批判をするのは簡単だが、巨匠があえてバランスに配慮せず、好きなことを追求しつつも、モノづくりの魔力と(現在にも通じる)当時の社会批判を描こうとしたことにクリエイターの矜持を感じる。実際、宮崎は憲法改悪の動きに反対している。なお、映画では、タバコの煙を含む空気の動き、関東大震災での地面の揺れなどの表現が興味深い。また名古屋が登場し、昔の街並みが描かれている。

2013/07/30(火)(五十嵐太郎)

ヤノベケンジ展 ようこそ!サン・チャイルド!──AICHI TRIENNALE 2013

会期:2013/07/24~2013/08/05

あいちトリエンナーレオフィシャルショップ名古屋三越栄店[愛知県]

名古屋三越栄店のあいちトリエンナーレ2013のオフィシャルショップで開催中の「ヤノベケンジ展 ようこそ!サン・チャイルド!」を見る。サン・チャイルドの誕生、その経緯を詳しく紹介するものだ。サン・チャイルドは三体存在し、日本のみならず、世界各地を移動したり、設置されているという。現時点では、福島空港、大阪、愛知芸術文化センターに存在する。これはいわば原子力事故後の平和を祈願する、平成の大仏建立と言えるかもしれない。なお、会場ではサン・チャイルドのフィギュアも新発売していた。

2013/07/30(火)(五十嵐太郎)

藤森照信「空飛ぶ泥船ワークショップ」

名古屋市美術館付近[愛知県]

あいちトリエンナーレでは、名古屋市美術館の横に藤森照信による空飛ぶ泥船を展示するが、今回は安全性をより高く設定すべく、これを両側から吊るための柱を木ではなく、鉄としたため、みんなで柱に杉皮を巻くワークショップが開催された。藤森自らも参加し、休憩時間にショートレクチャーが行なわれた。卒業設計で描いた未来的な吊り橋が、この空中茶室の着想につながっていたことは興味深い。ただし、当時影響を受けていたアーキグラムなどの未来志向はやめて、デザインのベクトルは原始人に向かったという。

2013/07/28(日)(五十嵐太郎)