artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
郵便夫と森の星
会期:2013/05/25~2013/05/26
アトリエ河口[三重県]
三重県阿山郡島ヶ原村(現在は伊賀市と合併)出身の画家・岩名泰岳は、滋賀県での美大生時代や卒業後のドイツ留学を経て、現在は郷土での活動を選択。地元の有志と島ヶ原村民芸術「蜜の木」という団体を立ち上げ、地域から発信する芸術・文化活動を模索している。今回は、岩名の作品と、現在彼が使用するアトリエの元の持ち主で、郵便配達夫兼画家だった河口重雄(故人)の作品が共演する2人展を開催。わずか2日限りの機会だったが、初日に行なわれた岩名と後藤繁雄(クリエイティブ・ディレクター)の対談に約150名もの観客が訪れるなど、大きな反響を巻き起こした。実際に出かけてみると会場のポテンシャルが高く、さまざまな企画に対応できることがわかった。岩名をはじめメンバーの士気も高く、今後の活動がとても楽しみだ。
2013/05/26(日)(小吹隆文)
Gilberto Garcin写真展 Mr.G
会期:2013/05/18~2013/06/30
GALLERY TANTOTEMPO[兵庫県]
64歳で電気技師の仕事を定年退職し、写真作品の制作を始めたGilberto Garcin。その作品はとてもシンプルで、風景や静物、つくり込んだ場面のなかに、自分と妻の姿をコラージュしたものだ。例えば、不安定な桟橋の上を歩く妻と、その橋脚を支える夫、一部が崩れたレンガ積みの自分の肖像の前で途方に暮れる夫妻、といった具合だ。それらはどれもユーモアと機知に富み、時にはマグリット作品にも似たシュールな趣をたたえている。また、作品から漂う手作り感も、デジタル技術全盛のいま、かえって新鮮だった。
2013/05/25(土)(小吹隆文)
伊東宣明“芸術家”
会期:2013/05/21~2013/06/02
Antenna Media[京都府]
かつて就職した企業でスパルタ研修を受けた経験がある伊東が、その記憶をもとにつくった作品を発表した。会場1階には美術史に名を残す巨匠10名が残した金言と、彼らの代表作をトレースした平面作品が並んでいる。そして傍らには、海岸の岩場に立ち金言を絶叫する伊東を捉えた映像作品が。続く2階では、伊東が教官になり、女性アーティストを精神的に追い込みながら先ほどの金言を教え込んでいた。伊東によると、こうした企業研修は外側から見ると異常さが際立つが、実際に体験すると達成感や満足感で得も言われぬ感動に満たされるそうだ。また、人間を型にはめる点では、方法論こそ違えど企業も美術大学も同じだという。制度と人間の関係を問う、非常に考えさせられる作品だった。
2013/05/21(火)(小吹隆文)
プレビュー:國府理 展 未来のいえ
会期:2013/06/22~2013/07/28
西宮市大谷記念美術館[兵庫県]
國府理は、ナンセンスな乗り物や環境問題をテーマにしたメカ型・装置型立体作品で知られる中堅作家だ。昨年発表した作品《水中エンジン》では、自動車のエンジンをプールに沈め、水中で強引に起動させることにより、福島第一原発の事故を想起させる情景をつくり出した。以前から関西では確固たる評価を確立していた彼が、ついに美術館で大規模な個展を開催する。初期から近年の作品が勢揃いする本展で、その魅力を味わってほしい。メカ好き工作少年が紡いだ夢に、SF的テイストとエコロジー思想を散りばめた作品は、美術への理解の有無に関係なく、幅広い層にアピールするはずだ。
2013/05/20(月)(小吹隆文)
プレビュー:Art Shower 2013 ─summer─
海岸通ギャラリー・CASO[大阪府]
会期:2013/06/18~2013/07/07(公開制作)、
2013/07/09~07/21(展覧会)
公開制作と作品展示を一体化したユニークな公募展が、今年も開催される。会場は6つの展示室を有し、小さな美術館並みの展示空間を誇るギャラリー。参加者はその一角を占有し、約3週間の公開制作の後、同じ場所で作品展示を行なう。その目的は、完成品だけでなく制作プロセスまでも可視化することにより、観客とアーティストとギャラリーの新たな関係性・可能性を模索することだ。まだ2回目ということで未整備な部分もあるが、大きな可能性に賭ける主催者の心意気を評価したい。
2013/05/20(月)(小吹隆文)