artscapeレビュー
福住廉のレビュー/プレビュー
秋山祐徳太子 高貴骨走
会期:2010/05/28~2010/06/27
AISHO MIURA ARTS[東京都]
ポップ・ハプニングの秋山祐徳太子による新作展。70年代に二度にわたって立候補した東京都知事選挙の選挙運動のポスターやその記録映像、ライカ同盟での写真、そして近年取り組んでいるブリキ彫刻《ダリコ佛》などを発表した。これまでの回顧展といえなくもないが、過去への回帰志向というより、現在と未来への志向性を強く感じさせていたのは、展示の全体がブリキ彫刻を中心に構成されていたからだろう。大小さまざまな《ダリコ佛》が立ち並んだ様子は、三十三間堂の千手観音立像といえば大袈裟だが、それに近い壮観な雰囲気をもたらしていた。そこには、アヴァンギャルドの古典回帰などではなく、むしろ老いてなお前進することをやめない、瑞々しくも高貴な高齢者の力強い足どりがあった。
2010/06/04(金)(福住廉)
熊澤未来子 展
会期:2010/06/02~2010/07/03
MIZUMA ACTION[東京都]
鉛筆による緻密な描写で知られる熊澤未来子の新作展。重力の圏内から投げ出されたかのような浮遊感を漂わせながら、人物とモノ、そして都市がダイナミックに揺れ動く運動性が特徴だが、今回の個展でもその才覚は遺憾なく発揮されていた。画面もかなり大規模になり、モチーフも以前にも増して錯綜してきた。2008年の五美大展では空中を蛇行する通勤電車とセーラー服の女子高生がモチーフになっていたが、今回発表された作品のなかではヌードの巨大な女性がタクシーを操りながら疾走するものが圧巻。広い意味での女性性がテーマとなっているようだが、そこから社会批判やジェンダーの問題を容易には読み取らせないほど痛快で迫力のある画面構成が何よりの魅力である。
2010/06/04(金)(福住廉)
辛酸なめ子 展「オーブの記憶」
会期:2010/05/31~2010/06/12
森岡書店[東京都]
辛酸なめ子の個展。写真に写りこむオーブ(玉響)がテーマで、オーブをとらえた写真やオーブについての漫画の生原稿、オーブのグッズなどを展示した。目に見えないものを見えるようにするのがアートの役割だとすれば、目に見えないものに特別な意味を与える心霊現象とアートはかなり近い。
2010/06/03(木)(福住廉)
大森悟 展 花かげ『存留』
会期:2010/05/31~2010/06/05
Gallery-58[東京都]
会場の中央に小ぶりの冷凍庫がひとつ。蛍光灯で照らされた内部を覗き込むと、積もり積もった霜柱に囲まれて、満開の桜がぎっしり詰め込まれている。その薄い桜色を寝床にして、一匹の鮮やかな瑠璃色の小鳥。来るべき目覚めのための長い休眠なのか、それとも物質を腐敗から救出する永劫的な眠りなのか。
2010/06/03(木)(福住廉)
本堀雄二 展─紙の断層 透過する仏─
会期:2010/06/01~2010/06/28
INAXギャラリー2[東京都]
文字どおりダンボールで作られた仏像。ユニークなのは、スライスしたダンボールを貼り合わせて仏像のフォルムを形作っているところ。だから空間の隙間がダンボールの軽量感と相俟って、仏像らしからぬ浮遊感を醸し出している。じっさい天井から吊るしていたから、そうとう軽いのだろう。台座の上に重量感のある素材を置くことで量塊性を謳いあげる近代彫刻へのアンチテーゼのように見えた。
2010/06/03(木)(福住廉)