artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
吉本直子─silent voices─
会期:2013/05/10~2013/05/31
古着のシャツを圧縮し、糊で固めてオブジェ化する吉本直子。作品には無数のシャツが用いられているが、その一つひとつに元の所有者の時間や記憶、痕跡が染みついているわけで、そう考えると少々恐ろしくもある。本展では2フロアで作品を展示。下階では棺のようなオブジェと、本を模し聖書の一説を記した小品が展示され、上階ではレンガ状に加工したピースを壁3面に積み上げたインスタレーションと本の小品を見ることができた。どちらも空気がピンと張りつめた静謐な空間をつくり上げており、作家の力量を改めて体感することができた。
2013/05/11(土)(小吹隆文)
富士篤実「LOST LAST BOY」
会期:2013/05/11~2013/05/19
gallery 10:06[大阪府]
写真専門のギャラリーで画家が個展を行なうとあって、頭のなかに疑問符を浮かべながら本展に出かけた。いざギャラリーに到着すると、そこには普段とは一変した展示室が。4つの壁面は巨大な壁画で埋め尽くされ、その一角には約10点のタブローの小品と、壁画のコンセプトや登場人物の詳細を記したメモ書きが展示されていた。壁画をはじめとする作品は、少年の夢を綴ったファンタジーのような趣で、これまでの彼の作品よりメルヘン性が強い。富士は以前からこのような展示を構想していたが、なかなか会場が見つからず、仕事を通じて知り合ったギャラリーのメンバーから同意を得て実現の運びとなった。夢をかなえたアーティストと、快く場所を提供したギャラリーに拍手を送りたい。
2013/05/11(土)(小吹隆文)
花田恵理 展“Open spaces”
会期:2013/05/07~2013/05/12
KUNST ARZT[京都府]
白地に丸く抜かれた風景が印刷されたDMを見て本展に出かけたら、まったく同じ情景と遭遇した。ギャラリーの壁が3カ所にわたり切り抜かれていたのだ、そのうち2カ所は円形の穴から近隣の風景が見え、1カ所は長方形の穴から壁の向こうに隠されていた床の間の痕跡が窺える。どうやら花田のテーマは、場の本質を明らかにしたり、新たな意味づけを行なうことらしい。それは、パブリックな場所で鬼ごっこする過去作品の映像からも明らかだ。彼女はまだ美大に在学中とのことだが、すでに独自のスタイルを確立しつつある。今後の展開を楽しみに待ちたい。
2013/05/07(火)(小吹隆文)
山添潤 彫刻展
会期:2013/05/07~2013/05/19
Gallery PARC[京都府]
京都府出身で、現在は関東を拠点に活動する山添潤が、2年ぶりに郷里で個展を開催した。彼は石彫やドローイングを発表しているが、その目的は特定の形象を彫り出すことではない。何よりも素材との対話を重視し、プロセスの果てに立ち現われる、本人ですら予期できない「存在」をあぶり出すことが主眼なのである。本展では、彫り進みの段階が異なる6つの石柱を出品。素材との対話のプロセスが伝わるような、いままでにはない展示を見せてくれた。また、ドローイングの点数が多いのも本展の特徴だった。山添によると、ドローイングも「平らな彫刻」とのこと。その感覚は生粋の彫刻家ならではのものだ。
2013/05/07(火)(小吹隆文)
須藤絢乃 個展「Roses are red, Violets are blue, Sugar is sweet,And so are you.」
会期:2013/05/01~2013/05/13
つくるビル 202号室[京都府]
少女マンガの登場人物のように理想化された女性像・男性像を、特異な写真表現として具現化する須藤絢乃。作品にはラインストーンやグリッターの装飾も加味されており、濃厚な美意識を完全なものにしている。彼女はこれまでアートフェアや海外での発表が多く、意外なことに個展はこれが初めて。作品数6点と小規模だったが、地元関西で作品を見る機会をつくってくれたことは感謝したい。須藤の作品は先頃、ジョージ・イーストマン・ハウス国際写真美術館の収蔵が決定した。今後ますますインターナショナルな活躍が予想されるので、その意味でも本展は貴重だった。
2013/05/05(日)(小吹隆文)