artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

生き抜く 南三陸町 人々の一年

『生き抜く 南三陸町 人々の一年』を見る。生き残った命とていねいに寄り添い、3.11からの日々を描くドキュメンタリー。テレビ局にもこうした良心的な作品が、いや、多くのスタッフやカメラをまわせるからこそ可能な内容でもある。僕自身、あのときからの映像を見ながら、3月下旬、5月、8月……と訪れた南三陸の風景をフラッシュバックのように思いだす。確かに現場に存在していたあの匂いは伝わってこないが。

2013/03/03(日)(五十嵐太郎)

ARICA 第24回公演「ネエアンタ」

会期:2013/12/28~2013/03/03

森下スタジオ Cスタジオ[東京都]

サミュエル・ベケットの作品をベースにしたARICAの演劇「ネエアンタ」を見る。死んだ女性の声が響くなか、語らない男が部屋を動きまわるだけの単純な構成。山崎広太が異様に遅延された日常的な動作を行ない、窓、冷蔵庫、ドアの3つの開口を4回往復しながら、やがて身体の仕草がズレていく。プロット上は、生きている男に女の霊がとり憑いたものだが、見ているうちに、ふと、男の方が死んでいるのではないかと思った。映画『アザーズ』において、互いに他者である生者と死者の立場が入れ替わるように。

2013/03/01(金)(五十嵐太郎)

空を拓く~建築家・郭茂林という男

会期:2013/02/02~2013/03/15

渋谷ユーロスペース

僕も協力でクレジットされたドキュメンタリー映画『空を拓く』を見る。霞ヶ関ビルや新宿副都心、台北の高層建築をとりまとめた台湾出身の建築家、郭茂林の生涯を追いかけたものである。彼は日本統治時代の台湾で末っ子として生まれ、普通の学校から東大助手を経て、日本の高度経済成長に伴い、人のネットワークを生かし、大型プロジェクトのフィクサーとして頭角を現わす。特に前半は、人を成長させていく、教育の力を思い知らされる。映画では、台湾の建築批評家、謝宗哲さんもコメントしていた。

2013/03/01(金)(五十嵐太郎)

ポール・デルヴォー展  夢をめぐる旅

会期:2013/01/22~2013/03/24

埼玉県立近代美術館 2F[埼玉県]

埼玉県立近代美術館のポール・デルヴォー展「夢をめぐる旅」を鑑賞した。展示では、女性、建築、鉄道、小物などのキーワードを掲げながら、彼の絵画に頻出する主要なモチーフを読み解く。やはり、絵はちょっと硬い。それにしても、彼は生涯飽きることなく、シュルレアリスム的な雰囲気で、古典主義の建築を背景とした裸の女性の絵を描いてきたわけだが、会場では、彼がまだ「デルヴォー」になっていない初期の作品と、視力をほとんど失った晩年の「デルヴォー」的ではない作品も見ることができたのが興味深い。

2013/02/28(木)(五十嵐太郎)

トウキョウ建築コレクション2013

会期:2013/02/26~2013/03/03

代官山ヒルサイドテラス[東京都]

トウキョウ建築コレクションへ。以前、東北大学の五十嵐研究室ではデザイン系の活動を紹介する年報「トンチク」をプロジェクト展に出品したが、実際に代官山ヒルサイドテラスでの展示を見るのは初めてだ。今回は研究室のアーカイブ本を出品し、併せて幾つかの書籍プロジェクトの実物を展示した。会場で他の出品作と比べると、やはりうちだけが南相馬の仮設住宅地や窓学のリサーチなど、多数のプロジェクトを本という形式で紹介するメタ・プロジェクトだった。また書籍ゆえに、実物を会場に置くことができたのも、うちだけである。ともあれ、全体として論文展やプロジェクト展は、なかなか展示の方法が難しいことがよくわかる。現状がベストではないことはわかるのだけど、どう見せたらよいかを考えさせられる。なお、修士設計の展示も、明快なアイデアで一点突破する卒計的なものは伝わりやすいが、部厚いリサーチ・ベースの作品はやはりわかりにくい。

2013/02/28(木)(五十嵐太郎)