artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
伊東豊雄+藤本壮介+平田晃久+佐藤淳『20XXの建築原理へ』
発行所:INAX出版
発行日:2009年9月30日
伊東豊雄が3人の若手に架空のプロジェクトを依頼するドキュメント本である。選ばれたのは、好敵手の藤本壮介と平田晃久、そして佐藤淳。近代主義を乗りこえるための、伊東の問いかけから始まり、討議、ゲストを交えての研究会、プレゼンテーションを経て、それぞれの21世紀の造形が示される。1960年代のメタボリズムをほうふつさせるような前向きに未来の原理をつかみだそうとする姿勢が気持ちいい。社会の空気に萎縮し、妙に大人びた学生の案よりも、はるかに若々しい。そう、彼らは童心に帰って、建築を楽しんでいる。何をつくったかという最終形を知るだけなら、一冊の本をつくる必要はない。写真を中心にした冊子でも充分である。むしろ、創造というプロセスを四人が共有しながら、建築家として議論する言葉や思考の動きこそが、本書の最大の醍醐味である。ANY会議のような抽象的な議論とは違う、具体性のある刺激的なトークが展開されている。
2009/10/31(土)(五十嵐太郎)
山本兼一『火天の城』
発行所:文藝春秋
発行日:2007年6月10日
9月に公開された同名映画の原作である。織田信長の安土城の建設をめぐって、大工棟梁の視点から描いた時代小説。父と息子の物語になっているところなどは、中世のヨーロッパを舞台にしたケン・フォレットの『大聖堂』をほうふつさせる。現存しないために、さまざまな復元案があるのだが、巨大な吹抜け案なども、コンペの対案として紹介しているのは興味深い。宣教師を経由したヨーロッパの影響なども示唆している。建築界では重源が好まれ、彼を主人公にした小説も書かれているが、なるほど、安土城はエキセントリックな施主との関係もあってエンターテイメント性が高い。なお、映画では息子の代わりに福田沙紀演じる娘が登場するなど、さまざまな変更があり、その比較も楽しめる。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)
竹内昌義 他『未来の住宅』
発行所:バジリコ
発行日:2009年8月21日
刊行直後から、本書には追い風が吹いている。民主党の鳩山首相が、CO2など温室効果ガスを25%削減するという大胆な目標を掲げたからだ。まさに、このテーマを建築界がどのように受け止めるべきかを考えたのが、本書である。サブタイトルは、「カーボンニュートラルハウスの教科書」。CO2を排出しない家ということだ。竹内昌義は、そのために必要なことは、徹底的な省エネルギーをはかること、そして化石燃料ではなく、再生可能エネルギーを使うことだという。本書は、質疑形式を用いながら、わかりやすく、断熱やデザインなど、具体的な方策を開示していく。そして森林を手入れしつつ、日本の木材を使うことが推奨される。それは伝統的な建築の姿に重なるからだ。妹島和世の設計した《梅林の家》の施主が登場するのも興味深い。また本書は、200年住宅にも疑問を投げかける。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)
マシュー・フレデリック『建築デザイン101のアイデア』
発行所:フィルム・アート社
発行日:2009年8月10日
本書の意図は明快である。建築デザインの教えをアフォリズム的な言葉によって並べること。先にイラストがあって、次に力強い言葉が続く。見開きでセットになっている。一番目は「どのような線で描くべきか」から始まり、35番目の「眺めるのも好きだけど、眺めに背を向けるのも悪くない」という発想の転換を混ぜたりしながら、最後は「ひたすら何かを描きなさい」「気の効いた名前をつけてみなさい」「建築家というものは遅咲きなのです」で終わる。実際、建築の設計とは、さまざまなことを同時に考える複雑な作業だが、ここではなるべく分解し、チェックすべき事項を挙げているのだ。デザインに行き詰まったときに、開いてみるのもよいだろう。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)
真壁智治 チームカワイイ『カワイイパラダイムデザイン研究』
発行所:平凡社
発行日:2009年9月
数年前から真壁智治が、研究室の学生によって結成されたチームカワイイとともに、カワイイをテーマに現代のデザインを調査した成果が一冊の本として発表された。軽そうなトピックに思われるかもしれないが、400ページに及ぶ大著である。真壁によるコンセプトの論文、デザインの事例紹介、現代建築の検証など、二回のシンポジウムやリサーチをすべてつぎ込んだ総力戦だ。なるほど、かわいいという感性が重視されているのは間違いない。今後カワイイについての考察を深めていくうえでの基礎資料集成といったおもむきである。筆者も、本書に「かわいい建築論をめぐって考えておくべきこと」というテキストを寄稿した。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)