artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

ゼロ・アワー──東京ローズ最後のテープ

会期:2013/07/12~2013/07/15

KATT 神奈川芸術劇場 大スタジオ[神奈川県]

KAATにて、やなぎみわの「ゼロ・アワー」を観劇した。彼女の研究熱心を反映したプロットは、音をめぐる批評的作品になっている。メディア・オリエンタリズムのポストモダン的な展開は、同じく日本/女性とアメリカ/男性をめぐって、アイデンティティが揺らぐテーマをもつ「蝶々夫人」が「M. バタフライ」に変容したことと似ていよう。それを可能にしたフォルマント兄弟の音声デザインがすごい。また場面の展開とともに、リング状だった机がどんどん変形する、トラフ建築設計事務所の装置デザインも鮮やかだった。

2013/07/14(日)(五十嵐太郎)

3人のクライアントと3人の建築家─暮らしの時間、家の時間─

会期:2013/07/01~2013/07/13

SHIBAURA HOUSE 2F[東京都]

シバウラハウスにて、オランダの建築ライターのカテライネ・ノイシンクが彼女の新刊『HOW TO MAKE A JAPANESE HOUSE』と連動して企画した展覧会「3人のクライアントと3人の建築家ー暮らしの時間、家の時間」を見る。模型、図面、映像などを使い、中山英之、長谷川豪、TNAが手がけた住宅と施主の関係が紹介されていた。中山の展示手法は相変わらずキレがある。TNAによるキリの家の施主が制作した映像もなかなかだった。

上:SHIBAURA HOUSE
中上:中山英之
中下:長谷川豪
下:TNA

2013/07/13(土)(五十嵐太郎)

あいちトリエンナーレ2013 東京記者会見

建築会館1階 建築会館ホール[東京都]

東京の建築会館を使い、あいちトリエンナーレ2013の記者発表を行なう。やはり、企画途中の昨年や今年の初めの頃に比べて、プログラムが確定したり、コンテンツができはじめると、説明しやすい。今回の特徴は、震災以降という象徴的なテーマ性と、建築/空間的な視点の二本柱と言えるだろう。出品作家からは、青木淳が名古屋市美の空間をどう読み、杉戸洋らの作家との協同作業でどう変えていくかを、また奈良美智がWE-LOWSというユニットとして長者町でどのような場をつくるかを語る。ともに震災経験に触れたが、これを契機に大事な仲間と共有できる場の大切さを再認識したと述べたのが印象的だった。なお、この記者発表の後、青木も杉戸とともに、スパイダースというユニットを結成した。

2013/07/11(木)(五十嵐太郎)

飛鳥山公園、音無親水公園

[東京都]

王子の飛鳥山公園には、3つの博物館が並んでいる。また渋沢栄一の青淵文庫は小さいながら、なかなか存在感がある近代建築だ。そして音無親水公園は、小さな水車などを組み込み、ちょっとテーマパーク的な昔風の演出によって、「美しい」空間づくりを行なう。一応、表彰もされているみたいだが、歴史を尊重したというよりは、何か別のモノになっている。拙著『美しい都市・醜い都市』で論じたように、大きな疑問を感じる景観だ。

上:《青淵文庫》
下:《音無親水公園》

2013/07/06(土)(五十嵐太郎)

二代目はクリスチャン

会期:2013/07/05~2013/07/07

北とぴあ・つつじホール[東京都]

王子にて、つかこうへいの『二代目はクリスチャン』を観劇した。基本的にはリズミカルで、明るく、キラキラした80年代の空気感を思い出させるのだが、だいぶ前に見たお気楽なイメージで記憶している映画版に比べて、戦争の記憶、差別の問題、親殺しなど、独特の暗さを抱えている。劇中で流れる中森明菜やラッツ&スターなどの歌謡曲が懐かしい。一方、舞台美術はほぼゼロで、照明だけで演出していたのは興味深い。同日に上演された『道化師の歌が聴こえる』は、壁に囲まれた街という設定は面白そうだったが、物語の展開をみると、90分もやる内容なのかと疑問に思った。この展開なら30分くらいでおさまるのではないか。あと、ベタにサティの曲を流すだけでの演出も、個人的にはきつい。

2013/07/06(土)(五十嵐太郎)