artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

竹内昌義×五十嵐太郎トークイベント「都市と原発──僕たちは何を設計できるのか。再生可能エネルギーの未来、新しい時代の建築を考える」

会期:2012/09/11

青山ブックセンター・本店[東京都]

みかんぐみの竹内昌義と『原発と建築家』(学芸出版社、2012)をめぐってトークを行なう。東日本大震災の後、建築家は仮設住宅や復興計画に参加できても、その全容が見えない、あるいは近づけないため、原発問題に関わりを持ちにくいのだが、エネルギーという切り口から未来をポジティブに考えようとするものだ。その姿勢は、震災前に出した竹内の『未来の住宅 カーボンニュートラルの住宅』(バジリコ、2009)から完全に連続しており、一貫してロジカルに環境ベースに新しい建築の可能性を探索している。

2012/09/11(火)(五十嵐太郎)

「自作自演」リーディング 西村賢太×本谷有希子

会期:2012/09/08

東京芸術劇場[東京都]

東京芸術劇場の東京福袋にて、西村賢太×本谷有希子の作家リーディングと対談を見る。初対面らしいが、好対照の二人で、面白い企画だった。俳優でもなく、読むプロのアナウンサーでもなく、作家本人が自分の書いたテキストを読む、というのは、どのように執筆していたのかを想像させて興味深い。本谷有希子は短編集『嵐のピクニック』から、カーテンの膨らみが気になりだす「私は名前で呼んでいる」と笑える「Q&A」を読む。いずれもだんだん語り手の素性が明らかになると同時に、小さな始まりが異様な事態にドライブしていく。朗読するときの間のとり方は、リズム感があって、やはり演劇をやっている人だ。一方、西村賢太は、『人もいない春』からの抜粋を朗読した。言うまでもなく、これも自分を重ねあわせた私小説である。狭い椅子で苦しそうに、途中で幾度か中断しながら、慣れない朗読を行ない、それ自体がパフォーマンスになり、ひとつのキャラとして成立している。彼の長いセンテンスの文章は、朗読には向かず、黙読的なのがよくわかる。

2012/09/08(土)(五十嵐太郎)

建築学概論

帰りの機内、韓国で大ヒットした映画『建築学概論』を見ることができた。建築学生の初恋から10年。彼がつとめる事務所にその女性が再び訪れ、家の設計を依頼し、物語が始まる。現在と過去が交互に進行し、それぞれのエンディングを迎える平行した時間の構造は韓国で話題になった『サニー 永遠の仲間たち』と似ている。それにしても韓国は建築家を主人公とする映画やドラマが多い。自由に恋愛できるロマンティックな職業と思われているのだろうか。

2012/09/06(木)(五十嵐太郎)

ドバイ

[アラブ首長国連邦・ドバイ]

ストップオーバーでドバイに滞在する。すごい湿度と気温だった。ホテルを出た瞬間、カメラと眼鏡が曇る。これでは優雅にまち歩きの気持ちにならない。空調の効いたメトロに乗って、ずっと車窓から眺めていると、ポストモダンやアイコン高層ビル、超巨大ショッピングモール、反復する郊外住宅、そしてモスクのミナレットが点在する砂漠の風景が続く。これまで訪れたなかではラスベガス、香港、シンガポールなどの人工都市が近い。
ドバイの旧市街にあるスークもまわったが、あちこちで駅と近接するテーマ型の巨大ショッピングモールが見ものだ。人工の室内スキー場や大きなアクリルの面をもつ水族館が併設されている。インテリアやディスプレイのデザインも本格的で、日本と比べてもあまり遜色がない。こちらルイヴィトンのショーウィンドーにも、いま草間彌生の作品が入っている。そして外装はそれぞれ青木淳や乾久美子のスタイルを下敷きに展開していた。

写真:上から、ドバイのビル群、ドバイモールの水族館、モール・オブ・ジ・エミレーツのルイ・ヴィトン

2012/09/04(火)・05(水)(五十嵐太郎)

ヴェネチア・ビエンナーレ第13回国際建築展(2012)-Common Ground-

会期:2011/08/04~2012/11/25

[イタリア・ヴェネチア]

今年もヴェネチアを訪れた。美術か建築のビエンナーレのどちらかだけなら、2年に一度ですむのだが、両方見るために、毎年の恒例行事である。ジャルディーニの国別パヴィリオンをまわると、日本館は、震災という特殊事情を差し引いても、ほかの展示と全然違う。杉の丸太が地上のピロティからスラブをつきぬけ、天井にまで届くようなインスタレーションのなかに模型が点在する。そして畠山直哉による陸前高田の現在の風景写真のパノラマが囲む。やはり彼が入ったことは、絶大の効果を生みだした。ほかに国別の展示で印象に残ったのは、ITを使うSF的展示と冷戦時の科学都市を紹介するロシア館、ペトラ・ブレーゼの動くカーテンで空間が変容するオランダ館だった。全体テーマがコモングラウンド(共通基盤)だったため、アルセナーレは社会派の堅実なプロジェクトが多い。

写真:上から、日本館、ロシア館、オランダ館

2012/09/01(土)(五十嵐太郎)