artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
アートみやぎ 2011
会期:2011/01/15~2011/03/21
宮城県美術館[宮城県]
宮城県にゆかりのあるアーティストを紹介する恒例の企画展。トップを飾る志賀理江子は、オーストラリアや仙台などで制作された「カナリア」のシリーズを展示する。展覧会や写真集などで、すでに何度か見ていた作品ばかりだったので、欲を言えば、新作を見たかった。とはいえ、7組の作家のなかでは、ひときわ存在感を放つ。ほかには鹿野護のインタラクティブな映像作品や、佐々木加奈子による異国の地ボリビアにおける沖縄村を通じて、日本の記憶をたどった「オキナワ・アーク」も印象深い。加えて、キリンアートアワードの審査と展覧会で担当した椎名勇仁が現在は仙台在住と知る。なお、常設展の方、今回は「よみがえる岸本清子」が思わぬ拾いものだった。ネオダダに唯一の女性アーティストとして参加した後、活動休止を経て、過激なパフォーマンス、空飛ぶ赤猫シリーズ、雑民党から「地獄の使者」として参議院に立候補したときの政見放送など、「前衛」が機能していた時代に思いをはせる。
2011/02/02(水)(五十嵐太郎)
グザヴィエ・ヴェイヤン展「FREE FALL」
会期:2011/01/15~2011/05/08
エスパス ルイ・ヴィトン東京[東京都]
以前は、一般に非公開だったルイヴィトン表参道の7階スペースが、アートの空間として開放された。その下の外壁とは違い、ガラスに囲まれた空間は、まわりの都市を眺めるのに絶好の場所だ。ヴェイヤンは、コンストラクティヴィズム、モビールなどを踏まえ、青木淳が設計した白く塗られた鉄骨の部屋とばっちり似合うインスタレーションを展開している。つまり、建築的な作品であると同時に、建築とも調和するのだ。もっとも、床にベニヤ板を敷き詰め、工事現場のような雰囲気に変えるなど、ラグジュアリーな建築にも介入している。彼はヴェルサイユ宮殿で「建築家」展(2009)を開催しているが、村上隆のヴェルサイユ展も空間と作品の相性が抜群だった。ヴェイヤンの自由落下をテーマにした作品群でも、自らの落下のイメージを表現した「FREE FALL」(2011)はとくに興味深い。ただの画像に見えて、実はピンによって多数の紙片をとめており、個別のサイズよりも重さのバランスによって、必要なピンの数が決まっている。
2011/01/22(土)(五十嵐太郎)
荒川智則 個展
会期:2011/01/13~2011/02/13
トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]
渋谷のTWSにて、カオス*ラウンジによる荒川智則展を見る。なんでロゴがメタリカ風なのだろうと思いつつ、会場のオタク的な空間とゆるい雰囲気に現代らしさを痛烈に感じた。即座に秋葉原的なオタクショップ、あるいはメイドカフェや猫カフェなどのラウンジなどを連想させる空間だろう。「?」をつきつける意味では「アート」なのだが、筆者は技術や審美にもとづく作品の方が好みだと痛感した。一見、ゆるくて汚い感じは、泉太郎の展覧会とも似ているのだが、彼は空間の使い方が巧く(神奈川県民ホールギャラリーの「こねる」展)、古典的な意味でもアートになりえている。ダメならもっと徹底する道もあると思うが、それも狙いではないのだろう。また本展は、集合知の別名である荒川智則とは誰かをめぐって、ネット時代の言説と批評を喚起する。確かに、語りたくなる展覧会ではある。
2011/01/22(土)(五十嵐太郎)
建築家 白井晟一 精神と空間
会期:2011/01/08~2011/03/27
パナソニック電工 汐留ミュージアム[東京都]
初期の住宅から、銀行、公共施設、美術館まで、彼の軌跡をたどる回顧展である。とりわけ原爆堂計画の驚愕すべき手描きの表現に驚きつつ、ドローイングに萌えることができた時代の美しい図面に感心させられた。その一方で、やはり通常の建築模型では、ほとんど白井の魅力が表現されないことがよくわかる。なるほど、模型が重要になり、CGによって図面が均質化された、現在の建築の流行とは確かに真逆といえるだろう。いわゆる構成ではなく、表面の素材や装飾など、空間のひだが重要なのだろう。冒頭に編集者だった川添登が白井から受けとった50年前の生原稿が展示されたり、展示の区切りごとに、白井のテキストが抜粋されるなど、改めて白井の神話作用についても考えさせられた。
2011/01/22(土)(五十嵐太郎)
建築家フォーラム第98回「建築道」(前田紀貞アトリエ展)
会期:2011/01/17~2011/01/25
INAX:GINZA 7F[東京都]
予算の関係もあってか、通常、ここの展示はスカスカになりがちだが、今回はモノがぎっしりと詰まった濃密な展覧会だった。前田紀貞の建築作品、そしてスタディの様子など、前田塾における活動を紹介し、さらにはBAR典座や事務所の家具を会場に持ち込む。単なる作品の展示ではない。まさに人生そのものが建築であるという前田の建築道のメッセージが表現されている。塾生らが総出で運び、会場と事務所を数回往復したという。その心意気に敬意を表し、出張BAR典座にて、一杯飲んで、熱い建築道を味わう。また筆者が感銘を受けたのは、3コードのもっともシンプルなロックンロールが会場に流れていることだった。これまでに、さまざまな建築展を訪れたが、初めての経験である。
2011/01/21(金)(五十嵐太郎)