artscapeレビュー
福住廉のレビュー/プレビュー
ファッション奇譚──服飾に属する危険な小選集
会期:2010/04/15~2010/06/27
神戸ファッション美術館[兵庫県]
ファッションの本質をオリジナルとコピーの問題に求めた画期的な展覧会。「フセイン・チャラヤン」展にしろ、「ラグジュアリー」展にしろ、ファッションの展覧会といえば、デザイナーによるオリジナルの「作品」に焦点を当てるばかりで、コピーの問題を考えることはほとんどないが、現在のファッションの現況を振り返ってみれば、それが決して無視できる問題ではないことは明らかだ。ハイファッションによる人気のデザインはたちまち模倣され、他のブランドによって格安で提供されることによって大衆が消費するというシステムが社会に定着しているからだ。美術家・岡本光博はこうした社会の現実を反映させた作品としてブランドバッグの生地を使ったように見える《バッタもん》というバッタの立体作品を発表したが、ルイ・ヴィトンからのクレームで展示から外されてしまうという事件が発生した。わざわざ公立美術館の展覧会に介入してくるほど、ラグジュアリーブランドにとってオリジナルとコピーの問題はことほどかように深刻な事態なのだろう。けれども、そのように踏み込んでくることによって、ファッションの今日的な問題を検証しようとした展覧会が踏みにじられたということは事実であり、じっさい《バッタもん》を見ることはできなかった。
ルイ・ヴィトンがいったいどのような考えで、こうした検閲行為に
踏み込んでいるのか、理解に苦しむ。
2010/06/06(日)(福住廉)
レゾナンス 共鳴 人と響き合うアート
会期:2010/04/03~2010/06/20
サントリーミュージアム[天保山][大阪府]
ポール・マッカーシー、デュマス、ライプ、キーファー、ロスコ、ジャネット・カーディフから、小谷元彦、小泉明郎、梅田哲也、伊藤彩、草間彌生まで、古今東西ありとあらゆるアーティストを寄せ集めた展覧会。思わせぶりな展覧会のタイトルは、人と響き合わないアートがはたしてアートといえるのかを考えてみれば、建前以上のことは何も意味していないことがわかる。
2010/06/06(日)(福住廉)
死なないための葬送──荒川修作 初期作品展
会期:2010/04/17~2010/06/27
国立国際美術館[大阪府]
荒川修作が渡米前に夢土画廊と村松画廊で発表した棺桶のような立体作品20点あまりを発表した展覧会。通常棺桶は床に寝かせて用いられているはずだが、今回の展示では壁に立てかけて見せられていた作品が多かった。その方が棺桶の内側に仕込まれたオブジェなどを見せやすいのだろうが、そもそも荒川修作は当初どのように見せていたのかが気になる。
2010/06/06(日)(福住廉)
横山裕一 ネオ漫画の全記録:「わたしは時間を描いている」
会期:2010/04/24~2010/06/20
川崎市市民ミュージアム[神奈川県]
漫画家・横山裕一の大規模な回顧展。腰の高さの台に漫画を並べ、それらを連結してトラック競技場のように一周させるというインスタレーションを見せた。漫画を読み進めていくうちにいつのまにかトラックを一周しているという仕掛けだ。永劫回帰的な時間構造を反映させたのかもしれない。その漫画は、登場人物たちが無言のまま、ただ物語が無目的に進行していく「ネオ漫画」。フキダシのなかの台詞とともに読むことに慣れた目には抵抗が少なくないが、それでもオノマトペが次第に過剰になり、ついには登場人物を後景に隠してしまうほど極端に巨大化するなど、視点を変えれば、おもしろい。漫画という形式への鋭い自覚と脱構築する意欲。そこから生まれる「ネオ漫画」が、漫画に成り代わろうとするのか、あるいはサブ・カテゴリーとして持続していくのか。
2010/06/05(土)(福住廉)
今津景 フラッシュ
会期:2010/05/22~2010/06/19
山本現代[東京都]
2009年のVOCA賞で佳作を受賞した今津景の個展。光のゆらめきが世界全体にまで及んでしまったかのような夢幻的な光景を描く。不安定な動きに満ちた画面は、直接的には大洪水や大火災などのカタストロフィーを連想させるが、同時に悦楽や官能性も強く感じさせるという、不思議な魅力がある絵だ。
2010/06/04(金)(福住廉)