artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

あいちトリエンナーレ2013プレイベント「オープンアーキテクチャー」

会期:2012/11/03

[愛知県]

あいちトリエンナーレのプレイベントとして、建築を鑑賞するオープンアーキテクチャーを実施した。朝から名古屋市役所、大津橋分室、市政資料館、愛知県庁本庁舎などのツアーを連続して行ない、めまぐるしい一日だった。市役所の時計塔の内部や、愛知県庁の地下に新しくつくられたハイテクな免震装置の空間など、通常では見ることができない場所にも入り、帝冠様式の言葉で片付けられる建物の意外な一面も発見した。特に職員や県庁のプラモデルを制作したファインモールドによる、熱の入った説明を聴きながら、室内の細部まで観察し、市役所と県庁舎を隅々まで比較できたことがよかった。いずれも想像以上にすごい建築である。こういう体験をすると、本当に各建物のファンになる。昼は、女子校のため、やはり普段は入れない近代建築の金城学院高校栄光館において、「歴史まちづくり講演会」を行なう。大津橋庁舎や伊勢久で名ガイドをしていただいた瀬口哲夫先生と、五十嵐がそれぞれ講演し、あいちトリエンナーレと建築鑑賞をつなぐ対談を展開した。

写真:左上=名古屋県庁舎より市役所を見る、右上=大津橋分室、左中・右中=名古屋市役所内部・時計塔内部、下=金城学院高校栄光館

2012/11/03(土)(五十嵐太郎)

サウダーヂ

仙台にて、念願の『サウダーヂ』を見る。日本人、ブラジル人、タイ人、政治家、金持ち、労働者、ラッパーなど、シャッター街となった甲府の町をうごめくさまざまなトライブがゆるやかに連鎖する群像である。彼らは、もはや存在しない故郷/過去に憧れながら(=サウダーヂ)、多国籍化した地方都市でリアルに生きていく。まるでドキュメンタリーのような登場人物たちの実在感が半端ではない。『サウダーヂ』は、富田監督の前作『国道20号線』からより進化し、保守的な景観論者が目をそむける現実を描く。数千以上の卒業設計を見たが、こうした世界を扱う建築学生を見たことがない。実際、映画のなかで語られる「建築家」は、政治家と同様、虚飾の象徴として言及される。逆に大地を掘る土方はルーツの探求を意味する。以前、アップリンクで富田克也監督と「ヤンキー講座・ミレニアム」のトークショーを行なった。そのとき彼が、過去20年間に変容したヤンキーの資料映像を編集した作品は面白かった。古きよきヤンキーも、サウダーヂの対象である。鷹野毅が深夜の商店街で幻視したように。富田にとっての甲府もそうなのだろう。

2012/10/29(月)(五十嵐太郎)

希望の国

園子温監督による『希望の国』の形式は原発映画だ。が、その理解だけでは狭すぎる。世界は不条理な外力=杭にあふれており、そこでお上やナショナリズムに救いを求めるのではなく、自己決定によって道を切り開くこと。3組の世代の違う男女は最後にそれぞれの選択を行なう。ゆえに、ラストで「希望の国」のタイトルが出る。実際、南相馬では、映画のように、お隣の家同士のあいだに、境界線が引かれている現場を目撃した。そして登場人物たちの言葉はリアリティをもち重い。とくに老夫婦がそうだ。が、個人的に多くの被災地をまわったせいで、柵や境界線の過剰なつくり込み、ロケ地のワープなどがちょっと気になった。『希望の国』は、黒澤明の『生きものの記録』の3.11以降版と言えるかもしれない。冷戦下の核への恐れが暴走する昭和の家父長制に対し、ポスト冷戦下に実際に起きてしまった原発事故の後に描かれたドキュメンタリー風でもある平成の家族像。ここに黒澤が描いた狂気へのアイロニーはなく、むしろ自己決定のポジティブさがある。

2012/10/28(日)(五十嵐太郎)

3・11とアーティスト:進行形の記録

会期:2012/10/13~2012/12/09

水戸芸術館 現代美術ギャラリー[茨城県]

水戸芸術館の「3・11とアーティスト」展へ。サブタイトルに「記録」と掲げているように、想像以上にストレートな記録の意味合いが強い。作品や活動は、時系列に並べている。アートとしては、やはりChim↑Pomの気合い100発、照屋勇賢、そしてヤノベケンジ、畠山直哉らが興味深い。個人的には、せっかくなのだから、一時閉鎖に追い込まれた水戸芸術館の被災状況の展示も見たかった。

2012/10/28(日)(五十嵐太郎)

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ウィーン国立劇場2012日本公演 G.ドニゼッティ「アンナ・ボレーナ」全2幕

東京文化会館[東京都]

会期:2012/10/27、10/31、11/4
東京文化会館にて、オペラ『アンナ・ボレーナ』を見る。英国王ヘンリー8世の無茶苦茶に翻弄され、死刑にされた女王の物語。引退を発表したアンナ・ボレーナ役のソプラノ、エディタ・グルベローヴァ(65歳!)の独唱がすさまじい。超高音の波動がホールの隅々まで突き刺す、圧倒的な存在感だった。舞台美術も興味深い。パースを効かせた台形の大きなフレームの箱が、物語の展開に従って、少しずつ回転しながら、あるいは開口部の大きさを調整することで、さまざまな場に変容していく。例えば、ウィンザー城の広間、居室、森、建物の外部、牢獄、裁判などである。

2012/10/27(土)(五十嵐太郎)