artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
隈研吾《アオーレ長岡》
[新潟県]
隈研吾が設計した《アオーレ長岡》を訪れた。駅から空中のブリッジを介して直接アクセスできる。これ以前にたっていた石本喜久治のかわいらしいおむすびのような近代建築、《厚生会館》も好きだったが、今回完成した《アオーレ長岡》は現代的なテイストによる地方の公共施設の新しいモデルを示す。ちょうど隈の『小さな建築』を読んでおり、《根津美術館》とは違うかたちで、隈スタイルの集大成と言うべき作品であると思った。《アオーレ長岡》は、屋根が付いた大きな広場を中心に据え、そのまわりに分棟形式で市庁舎の機能を置く。まさに開かれた市庁舎である。後日、『city&life』誌の企画で、隈研吾さんと市庁舎をめぐって対談をしたのだが、やはり、長岡市長の存在が大きかったようだ。経歴も建築学科卒である。建築を変えるなら、建築学科から政治家になる人をもっと増やすのが近道かもしれない。
2013/02/14(木)(五十嵐太郎)
平成24年度 東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻修士論文最終審査 デザイン・計画系
会期:2012/02/13
東北大学片平キャンパス電気通信研究所2号館講義室(430)[宮城県]
東北大学にて修士論文の発表会が行なわれた。五十嵐研からは、江川拓巳による岡本太郎の怪獣建築と言うべきマミ・フラワー会館論(太陽の塔と同時期)と、平野晴香による戦後の国公立美術館における建築展の研究が無事に終了した。いずれも建築とアートを架橋するテーマだが、後者は建築展の情報に関する貴重なアーカイブとなり、前者は貴重な資料を探り、岡本太郎のまだあまりよく知られていない側面を掘り下げる内容になった。
2013/02/13(水)(五十嵐太郎)
トリエンナーレスクール2012年度「マダム・バタフライの家」
会期:2013/02/02
演出家、田尾下哲のレクチャー「マダム・バタフライの家」(愛知芸術文化センター)の聞き手をつとめた。彼は東京大学の建築学科を卒業し、映画『キャシャーン』の監督助手やミュージカルなどを手がけ、あいちトリエンナーレ2013では『蝶々夫人』の演出を担当する。卒論では、古今東西の『蝶々夫人』のセットに関する膨大な史料を収集したが、レクチャーでは、その写真や図版を用いて、さまざまな事例を紹介した。オリエンタリズム的に西洋で表象される日本家屋や記号としての鳥居が、垂直方向に引き伸ばされるのは、そもそもオペラの舞台が高さをもつからだろう。今回、『蝶々夫人』において、田尾下は楽譜やオーケストラを視覚化し、空間が動くオペラをめざすという。
2013/02/02(土)(五十嵐太郎)
ccc展覧会企画公募 NCC2013第5回入賞展覧会企画
会期:2013/01/15~2013/02/16
静岡市クリエーター支援センター 2Fギャラリー・3F[静岡県]
静岡のCCCにて、公募の審査を担当したクリエイターズコンペの展覧会を見た。金箔を使う絵画の對馬有輝子「『授業風景』─野の花と青空と子供たち─」は、会場がリノベーションされた小学校だったおかげで、子ども用の机と椅子を並べる作品と空間の雰囲気が合い、独特な場を生みだしていた。一方、現代アートの長谷部勇人の《Clock base-n》は、いずれも回転する円である観覧車と時計を重ね合わせる、メカニカルな装置と映像によるインスタレーションである。ともに予想以上の出来だった。
2013/02/02(土)(五十嵐太郎)
鈴木先生
会期:2013/01/12
映画「鈴木先生」を見る。こうした学園ものにおいて、学校という閉鎖された空間は、しばしば社会、あるいは世界を意味するだろう。生徒会の選挙と卒業生の立てこもり事件を軸に、物語は回転していくが、その根底には完全に制御された社会、すなわち他者が排除された安全でクリーンな空間への違和感が表明される。拙著の『過防備都市』ともかぶる興味深いテーマだ。この映画は批判するだけではなく、未来への一歩を感じさせる救いもある。『桐島、部活やめるってよ』といい、『悪の教典』といい、今年度は学園ものの傑作が続く。日本ならではの状況かもしれない。
2013/02/01(金)(五十嵐太郎)