artscapeレビュー
福住廉のレビュー/プレビュー
第6回馬橋映画祭
会期:2010/05/29~2010/05/30
「作品のジャンル、監督のキャリア、その他オールバラバラ映画祭」。いってみれば、アンデパンダン展の映画版で、何から何まですべて手作りの映画祭だ。入場も無料。6回目を迎えた今回は、20組による作品が5つのブロックに分けられ、この回はNaka-O「絶体絶命」、川辺雄「あなたは誰の神話なのか?」、ISHIKAWA Haruka「Leur passage」、じゃましマン「そう病の記録」が上映された。限界芸人・じゃましマンの初期の活動を記録した貴重な映像も見ものだったが、ISHIKAWA Harukaの映像にも眼を奪われた。窓の向こうのブロック塀の上を行き交う猫たちを定点観測した映像で、固定カメラを無視して堂々と歩く猫から何かと室内を伺う猫まで、性格の異なる生態を巧みにとらえた。編集もおもしろい。
2010/05/30(日)(福住廉)
『アヒルの子』
会期:2010/05/22
ポレポレ東中野[東京都]
2005年制作の小野さやか監督作品。みずからの家族をモチーフにしたドキュメンタリー映画で、カメラとともに親兄弟一人ひとりに向き合うことによって、表面的には模範的に見える「家族」を内側から突き崩していく。なるほど、ヒリヒリとするような内面を剥き出しにしながら、個人的な物語を語る「私映画」ではある。けれども、この映画が特異なのは、観客にとって未知の「家族」の内実が曝け出されているからではない。それは、「家族」の構成員にとっても(おそらくは)見知らぬ秘密さえも暴き出している。妹である小野監督を中心に、両親や2人の兄、姉と一対一の関係性に沿って明らかにされる事実や思いは、それぞれ固有のものであり、「家族」として共有されているわけではないだろう。小野が文字どおり涙と嗚咽とともに浮き彫りにしたのは、「家族」というもっとも身近で、だからこそ厄介な近代的な社会集団が、決して一枚岩のものでも安定したものでも何でもなく、それぞれ固有の関係性を維持したり隠すことによって辛うじて成立する、脆くも儚い人工的な作り物であるということだ。その意味で、「家族」に復讐するという小野の企ては、「家族」にとらわれていた自分自身との対決でもあった。
2010/05/22(土)(福住廉)
國森康弘 人生最期の1%
会期:2010/05/20~2010/05/31
コニカミノルタプラザ ギャラリーB[東京都]
島根県内の介護施設「なごみの里」で暮らす90歳代の老人3人の晩年をとらえた写真作品。それまでにどんな辛苦や苦労があったか、写真からうかがい知ることはできないけれど、最後の最後で自分の生をまっとうしていた老人たちの姿は、望まない死を迫られる人びとが依然として多い世界にあって、ひとつの幸福のかたちを示していたように思う。では自分はどのように生きて、どのように死を迎えるのか。その点を突きつけてくるメメント・モリとしての写真である。
2010/05/22(土)(福住廉)
沈昭良 写真展 STAGE
会期:2010/05/12~2010/05/25
銀座ニコンサロン[東京都]
台湾の写真家、沈昭良の個展。「台湾総芸団」をモチーフにした写真作品を発表した。それは歌や踊りなどの演芸を披露しながら台湾の各地を移動していく旅芸人の一座で、移動に使う大型トラックの荷台が演芸の舞台となる。荷台の内部には色とりどりの電飾や照明が仕込まれていて、スイッチひとつで外側に開いていくと煌びやかなステージが完成するという仕掛けだ。写真にはトラックからトランスフォームされたいくつものステージが写されているが、芸人が写りこんでいるわけではないから、旅芸人の演芸を記録した写真というより、むしろ舞台装置を即物的にとらえた写真である。とはいえ、空を赤く染めた夕闇や夜の繁華街のなかに立ち現われたステージは、見えない演芸を想像させる叙情性を強く醸し出している。路上に一時的に生起する非日常的な世界という意味でいえば、これはサーカスや紙芝居に近いのかもしれないし、だとすればこの叙情性は懐古的なニュアンスを多少なりとも含んでいるのかもしれない。けれども、沈昭良は失われた文化を美しくとらえるというより、むしろそうした舞台を内側に含みこんだ都市風景を見せようとしているのではないか。色鮮やかなステージは周囲の街並みを異化しているというより、絶妙に調和しながら溶け合っているからだ。都市と舞台が相対するのではなく、都市そのものが舞台である。そのことを、沈昭良による写真は物語っている。
2010/05/20(木)(福住廉)
大成哲 Glass Arts from 07 to 10
会期:2010/03/23~2010/05/28
チェコセンター(チェコ大使館内)[東京都]
ガラスを駆使するアーティストとして知られる大成哲の個展。ガラスの表面に入れたヒビによって世界地図を描いた作品などを発表した。暗い空間のなかで作品を見せることによってガラスの透明性を強調し、床にばら撒いたガラスの破片によってその脆さを効果的に表現していた。世界はかくも美しく、儚いものか。
2010/05/12(水)(福住廉)