artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
沖縄のコンクリート建築
[沖縄県]
初日は、琉球大学の入江徹研究室の4年生ゼミ課題の講評を行なう。今年のテーマは、行為の解体。毎年同じ大学を訪れていると、自分の研究室の学生でもないのに、なんとなくメンバーの動向を覚えてしまうのが興味深い。2日目は、琉球大学でレクチャーの後、1階からいきなりほとんど空き店舗になった衝撃の大型商業施設コリンザ、コンクリート造のアーケードをつなげたパークアベニュー通り、そしてゲート通り周辺の沖縄的なコンクリート建築群を見学する。夕方からアメリカ兵が集まるバーやクラブをはしごし、ちょっとだけ日本にはない『コヨーテ・アグリー』の世界を体験した。
しばしば沖縄の記号として赤瓦が使われるが、象設計集団の《名護市庁舎》(1981)など、一部の事例をのぞくと、お手軽で安易な手法になっている感は否めない。一方で沖縄建築のもうひとつの特徴は、コンクリートの使用である。実際、木造の家がほとんどない。アメリカ軍の建築の影響を受けつつ、台風やシロアリの被害を避けるべく、住宅さえも鉄筋コンクリート造である。前述したパークアベニュー通りからゲート通り周辺で観察すると、窓のルーバーや垂れ壁など、普通は別の素材でつくるような細かな造作にも、好んでコンクリートを使う。現在、保存問題が起きている《久茂地公民館》(1966)も、こうした文脈から評価されるべきだ。設計者の宮里栄一が、東京のモダニズムを参考にしつつも、沖縄らしいコンクリートの造形を展開したデザインなのである。
写真:上=入江徹がデザインした琉球大学の講評会の会場、中=中央パークアベニュー、下=ゲート通り周辺
2012/06/16(土)・17(日)(五十嵐太郎)
ナカフラ演劇展
会期:2012/06/07~2012/06/20
こまばアゴラ劇場[東京都]
久しぶりに訪れた駒場にて、ナカフラ演劇展のCプログラムを鑑賞した。3つの短編を上演したが、最後のおまけ「マクベスのあらすじ」が特に印象的だった。10分で本当に物語の粗筋を生身の俳優が演じる。だが、文字で読む粗筋と似ているようでまるで違う。文字は不要な情報を削ぎ落し、内容を抽象化しているが、生身の人間は表情、衣装、音声、動作など、それ以外の多くの情報を必然的に抱え、それを聴衆に伝達してしまうからだ。ゆえに、粗筋による物語の裁断は暴力的なインパクトを感じさせる。むろん、基本的に演劇はリアルタイムだけではなく、場面が変わるごとに時間が飛ぶものだが、さらに時間を編集した粗筋で感じる奇妙さと、どこが境界線になるのかを考えさせられた。
2012/06/14(木)(五十嵐太郎)
シンポジウム「ベネッセアートサイト直島における建築とは」
会期:2012/06/10
ベネッセハウス・パークホール[香川県]
ベネッセハウスパークのホールにて、「生成」建築鑑賞&シンポジウム「ベネッセアートサイト直島における建築とは」が開催された。直島に安藤忠雄が設計したホテルと美術館が登場してから、今年で20年目にあたるという。また意外なことに、直島で建築に特化したシンポジウムを行なうことは初めてだという。筆者がコーディネーターとなり、西沢立衛、妹島和世、三分一博志の三者に、島々の第一印象、他の仕事との違い、建築とアートについて語ってもらう。敷地やプログラムの制約が通常の美術館に比べて、かなり自由であることから、それぞれの建築家の個性もより増幅されている。実際、犬島アートプロジェクト《精錬所》に続き、《豊島美術館》が国内最高の建築賞である建築学会賞(作品)を受賞した。2年連続でベネッセ関連の建築が選ばれていることは特筆すべきだろう。
2012/06/10(日)(五十嵐太郎)
第13回ドクメンタ
会期:2012/06/09~2012/09/16
[ドイツ・カッセル]
ドクメンタ13は、大きな庭園、駅舎、ホテル、博物館、旧病院などを活用し、街なか展開が多いだけではなく、なんと国外のカイロやカブールなども会場になっている。会場が想像以上に分散していたために、雨のなか、2日間で全部を見ることはできなかった。しかし、小さな地方都市であるカッセルに、さまざまな場や空間が存在し、また古い建築も残っていることがよくわかった。やはり、歴史を残すことは大事である。新しい使い方を発見できるからだ。例えば、博物館に親和性の高いアートが侵入するケースも、どこからどこまでが常設の展示なのか、一瞬わからなくなる体験をもたらす。公園に点在する作品群に唯一の公式日本人作家の作品がある。大竹伸朗の家はまわりに小舟が散らばり、津波を想起させる。また正式にクレジットされていないが、ポスト災害をテーマにした韓国人の作家チームの展示のなかで、伊東豊雄の南三陸町プロジェクトや津村耕佑のファッションデザインも参加していた。
オープニングのレセプションは、鼓笛隊の演奏によって始まり、来客を庁舎に導入。案内状は出していたが、実質ノーチェックで誰でも入ることができ、夜遅くまで演奏を聴きながら飲み食いできることに驚かされた。小さな地方都市における有名な国際展が、地元の祭りとしても根づいているのだろう。
写真:上=オープニングの風景、中=駅舎会場、下=庭園に設置された大竹伸郎の作品
2012/06/07(木)(五十嵐太郎)
Summer exhibition inside and out in the sculpture park of Haus am Waldsee
会期:2012/06/06~2012/08/26
haus am waldsee[ドイツ・ベルリン]
ベルリン郊外の住宅街にある家をリノベーションしたHaus am Waldseeを訪れ、1970年代以降生まれの若手彫刻家展を見る。背後には大きな庭と池が展開し、在ベルリンの和田礼治郎が、詩的な環境彫刻、水に浮かぶ四畳半モデュールの強化ガラスを出品していた。
写真:和田礼治郎によるイゾラ・シリーズの作品
2012/06/06(水)(五十嵐太郎)