artscapeレビュー
福住廉のレビュー/プレビュー
すみだ川アートプロジェクト「遠藤一郎:隅田川いまみらい郷土資料館」
会期:2010/06/25~2010/07/25
すみだリバーサイドホール・ギャラリー[東京都]
「すみだ川アートプロジェクト」とは、東京の下町を貫く隅田川を、たんなる自然環境としてではなく文化資源としてとらえなおそうとするアートプロジェクト。昨年からはじまり、今後80年間を見通した長期的かつ継続的なプロジェクトとして構想されているという。今回は未来美術家・遠藤一郎を中心としたグループが、隅田川の河口から源流の甲武信岳まで173kmの川沿いを調査した結果、河原に廃棄されたゴミを再構成したオブジェや河の水であぶり出した絵、流域で暮らす人びとへのインタビュー映像などを発表した。長大な旅の過程を体感させるには十分な内容といえるが、その一方でなんとも言えないもどかしさを覚えたのも事実だ。つまり、プロジェクトの内容も発表された作品も、いずれも想定範囲内のことばかりであり、こちらの虚を突くような突き抜けたアクションは見られなかった。正直にいえば、昨年のWahによる「すみだ川のおもしろい」のほうが、非常識きわまるアイディアを徹底して追究するバカバカしさにおいて、端的におもしろかった。そもそも隅田川とは荒川から分岐して東京湾に注ぐ河川であるから、正確にいえば、甲武信岳は荒川の水源である。それを承知のうえで隅田川の全長を173kmとするのであれば、その(よい意味での)「図々しさ」をもっと突き詰め、膨らませることができたのではないだろうか。大昔に甲武信岳の水源まで登攀したことのある身としては、山登りや探検、フィールドワークを方法としたアートに好感をもつのは事実だとしても、それだけではそうしたアウトドアの魅力には到底かなわいないと言わざるをえない。
2010/07/21(水)(福住廉)
スウィンギン・ロンドン 50’-60’
会期:2010/07/10~2010/09/12
埼玉県立近代美術館[埼玉県]
50年代から60年代にかけてのイギリスで花開いた都市文化を検証する展覧会。べスパ、ミニスカート、トランジスタラジオなど、新しいファッションや工業製品を若者たちがこぞって消費する文化が定着したのがこの時代だが、展覧会の全体はほとんど商品の陳列に終始しており、消費文化を支えた若者たちの欲望の次元を掘り出すまでには至っていないようだった。古びたモノの数々は、当時の若者たちのノスタルジーを誘うことはあるのかもしれないが、それらが彼らの心理にどのように働きかけ、消費行動に導き、結果としてどのようなライフスタイルを生み出したのか、展示にはほとんど反映されていなかった。モノとしての作品を見せる(だけの)旧来の美術館の作法が、ここでも繰り返されていたわけだ。しかし、欲望のオブジェがさまざまな社会的関係と分かちがたく結ばれている以上、それらを展覧会というかたちで「検証」するやり方については、もう少し(自己)批判的に再考されるべきではないだろうか。モノを見せてよしとする美術の王道が通用する時代はとっくの昔に終わっているし、「検証」にはもっとたくさんのアプローチがある。たとえば、この時代の若者たちによって再編成されたモノと欲望の関係については、1979年のイギリス映画『さらば青春の光』(原題はQuadrophenia、つまり四重人格)が丁寧に描き出している。展覧会に満足できなかった人には、この映画を見ることをおすすめしたい。
2010/07/20(火)(福住廉)
池田龍雄 アヴァンギャルドの軌跡
会期:2010/06/19~2010/07/19
山梨県立美術館[山梨県]
美術家・池田龍雄の本格的な回顧展。戦後間もない時期からアヴァンギャルドとして制作活動を開始し、ルポルタージュ絵画や「制作者懇談会」、概念芸術への接近以後の《梵天の塔》《BRAHMAN》など、池田が歩んできたアヴァンギャルドの軌跡を一望できる展観となっていた。とりわけ見応えがあったのは、朱色を多用した油彩画や水彩を丁寧に塗り重ねたペン画など、細やかな手わざを駆使した初期の作品で、アヴァンギャルドの精神が堅実な技術と明確な絵画意識に支えられていたことが明らかにされていた。その決して短くない軌跡に現われていたのは、芸術で社会を変革するという外向性が次第にみずからの内奥と宇宙空間を連続してとらえようとする内向性へと反転していく過程。それは、いってみれば戦後美術の変転の様子と重なっているのであり、その意味で池田の制作活動には戦後美術の歴史が凝縮されているように思えた。今後、川崎市岡本太郎美術館、福岡県立美術館に巡回予定。
2010/07/18(日)(福住廉)
増山士郎 展 Intervention
会期:2010/06/12~2010/07/19
市原市水と彫刻の丘[千葉県]
昨年の第1回所沢ビエンナーレで話題を集めた増山士郎の個展。展覧会の会場で寝泊りしながらアルバイトに出かけていく様子を見せた《アーティスト難民》(2009年)のほか、展覧会のオープニングに訪れた客を個室化したカウンターでもてなす《Parky Party》(2010年)、警察による違法駐車取締りから車を守る《合法駐車》(2000年)、灰皿が設置されていない渋谷駅のモヤイ像前に球体状の剣山を置いてシケモクを生ける灰皿として機能させた《生けモク》など、増山の代表的な作品やプロジェクトを振り返る構成だ。新作《crossing the border》は、オランダのスキポール空港内で輪ゴムをセキュリティ・チェックを通過することなく飛ばすパフォーマンスを記録した映像作品。クリアボックスにうやうやしく収納された輪ゴムがなんともおかしい。全体的には、社会に批判的に介入する増山の真骨頂が表わされていた展示だったように思う。しかし、この会場は千葉の山奥の湖畔に立てられた美術館。文字どおり人里離れた美術館で見せられる社会介入型のアートに違和感を覚えたのも事実だ。もちろん田舎が社会ではないというわけではないが、社会に介入する増山の作品の魅力を最大限に引き出すのであれば、むしろ都心の美術館のほうがふさわしい。何より増山が介入する現場はつねに都市のど真ん中にあるのだから。ぜひとも都市型の美術館に巡回してほしい。
2010/07/17(土)(福住廉)
大竹夏紀 展
会期:2010/07/12~2010/07/17
GALLERY b. TOKYO[東京都]
生き物のように飛び跳ねる髪の毛と大きな目、そしてまぶしいほどの色彩。いかにもアニメチックなアイドルを描いた大きな絵だが、じつは絹にロウケツ染めで描いているという。鮮やかな色彩と光沢を放つ絹の艶めかしさが、モチーフとなっているアイドルの華やかさを際立たせているようだ。漫画からアニメ、そしてネットへと発展していったサブカルの歴史の流れを、古来からの染色技法を徹底することによって、逆行させるところがおもしろい。
2010/07/15(木)(福住廉)