artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
游谷 上出惠悟
会期:2013/04/08~2013/05/05
Yoshimi Arts[大阪府]
130年以上の歴史がある九谷焼の窯元の六代目であり、個人でも活動している上出惠悟。その作品は、九谷焼の伝統に現代の感性を融合させたものだ。彼はディレクター的立場で制作を行なっており、実制作は主に工房の職人が行なっている。ただし、本人が絵付けをした作品もあるので、臨機応変な制作スタイルと考えるべきだろう。本展では、皿、茶碗、盃、蓋物、壺など20点以上が出品された。映画のカメラワークのように一連のシークエンスを描いた長皿の連作、高蒔絵のように盛り上がった金色の梅文様で埋め尽くされた髑髏の菓子壺、金継で富士の模様を描いた花詰の大皿……。どの作品にも遊び心に満ちた歴史と現代の対話が感じられるのが興味深い。シミュレーショニズムのようにすかした態度ではなく、ごく自然に過去を参照できるのがこの人の強みだ。
2013/04/08(月)(小吹隆文)
Three Phase Session─Draw/Sound/View
会期:2013/04/06
ギャラリーノマル[大阪府]
音楽ユニットの.es(ドットエス)が即興演奏するなか、美術家の名和晃平がライブドローイングを行ない、その模様を美術家の稲垣元則がハンドカメラで映像化した。名和は素材の扱いに一癖ある作家だが、この日も絵の具にシェービングクリームや洗剤らしきものを混ぜたメレンゲ状の画材を駆使しており、その工程をオープンにしたことで観客の興味をそそっていた。.esは計4時間以上にわたる長丁場をだれることなく演奏し続け、稲垣はビジュアルとサウンドの融合を現場で行なうことに成功していた。音楽とライブペインティングの組み合わせは珍しくないが、このイベントは、ペインターが名和晃平だったことと、映像作品というもうひとつの要素を加えたことでオリジナリティーを創出したと言えよう。
2013/04/06(土)(小吹隆文)
棚田康司「たちのぼる。」展
会期:2013/04/06~2013/05/26
伊丹市立美術館、旧岡田家住宅・酒蔵[兵庫県]
棚田康司は兵庫県明石市出身だが、大学進学以後関東を拠点に活動しており、本展は彼にとって初の地元個展である。大学時代から最新作までの彫刻約50点とドローイングが出品されており、これまで彼の作品を見る機会が少なかった関西の美術ファンを喜ばせている。棚田の作品は伝統的な一木造の木彫であり、華奢な胴体と細長い手足の人物が、よろめくようなポーズと上目使いで立ち上がろうとしている。印刷物や画像ではエキセントリックな印象が強かったが、実物を見ると強い意志がみなぎっていることに驚かされた。やはり実物を見ないことには何も始まらない。また、美術館に隣接する江戸時代の商家と酒蔵でも展示が行なわれており、ホワイトキューブ空間とは違う鑑賞体験ができるのも本展の魅力である。彼の最新作《たちのぼる》(2点組)では、東日本大震災で被災した仙台市の高校生と、阪神淡路大震災の年に生まれた明石市の高校生が制作に参加している。本作が2点セットで初披露されたのも意義深いことであった。
2013/04/06(土)(小吹隆文)
戦ったあとの美術─1950年代を中心に─
会期:2013/03/16~2013/03/31
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
日本の美術の歩みを京都市立芸術大学同窓会員の作品でたどるシリーズ企画の第3弾。終戦から1960年までの流れを19作家の作品で振り返った。残念ながら筆者が知る作家は少なかったが、それでも、柳原良平や林剛の初期作品を見ることができたのは収穫だった。また、戦中戦後の一時期に見られるセメント彫刻が2点展示されていたのも目を引いた。このような活動は本来なら美術館が行なうべきものだ。しかし、近年の美術館にそれを望むのは難しい。その意味で本展は、一美術大学の資料と但し書きはつくものの、高く評価されるべきであろう。同シリーズは今後、1960年代、70年代と続編があるらしい。その開催がいまから楽しみだ。
2013/03/26(火)(小吹隆文)
超・大河原邦男 展 レジェンド・オブ・メカデザイン
会期:2013/03/23~2013/05/19
兵庫県立美術館[兵庫県]
ファースト・ガンダム世代にもかかわらず、ガンダムをあまり知らない筆者にとって、アニメ界における大河原邦男のステイタスなど知る由もなかった。しかし、本展を見て自分の無知を恥じた。「機動戦士ガンダム」はもちろん、「科学忍者隊ガッチャマン」や「タイムボカン」シリーズも彼の仕事だったとは。何よりも「メカニカルデザイン」という新たな職種を一代でつくり上げた事実がすごい。本展ではそんな彼の業績を、設定資料やポスター原画など約400点で紹介。アニメだからと言ってオタク仕様やエンタテインメント寄りにせず、あくまで美術館の流儀を貫くことで大河原へのリスペクトを示したのは正解だった。展示以外では、図録の出来が素晴らしかった。将来コレクターズアイテムとして高値が付くのではなかろうか。
2013/03/22(金)(小吹隆文)