artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

アーツチャレンジ2013

会期:2013/01/22~2013/02/03

愛知芸術文化センター[愛知県]

愛知芸文センターにて、アーツチャレンジ2013を見る。今年は少し作品の数が減り、地下の吹抜けも展示場所として使われていないので、全体としてややこじんまりとした印象を受ける。とはいえ、やはり若手発掘のプロジェクトは重要なものであり、いまにして思えば、先行して始まったアーツチャレンジもあいちトリエンナーレへの小さなステップだったと思う。さて、今回の展示では、住宅情報を暴力的に再編集したユートピアを提示する伊奈章之、昭和のノスタルジーを喚起する屋台と本人自身を展示する菅沼朋香、そして壁紙と絵画が不思議な関係をつむぐ鈴木紗也香が印象に残った。また前回のあいちトリエンナーレに参加した戸井田雄も、屋外階段脇のスペースで土を掘る映像を出品している。

2013/01/27(日)(五十嵐太郎)

『五十嵐太郎研究室アーカイブス2005-2012』

発行日:2013年01月

東北大学の五十嵐研の8年間の活動をまとめた全208頁の本、『五十嵐太郎研究室アーカイブス2005-2012』が完成した。10年という節目ではなく、これを制作したのは、いまがちょうど五十嵐研の第一期が終わった頃と判断したからである(あいちトリエンナーレ2013が始まる今年が第二期のスタートになるだろう)。家型、広場、窓学、温室、聖地などのリサーチ、ヴェネチア・ビエンナーレ、横浜トリエンナーレ、3.11以降の建築展などの設営、出版や執筆の企画、『ユリイカ』のOMA事典や『美術手帳』のSANAAキーワード、南相馬の仮設住宅地計画など、さまざまなプロジェクトを紹介している。ほかには、五十嵐研の学生による東京建築コレクションの最優秀、卒計日本一決定戦の日本二、同ファイナリスト3作品を含む、全国レベルでの評価を獲得した5作品も収録した。

2013/01/25(金)(五十嵐太郎)

京都精華大学建築学科 卒業制作講評会

会期:2013/01/22

京都精華大学[京都府]

京都精華大学にて、ゲストとして卒計の講評会に参加した。鈴木隆之、新井清一、塚本由晴など、各スタジオの個性が学生の作品に強く表われている。総合では、塚本スタジオの黒越啓太による里山の住生活を100年かけて再生していく建築的プログラムが圧倒的に抜きん出ており、ほとんど討議の必要なく、最優秀になった。他に気になったのは亀井洋樹の淡路島の小屋バリエーション、泉谷真之輔の広場建築。長谷川翔の都市に葬儀場を埋め込む純粋建築、文元諒の帯状パターンによる学校などである。五十嵐の個人賞は、他の審査員が拾えそうにないものとして、戸田代紗絵子の納本堂と光益公太郎の橋を重ねる建築を想定し、前者が別の賞をとったので、後者を選ぶ。ところで、卒計講評会で一番感心したのは、賞を選ぶプロセスを完全に公開していること。学生が見ている前で、投票を行ない、議論をして絞っていく。また卒計で落とす学生も同様の手続きで決める。卒計イベントは公開されるのが普通だが、大学の卒計だと、相当希有な事例ではないかと思う。

2013/01/22(火)(五十嵐太郎)

坂口恭平 新政府 展

会期:2012/11/17~2013/02/03

ワタリウム美術館[東京都]

ワタリウム美術館の坂口恭平展へ。個人的には、彼自身よりも、まず彼を受容する坂口現象に興味がある。ネタとしての天才・会田誠ではなく、尾崎豊のようなベタな天才肌だ。今回、多くのドローイングを見ながら、彼は造形の人ではなく、本質的にアウトサイダーアート的な絵描きなのではないかと気づく。同時開催の森本千絵にも同じ匂いがあり、ワタリウムは一貫している。坂口の路上観察にはあまり新しさを感じないが、ゼロセンター以降の動きは、とことんその先を見たい。美術館の近くにゼロセンターを立ち上げる実行力もさすがだ。ただ、美術館内は撮影禁止である。0円主義なら、スケッチやアイデアの画像所有権にこだわらず、どんどん来場者に撮ってもらい、思想を拡散させればよいのに。

2013/01/20(日)(五十嵐太郎)

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武蔵野美術大学建築学科 芦原義信賞・竹山実賞、卒業制作選抜講評会

武蔵野美術大学[東京都]

武蔵野美術大学にて、審査を担当した芦原義信賞の授賞式に出席した。今回選んだのは、梶原紀子が栃木県で企画運営している、もうひとつの美術館である。廃校となり、存続が危ぶまれていた木造校舎をリノベーションによって救い、ハンディキャップのある人のアートを専門に展示する施設だ。いまでこそ、類似したスペースはだいぶ増えたが、これを10年も前にオープンさせ、しかもずっと継続させてきた実績を高く評価した。それにしても、武蔵野美術大学の建築学科は、さまざまなジャンルに人材を輩出していると思う。

2013/01/19(土)(五十嵐太郎)