artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

隈研吾建築都市設計事務所『スタディーズ・イン・オーガニック』

発行所:TOTO出版

発行日:2009年10月15日

大量のスタディ模型を並べたギャラリー間の隈研吾展にあわせて刊行されたカタログ的な本である。21世紀に入り、彼は驚くべき勢いで、海外で数多くのプロジェクトを手がけ、事務所のスタッフも急増した。本書では、建築の姿を消していく「コンター」、建築を構成する粒子を操作していく「テクスチャー」、生命体のような形態に向かう「オーガニゼイション」という3つのキーワードによって、近作を分類している。旧作はもちろん、オープンしたばかりの根津美術館という最新作もなく、これからのプロジェクトを紹介しており、いまもっとも脂がのっている建築事務所であることを印象づけるだろう。そう、現在進行形なのだ。本書の冒頭には「消去から有機体へ」というバイリンガルの論文を寄せている。そして1980年代のポストモダンから現在までの活動を振り返りながら、新しい有機的建築が宣言されるのだ。生物のメタファーが語られるが、フランク・ロイド・ライトやメタボリズムとも違う。新しい生物観にたった有機的建築の再定義を試みようとしている。

2009/12/31(木)(五十嵐太郎)

佐藤淳一『恋する水門 FLOODGATES』

発行所:ビーエヌエヌ新社

発行日:2007年8月13日

この写真集も「景観開花。」にあわせて、手にとった。東北大の工学部卒の佐藤は、写真作家となり、水門に魅せられ、多くの場所を訪れ、撮影してきた。筆者も、数年前に宮城県美術館の展覧会において初めて彼の写真に出会った。興味深いのは、赤、青、緑など、巨大な門扉がカラフルであること。通常、水門の造形はモダニズム的な美学から発見されるものだが、その色彩が機能とは関係ないという意味では、ポストモダンに突入している。ところで、佐藤が現場でゲートの色は誰が決めるのかと尋ねたところ、「所長の趣味とかじゃないですかねえ」という答えが返ってきたらしい。そのテキトーな脱力具合がいかにも日本らしい。

2009/11/30(月)(五十嵐太郎)

萩原雅紀『ダム』2007.2.16/『ダム2(ダムダム)』2008.1.18

発行所:メディアファクトリー

今年の「景観開花。」の土木系アイデア・コンペのテーマが、ダムだったので、ダムの写真集に目を通した。子どもの頃に開眼し、ダム・マニアとして各地を訪れている著者ならではのこだわりが楽しい。イントロダクションで書いているように、ダムは人類がつくりだした建造物で、最大級にデカイ。そして「さまざまな要素で構成される堤体のデザインにはふたつとして同じものがありません」という。なるほど、写真をめくると、多種多様のダムの姿が浮かびあがる。それは時代の変遷もあるだろうが、自然と地形とダイナミックに関わるからこそ、だろう。巻末には用語集もあり、ガイドブック仕立てだ。個人的には、崇高な美も見たいのだが、この本はむしろフィールドワーク的なまなざしが強い。また建築屋としては、写真だけではなく、なぜそうなかったかを考えるために、プランや配置図なども知りたいと思った。

2009/11/30(月)(五十嵐太郎)

吉田桂二『間取り百年──生活の知恵に学ぶ』

発行所:彰国社

発行日:2004年1月

建築家による20世紀の日本住宅史である。興味深いのは、戦争を分水嶺とし、戦前と戦後では、住宅において未曾有の大変動が起きたことを指摘していることだ。戦前は民家の時代であり、普通の人は自分の家を所有していなかったのに対し、戦後は持ち家が当たり前になり、住宅産業の時代に変化したという。いわゆる建築家が登場するのは、1950年代の池辺陽らの最小限住宅だけなのだが、それは唯一、建築家の試みが社会に届く可能性をもっていたからだ。本書においてユニークなのは、著者自身による手描きの図面である。ほとんどがフィールドワークなどによって自ら採集したものであり、しかも家具や住人が寝ていた位置なども細かく書き込まれている。ゆえに、抜け殻のような図面ではない。生活が具体的に想像できる絵なのだ。そこから当時の世相も見事に浮かびあがる。

2009/11/30(月)(五十嵐太郎)

『建築以前、建築以後 Before Architecture, After Architecture』

発行所:アクセス・パブリッシング

発行日:2009年11月25日

2009年の夏、小山登美夫ギャラリーで開催された建築展「建築以前・建築以後」のカタログ。同展では、鈴木布美子のキュレーションにより、菊竹清訓、伊東豊雄、妹島和世、西沢立衛の4人のプロジェクトの模型、ドローイング、そして写真(ウォルター・ニーマイヤーやホンマタカシが撮影)を展示したが、それらの作品と会場写真が収録されている。彼らは師弟関係にあり、いわば、戦後日本建築のアヴァンギャルドの直系をたどる内容だ。鈴木による出品作家へのインタビューがあるほか、巻末に寄稿された保坂健二朗のテキスト「なぜ建築はコレクションされるべきなのか」が興味深い。もともと、この展覧会が開催されたのも建築資料の問題を契機としていたが、保坂はまず欧米をレビューし、日本のお寒い状況に触れながら、建築もコレクションすることでミュージアムも変容する可能性を論じている。

2009/11/30(月)(五十嵐太郎)