artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
JA86「新世代建築家からの提起」展
会期:2012/07/25~2012/08/06
渋谷ヒカリエ 8F[東京都]
渋谷のヒカリエへ。『JA』で特集されたunder35のnext generationの建築家展を見る。それぞれのプロジェクトはユニークでおもしろいが、狭い場所に多くの作品を詰め込み、建築分野以外の人にわかりにくい。せっかくいろいろな人が訪れる恵まれた場所なので、もったいない。一方、隣の石井修展は、手描きの図面を見せようという意志は明快だった。同じ階で開催中の奈良美智展の方が絵画を並べるだけなのに、空間をうまく使っている。
2012/08/02(木)(五十嵐太郎)
おおかみこどもの雨と雪
会期:2012/07/21
細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』は、過去作を違う方法で乗りこえる、見事な傑作に仕上がっていた。アニメが不得意なささいな日常や農業を扱うと同時に、アニメがもっとも得意とする非現実的なファンタジーと飛び跳ねるような躍動感の両方を見事に接合している。今年の夏は多くの良作が集中したが、おそらくこの映画が登場したことで記憶に残るだろう。また人物の造形はハリウッド的な3D、CG、あるいは写実には向かわない貞本義行による日本的なアニメ絵のキャラで感情移入させる一方、背景は登場人物の名前でもある「花」「雨」「雪」のほか、水、光、風、反射など、きわめて精緻に自然を描くことで、この世界の実在を確かなものにしている。本や小物など、絵で語らせるディテールの描写も秀逸だ。モノつくりはかくあるべきという作品だろう。人目を隠れて暮らす物語の前半は、バンパイアやゾンビの映画でもしばしば重ね合わされる、マイノリティ=他者としての狼人間の設定と言えるだろう。しかし、田舎に引っ越してからの後半はむしろ何者になるかわからない、こどもの成長を通じて、その普遍的な問題がわれわれと同じであることが強調される。つまり、『おおかみこどもの雨と雪』は狼あるいは人になるかという特殊な設定を装いながら、現実社会の寓意になっているのだ。われわれは誰もがかつて「おおかみこども」だったのである。日本のアニメを牽引するポスト宮崎は、ジブリから出ることはなく、細田守になったのではないか。
2012/08/01(水)(五十嵐太郎)
ダークナイト ライジング
会期:2012/07/28
映画『ダークナイト・ライジング』を見る。長さを感じさせない物語の展開とスピード感はあるし、今回は島状のゴッサムシティ=ニューヨークの地理的な特徴をいかした都市空間への攻撃など、充分におもしろい。ランドマークを壊すのではなく、交通の結節点をつぶすアニメ版『パトレイバー』における東京の攻略も彷彿させる。が、前作の出来と忘れがたい悪役ジョーカーの凄さを思いだすと、これを超えることはやはり難しい。
2012/08/01(水)(五十嵐太郎)
災害に直面した港湾都市の都市計画を考える国際ワークショップ「石巻建築ワークショップ2012」
会期:2012/07/21~2012/08/01
石巻市内[宮城県]
東北大学と学生を交換しているベルギーのブリュッセル自由大学のジョセフ・グルロワが主宰し、東北大学などが参加する、石巻のワークショップの最終日を訪れた。昨年に引き続き二度目である。今回は、港、交通、水、オープンスペースの四つのテーマを軸に、それぞれ多国籍の学生チームが石巻の未来を提案し、ベルギーカフェにて展示を行なう。ワークショップの終了後、屋外で飲んで騒ぎ、最後は小さな復興バーに移動し、また路上に人々があふれていた。しかし、まわりは廃墟で人がいない。ちょうど石巻の祭とのタイミングが合い、災害ユートピアが継続しているような不思議な雰囲気に包まれる。おそらく、海辺と都心が離れた仙台のような大都市とは違い、石巻はほどよくコンパクトで、津波に襲われた場所と中心市街地がほとんど重なっているがために起きた現象だろう。
写真:上から、ワークショップの様子、石巻祭り、仮設店舗、復興バー
2012/07/31(火)~08/01(水)(五十嵐太郎)
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2012
会期:2012/07/29~2012/09/17
越後妻有地域(新潟県十日町、津南町)[新潟県]
越後妻有アートトリエンナーレ2012のオープニング・ツアーに参加した。改めて街なかで場所の確保に苦労するあいちトリエンナーレに比べて、幾つもの小学校や空き家をまるごと会場に使える前提条件の違いを痛感する。例えば、新登場の土をテーマにしたもぐらの館と、中国作家の参加するアジア写真映像館、作品が増えた絵本と木の実の美術館は、いずれも廃校を活用している。建築系での新作は、みかんぐみの茅葺きの塔、オーストラリア・ハウスやアトリエワンによる展示施設、杉浦久子研のインスタレーションなどが登場した。またCIANでは、川俣正が故中原佑介の蔵書を入れる場として、本棚をバベルの塔のように積み、体育館をなかなか迫力のあるアーカイブ空間に変容させていた。今回からキナーレは現代美術館に変身し、中庭にボルタンスキーの大スペクタクル作品をドーンと置く。またbankart妻有では、各部屋に膨大な小作品が増殖したことを知る。第1回こそ見逃したが、2003年、2006年、2009年、2012年と四度目の訪問だった。ド派手な新築物件は減ったが、定期的にトリエンナーレを継続していくことで得られる蓄積が増え、ポスト過疎化のそれ自体の新しい歴史を刻みはじめていることがよくわかる。
写真:左上=みかんぐみ+《下条茅葺きの塔》、右上=オーストラリア・ハウス、左中=アトリエ・ワン+東京工業大学塚本研究室《船の家》、右中=杉浦久子+杉浦友哉+昭和女子大学杉浦ゼミ《山ノウチ》、左下=川俣、右下=クリスチャン・ボルタンスキー《No Man's Land》
2012/07/28(土)・29(日)(五十嵐太郎)