artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
「著者が語る、建築本の楽しみ方─お部屋編─」(第4回)家具から見える日本の住文化
会期:2011/03/11
ハウスクエア横浜[神奈川県]
子ども部屋、トイレ、浴室など、部屋ごとに講師を招いたシリーズの第四回は、「家具から見える日本の住文化」と題して、小泉和子さんをお招きした。いかにインテリアや家具の視点から歴史研究を行なう人材がいないか、またその後継者を育てるのが大変なのかを最初に指摘していたが、なるほど、建築の隣接分野でありながら、現代においてもインテリアデザインの研究者やその歴史分析がほとんどない。その後、日本の住文化において、家具が建築化し、家具がないことを語っていたところで、大地震が発生し、レクチャーは即座に中断となった。地震の後、ハウスクエア横浜の建物の前でしばらく避難していたが、通常は見知らぬ他人として帰宅したはずの受講生同士、あるいは講師とのあいだで、不思議な一体感が生まれる。受講者は高齢の方が多く、関東大震災後の生まれなので、東京に住んで、生まれて初めてこの規模の地震を経験したと語っていた。
2011/03/11(金)(五十嵐太郎)
JIA東北住宅大賞 現地審査
[福島県、岩手県、青森県、秋田県、宮城県]
卒計日本一決定戦の後、古谷誠章さんとJIA東北住宅大賞の現地審査におもむくのが恒例となった。5回目は、郡山(阿部直人の小さな家と、増子順一による間の空間2)、岩手(SOY SOURCEによる八幡平の山荘)、青森(福士譲の事務所による新田の家)、秋田(納谷兄弟による鷹巣の住宅と、木曽善元による横手の家)、仙台(前田卓の川のほとりで)をまわり、二泊三日の強行軍で東北エリアに点在する7作品を見学した。今年は雪国の中庭住宅である横手の家が東北住宅大賞に選ばれた。例年の倍以上の積雪で、まわりの家の軒先が幾つか壊れているなかで、この住宅は、傾斜屋根の配置パターンによって、むしろ雪を味方につけるのが興味深い。冬は片側に雪を落とし、西風をブロックし、それがない夏は通風の道とするのだ。9日にこの住宅を見学後、地元で名物のメロンパンを購入したところ、最初の大きな地震に遭遇する。長い揺れで、まるで船に乗っているようだった。乗るはずの新幹線が運休になったが、まさかあの大地震の予兆とは思っていなかった。
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2011/03/07~09(五十嵐太郎)
せんだいデザインリーグ2011 卒業設計日本一決定戦
会期:2011/03/06~2011/03/11
川内萩ホール[宮城県]
今回、最終の審査で選ばれたファイナリストは、10人中8人がセミファイナルで票を入れた学生だったので、いつもより多く、基本的にどの案も応援していたが、発表と討議を繰り返すなかで、どんどん魅力が引き出されたのが、日本一になった芝浦工業大学の冨永美保だった。逆にアシストのつもりの質問を受けとれない学生もいて、そうした場合は脱落していく。日本二に選ばれた日本大学の蛯原弘貴の工業化住宅は、セミファイナルで3点を入れた作品だったが、敷地の観察や建築的な発見が足りないと判断し、最後は票を入れなかった。
日本三となった明治大学の中川沙織は、いまの建築はやさし過ぎると批判し、人間はきわめてパンクで、会場は盛り上がったが、建築はそこまで過激な空間でない。人間コンテストなら1位だが、SDLは建築を競う場である。中川インパクトのあおりを喰らい、興味深い空間のシステムを提案した東京理科大学の大和田卓の住華街がベスト3から落ちたのは、残念だった。
審査に関して、テクトニックな案をもっと選べという意見が聞かれたが、だからといってアファーマティブ・アクションのような優遇措置をとるのは難しい。筆者は、例えば、郊外化や情報化のタイプの案を優先して選ぶ、藤村龍至的な立場はとれない。それこそ建築は多様であり、そうでない案の学生に失礼になるからだ。
筆者の著作は、建築と社会に関するテーマだが、建築やアートの審査を行なう場合、いったんそれは解除する。そうでないと、キリンアートプロジェクト2005において石上純也のテーブルを選べなかっただろう。自分の偏った好みを認識しつつも、なるべくバランスをとる。
つまり、審査に望む際、昨日まで考えていたことを補強したり、その啓蒙に役立つ作品よりも、むしろその日まで自分が考えてもいなかったような気づきを与えるものを選ぶ。使いまわしの説明が通用せず、それがなぜ良いのか、その場で言説を新しく組み立てる必要があるものだ。
ともあれ、今から思えば、全国から学生が集まる、この時に震災が起きなくてよかった。10周年を迎えたせんだいメディアテークは一部損壊し、模型の返却も遅れたが、来年は復活のイベントとして、卒業設計日本一決定戦が再開されることを願う。
2011/03/06(日)(五十嵐太郎)
中野成樹+フランケンズ「ザ・マッチメーカー」
会期:2011/02/25~2011/03/06
座・高円寺[東京都]
「ザ・マッチメーカー」は、四部構成の空間変化も良かったが、なにより「誤意訳」によって言葉がころころ転がっていくリズム感と笑いが心地いい。そして財布=貨幣と男女が交換していき、大団円に至る、文化人類学的な物語構造も好みである。特に原作と読み比べて、どのように変えたのかを知りたいと感じた。普段から演劇に通う習慣がないために、ほとんど予備知識もなく、観劇したが、130分を大いに楽しむ。なお、中野成樹とは、座・高円寺での劇場本をめぐる公開読書会の企画で初めてお会いした。
2011/02/28(月)(五十嵐太郎)
春木麻衣子 写真展「photographs,whatever they are」
会期:2011/02/26~2011/05/08
1223現代絵画[東京都]
画面がほとんど白や黒だったりするが、そこに人影や風景が微細に映り込む、ずば抜けたセンスの写真。アメリカ自然史博物館は杉本博司も題材にしているが、春木麻衣子のシリーズは展示物=モノを対象としない。おそらく関心があるのは、博物館という空間の形式であり、真っ黒な画面のなかで小さな展示窓がランダムに散らばる独特の風景を再構築する。重ね撮りすることで、時間と空間が交差する異次元を生む。今回は以前見たときよりも大きなサイズで、作品の強度を増している。新作としては、地下鉄の空っぽの広告に自画像やまわりの他人がかすかに映り込むものや、ほとんど見えないパリの信号のシリーズが展示された。もうすぐ新しい写真集も刊行されるというから楽しみだ。
2011/02/27(日)(五十嵐太郎)