artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
江戸東京博物館開館20周年記念特別展「日本橋 描かれたランドマークの400年」
会期:2012/05/26~2012/07/16
江戸東京博物館 1階企画展示室[東京都]
江戸東京博物館にて開催中の「日本橋 描かれたランドマークの400年」展を見ると、江戸時代から、日本橋の界隈は本当にさまざまな絵図で登場しており、重要なランドマークだったことがよくわかる。そのなかでも対象に超接近する歌川広重の構図がもっとも大胆で前衛的だ。展示の内容は、近代以降も続くが、やはり首都高が上にかかる時代で終わっている。とはいえ、かつての美しい景観を創る会のような、首都高速を破壊すれば、古き美しい江戸の情緒が甦るといったイデオロギーはなく(そもそも現在の日本橋は江戸時代の木造の橋を壊した後につくられたもの)、その良し悪しについては中立的な立場をとっていたことは興味深い。
2012/07/01(日)(五十嵐太郎)
台日建築新鋭交流展 Coming of Age 系列活動「當代日本/台灣建築現象談議」
府都建築文化会館(白鷺灣建築文化館)[台湾・台南市]
台南の府都のホールにおいて、日本と台湾の若手建築家が参加した「日台新鋭建築家交流展 自然系建築」に連動したシンポジウムが開催された。藤本壮介のレクチャーに続き、筆者は「21世紀のモニュメント」と題して、彼がコンペで勝利した台湾タワーに関するコメントを行なった。これは高さや垂直性を志向する塔ではない。実際、細長いプロポーションではなく、横方向にも伸びている。かといって、最大の床面積を得るべく、フロアを積層させた高層ビルでもない。なぜならば、内部は空っぽであり、吹抜けの下に大きな広場を抱えている。すなわち、藤本の提案は、タワーそのものの概念を変えてしまう、オルタナティブ・モダンの建築なのだ。もはや「タワー」に代わる言葉が必要だろう。
写真:藤本壮介の台湾タワーの模型を上からのぞく
2012/06/30(土)(五十嵐太郎)
衍序建築展─後設數位時代的新維度 Procedural Architecture - Resolution in the Age of Meta-Digital
会期:2012/05/25~2012/06/30
MOCA Studio[台湾・台北市]
台北当代芸術館のTAIPEI MOCAにて開催されたデジタル系建築の展覧会を見る。台湾の国立交通大学で教鞭を執るNOIZ ARCHITECTSの豊田啓介さんがキュレーターとなり、同校とETHが共同し、ワークショップ形式で茶室などの1/1の空間モデルを制作したものだ。考えてみると、日本では卒計イベントなどにおいて、むしろ模型の表現が重要になっているが、こうしたコンピュータを使う設計教育に特化した学校があまりない。とはいえ、デジタルな設計のプロセスと最終的な成果物の完成には手仕事が介入するアナログな作業の融合が興味深い。現物は展示されていなかったが、ETH側のプロダクトとして、薄い膜の群れが自動的に変形する映像が紹介されていたが、これはまるで生き物だ。
2012/06/29(金)(五十嵐太郎)
「JCDデザインアワード2012」公開審査
東京デザインセンターガレリアホール[東京都]
東京デザインセンターにて、JCDデザインアワード2011の審査を担当した。今年の特徴は、アジアから力強い造形をもつ作品がかたまりになって応募されたこと。個人的には一押しがなく、最後に残った金賞の6作品もあまり予想しなかった展開だった。ファイナルの審査で議論になったのは、主に以下の3作品である。藤井信介の「鎌倉萩原精肉店」は、店主の顔がいい。これも含めてインテリア・デザインがなされている。建築的には、新しい空間の形式を大胆に提案しているという点において、HAP+米澤隆の「公文式という建築」が評価できるだろう。一方、宇賀亮介の「まちの保育園」の応募パネルは、スナップ写真を多く貼り、建築のデザインよりも、人々のアクティビティを伝えようとしていた。即決で結果を出すなら、精肉店か公文式だろう。が、議論が長引くに連れて、だんだんと保育園のおもしろさがわかってくる。噛めば噛むほど味がでるのだ。まちとつなぐための建築の構成にも提案がある。写真一発のデザインではない。だが、デザインが社会に対してできることへの可能性を切り開く。このことが審査員のあいだで共有されたとき、僅差で「まちの保育園」が大賞に選ばれることになった。
2012/06/23(土)(五十嵐太郎)
伊丹潤 展 手の痕跡
会期:2012/04/17~2012/06/23
TOTOギャラリー・間[東京都]
ギャラリー・間の伊丹潤展を訪れた。独特なデザインだが、かといって完全に孤高ではなく、やはり時代性も感じられるのが興味深い。済州島の作品群を見たくなったが、最近の韓国では国内観光をテコ入れし、飛行機はいつも満員だという。「手の痕跡」という展覧会のタイトルどおり、ドローイングやスケッチが力強い。素材を活かした存在感のある建築だ。が、一部をのぞき、展示された模型は「手」との関連性が見出しにくい。情報として建築を伝えるにしても、図面以上のものがあまり伝達されている感じがしない。これは白井晟一展でも感じたことだが、模型だと相性がよくない建築があるのだろう。
2012/06/22(金)(五十嵐太郎)