artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

PHOTOGRAPHY NOW!

会期:2014/03/15~2014/04/20

IMA gallery[東京都]

季刊写真雑誌『IMA』を刊行し、日本の現代写真のコレクションにも乗り出しているアマナホールディングスが、六本木に新たなスペースをオープンした。IMA gallery(展示)、IMA books(書籍販売)、IMA cafeが併設され、写真を「見る」「読む」「買う」「飾る」といったさまざまなアプローチを楽しむことができる。そのうちIMA galleryでは、こけら落としとして「PHOTOGRAPHY NOW!」展が開催された。
出品作家はジェイソン・エヴァンズ、シャルロット・デュマ、モーテン・ラング、クリスティーナ・デ・ミデル、インカ・リンダガード&ニクラス・ホルムストローム、ネルホル、西野壮平、エド・パナル、題府基之、ルーク・ステファソン、クレア・ストランド、シェルテンス&アベネスの12名(組)。かなり雑多な取り合わせだが、多くは『IMA』誌上ですでに作品を発表済みの写真家たちだ。ほかに今年度の木村伊兵衛写真賞を受賞したばかりの森栄喜の作品が特別展示されていた。
作家たちの経歴をざっと見ていて気づいたのだが、彼らの多くは美術系の大学などを卒業している。つまり、コンセプトを手際よく作品化する術をきちんと身につけているわけで、そのすっきりとした見栄えのよさは、まさに「ショールーム」という趣のある会場の雰囲気にぴったり見合っている。正直、このような無味無臭で小綺麗なスペースから、何か創造的な営みが育っていくとは思えないのだが、今後の展開をもう少し見守っていきたいと思う。

2014/03/22(土)(飯沢耕太郎)

ex.resist vol.2

会期:2014/03/14~2014/03/23

Galaxy-銀河系[東京都]

resist写真塾は吉永マサユキを塾長に2006年にスタートした。毎回、特別講師の森山大道をはじめとするゲスト講師を迎え、定員20名で作品講評と写真集制作を中心とした授業を行なっている。本展はその修了生によるグループ展で、大谷次郎、奥田敦史、川本健司、竹内弘真、谷本恵、星玄人の6人が参加した。
「時流に乗らず、短期的な結果を追い求めず、技巧手法のごまかしもしない。周りに惑わされることなく、自分がこれと決めた対象に向き合い続ける」という塾の方針をストレートに受けとめた作品群は、気魄と意欲にあふれたものばかりだ。スナップ写真特有の直接的な身体性を、これほど生真面目に追い求めている集団はほかにないのではないだろうか。ただ、スタートから9年経って、8期にわたって修了生を出し続けてくると、そろそろその直球勝負の表現のあり方が、スタイルとして固定しかけているのではないかと思ってしまう。吉永マサユキや森山大道の手法を後追いし続けた結果、彼らの「縮小再生産」になりつつあるのではないかと懸念するのだ。
たとえば、出品者のひとりの星玄人は、東京・新宿のサードディストリクトギャラリーでも発表を重ねている写真家で、本点の出品作である「大阪西成」も、不穏な気配が全面に漂う力作だ。だが、その彼の写真が、ほかの写真家たちの作品と同化し、むしろパワーダウンしているように感じられた。もうそろそろ、resistという枠組そのものを、流動的に解体していく時期にきているのではないだろうか。

2014/03/15(土)(飯沢耕太郎)

ハイレッド・センター:「直接行動」の軌跡展

会期:2014/02/11~2014/03/23

渋谷区立松濤美術館[東京都]

高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之が1963年5月に開催した「第5次ミキサー計画」に際して結成され、公式的には1964年10月の「首都圏清掃整理促進運動」まで継続したアート・パフォーマンス・グループ、ハイレッド・センター(Hi-Red Center、以下HRC)。本展は多くの作品・資料を通じて、その全貌と正体を詳らかにしようとする意欲的な企画である。
ここでは、HRCと写真メディアについてあらためて考えてみることにしよう。彼らの代表作のひとつである帝国ホテルを舞台とした「シェルター計画」(1964年1月)では、来客を前後左右、上下から撮影したり、赤瀬川原平の「模型千円札」では、本物の千円札を写真製版で印刷したりするなど、HRCは積極的に写真を作品に取り込もうとしていた。だが、より重要なのは、彼らのメインの活動というべき「直接行動」(パフォーマンス)が、写真なしでは成り立たなかったということである。ロープを至るところに張り巡らせたり、ビルの屋上からさまざまな物体を落下させたり(「ドロッピング・ショー」1064年10月)、都内各地の舗道などを雑巾で「清掃」したりする彼らの活動は、そもそも一過性のものであり、写真を撮影しておかないかぎりは雲散霧消してしまう。パフォーミング・アートの記録の手段として、写真は大きな意味を持っているが、HRCにおいてはまさに決定的な役割を果たしたと言えるだろう。
その意味では、記録者(写真家)の存在も大きくなるわけで、「ドロッピング・ショー」や「首都圏清掃整理促進運動」を撮影した平田実の写真などは、その写真家としての能力の高さによって、単純な記録を超えた価値を持ち始めていると思う。もしもこれらの写真が存在せず、作品とテキストだけの展示だったとしたなら、HRCの活動の面白さはほとんど伝わらないのではないだろうか。何よりも写真によって、彼らの活動のバックグラウンドとなった1960年代の空気感が、いきいきと伝わってくるのが大きい。

2014/03/15(土)(飯沢耕太郎)

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黒部と槍 冠松次郎と穂苅三寿雄

会期:2014/03/04~2014/05/06

東京都写真美術館 2階展示室[東京都]

筆者は長野県安曇野市の田淵行男記念館が主催する「田淵行男賞」の審査員を務めている。優れた自然写真の作者に与えられるその賞の審査のたびに話題になるのは、「山岳写真にいい作品がない」ということだ。動物や鳥、昆虫などを撮影する「ネイチャー・フォト」の隆盛と比較すると、たしかに山岳写真は応募者も少なく、作品も活気に乏しい。これまでの日本の山岳写真の輝かしい伝統を考えると、やや寂しい気もしないわけではない。山岳写真の題材が撮られ尽くしたということもあるかもしれないが、それ以上に写真家たちの被写体を前にした感動が薄れているのではないかと思う。今回日本の山岳写真のパイオニアと言える冠松次郎(1883~1970)と穂苅三寿雄(1891~1966)の代表作を集成した展示を見て、あらためてそのことを強く感じた。
秘境・黒部渓谷を克明に探索・撮影した冠の写真も、槍沢で山小屋を運営しつつ槍ヶ岳を中心とする北アルプス一帯を撮影し続けた穂苅の写真も、現在とは比較にならないほどの困難な条件で生み出されたものだ。重たい組立暗箱やガラス乾板、三脚などの機材を担ぎ上げるだけでも大変な難業だったはずだ。だからこそ、目の前に初めて見るような荘厳な景観が開けてきたときの歓びと感動もまた、大きかったのではないだろうか。彼らの写真にはそれがはっきりと写り込んでいる。多くの写真に、これも現在とはまったく違う服装や装備の登山者たちの姿が写っているのも面白い。まさに彼らの写真の仕事を「原点」として、新たな山岳写真の方向性を模索するべきではないだろうか。

2014/03/12(水)(飯沢耕太郎)

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没後百年 日本写真の開拓者 下岡蓮杖

会期:2014/03/04~2014/05/06

東京都写真美術館 3階展示室[東京都]

下岡蓮杖(1823~1914)は、日本写真史の草創期を彩る伝説的な人物である。狩野派の絵師から写真師に転身し、1862(文久2)年に横浜・野毛に写真館を開業。長崎の上野彦馬とともに「写真の開祖」として名を馳せる。牛乳販売、乗合馬車の開業、箱館戦争や台湾出兵のパノラマ画の制作など、写真以外の事業にも乗り出し、92歳という長寿を全うして亡くなった。トレードマークの蓮の杖をついた仙人めいた風貌の写真とともに、幕末・明治期の「奇人」として多くのエピソードを残している。
これまでは、ぶあつい「伝説」の影に覆われて、なかなかくっきりとは浮かび上がってこなかった写真師/絵師・下岡蓮杖の実像が、このところの研究の進展によってようやく明らかになりつつある。今回の東京都写真美術館の展覧会は、古写真研究家の森重和雄氏をはじめとする、長年の蓮杖研究の成果が充分に発揮された画期的な催しであり、前期、後記合わせて、代表作・資料280点あまりを見ることができた。
下岡蓮杖の写真はまさに「開拓者」にふさわしい、意欲的な実験精神に溢れているが、まだその表現の可能性を充分に汲み尽くしているとは言い難い。同時代の上野彦馬や横山松三郎と比較しても、やや単調で生硬な画面構成と言える。むしろ彼の役割は、技術的な側面を含めて写真を撮影、プリント、販売するシステムをつくり上げ、後世に伝授することにあったのではないだろうか。それとともに、今回の展示では、これまではあまり取りあげられることがなかった絵師・下岡蓮杖の作品がかなりたくさん集められていた。初期の「阿蘭陀風俗図」(1863年頃)から晩年の「達磨図」や「山水図」まで、どれも達者な筆さばきだが、ここでもある特定のスタイルに収斂していくような個性を感じることはできない。近代的な芸術家としての写真家が出現する以前の、アルチザンと山師とが融合した異色の人物──だが、その天衣無縫な表現意欲は実に魅力的ではある。

2014/03/12(水)(飯沢耕太郎)

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