artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
松田行正『1000億分の1の太陽系 400万分の1の光速』
発行所:牛若丸
発行日:2009年12月
『線の事件簿』に惚れ込んで以来、いつかは仕事をお願いしたいと思っていた松田行正には、筆者が編集委員長となったことを契機に、二年間『建築雑誌』2008年1月号~2009年12月号のデザインを担当していただいた。印象的な色彩の表紙で覚えている人も多いだろう(なお、1月22日から28日まで、建築会館の1階ギャラリーにて、表紙の展覧会を開催予定)。彼の事務所は、こうした依頼とは別に、好きな本を自主的に制作しており、いつも年末になると、目を楽しませてくれる、実験的な本を発表している。今年は、なんと1p=1250km×600ページというヴォリュームによって、太陽系の大きさを表現した。すなわち、三次元の模型ではなく、厚さ5cmの書物に変換された天球儀である。その結果、ひたすら線だけのページが続き、カッコいい。
2009/12/31(木)(五十嵐太郎)
栗生明+渡辺真理 編『現代建築ガイドブック 千葉市』
発行所:建築資料研究所
発行日:2009年12月
千葉市優秀建築賞の1988年から2008年までの受賞作134件を紹介したガイド。地域ごとの建築賞はいろいろあるが、なかなか一般に周知されない。そうした意味で、本という形式で賞の制度を外部に向けて提示していくのは良い試みだと思う。栗生明のテキストは、千葉市における建築の歴史のほか、この賞の経緯や狙いも説明している。巻頭は、写真家の小山泰介さんの撮りおろしである。ケンチクのいわゆる竣工写真とは違う、都市の表面をスキャンし、異世界を出現させていくような作風が、ここでも展開している。ただし、MAPはもうちょっと使いやすいと、実際に見学に行くときに助かるのだが。
2009/12/31(木)(五十嵐太郎)
平野暁臣『空間メディア入門』
発行所:イーストプレス
発行日:2009年12月
著者は建築出身の空間メディアプロデューサーである。岡本太郎のお別れの会、六本木ヒルズのアリーナのイベント、リスボンやタイにおける展示企画、「明日の神話」再生プロジェクトなどを手がけるほか、岡本太郎記念館の館長をつとめている人物だ。本書は、全体を「空間で語る」「空間を活かす」「空間に求める」の三部構成としつつ、細かくは見開きの単位による87のトピックに分けて、空間づくりの方法論を講義形式で語っている。いずれも抽象的な理論というよりも、彼が実感した現場の教えをもとにしており、説得力をもつ。イベントという場をつくるにしても、それが空間と結びつくのは、建築を最初に学んだからなのだろう。インターネットの時代に、現実の空間メディアがどうあるべきかを考えるうえでも示唆に富む。
2009/12/31(木)(五十嵐太郎)
ロジャー・ディーン『ドラゴンズドリーム ロジャー・ディーン幻想画集』
発行所:ブルース・インターアクションズ
発行日:2009年12月4日
まだ小さなサイズのCDではなかった時代、ASIAやYESのアルバムで穴があくほど見つめたジャケットのアートワークの数々。展覧会など開催しなくても、プログレのバンドを通じて、一度見たら忘れられない幻想的なランドスケープは広く知られるようになった。ロジャー・ディーンのドローイングは、いつも時空を超えた遠い世界を感じさせる。序章のテキストで初めて知ったのだが、彼は学生だった1967年に探求していた建築原理の本を書こうと考えたり、修士号では建築の研究をやっていたという。そしてコンピューター・ゲームの背景の建築画も手がけている。この画集の最後を飾るのは、第8章「建造物」だ。実際、彼はマレーシアの公園やトルコのディスコ、エコ・ヴィレッジやマウンテン・リゾート、ホテルや砂漠の教会などの仕事も依頼されている。これらのぐにゃぐにゃの有機的なデザインからは、1960年代の実験建築の影響を受けていることもうかがわれ、興味深い。
2009/12/31(木)(五十嵐太郎)
「槇研の本」編集委員会『都市のあこがれ──東京大学槇文彦研究室のその後とこれから』
発行所:鹿島出版会
発行日:2009年10月
東京大学における槇研究室の卒業生が、学んだことを現在の視点から振り返るエッセイを集めた本である。卒業生はさまざまな活動に関わっているが、やはり寄稿したOB、OGは、教員になっている人が多い! 全体としては、テーマごとに7章に分けているが、タイトルにも使われているように、「都市」のキーワードが多い。都市との対話から建築をデザインしていく姿勢がうかがえるだろう。『見えがくれする都市』への参照も目立ち、研究室のバイブルだったことがわかる。槇文彦は、1979年から89年まで教鞭をとっており、筆者もちょうどその最後の頃に学部生だったので、設計のエスキスを受けたことがある。また同書には、赤川貴雄、新堀学、本江正茂、鹿野正樹らの同級生が寄稿している。巻末には各年の論文タイトルの一覧もつく。
2009/12/31(木)(五十嵐太郎)