artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
モホイ=ナジ/イン・モーション
会期:2011/07/20~2011/09/04
京都国立近代美術館[京都府]
モホイ=ナジといえば、バウハウスの教師であり、写真やコラージュの作品が有名。その程度の認識しかなかった私にとって、本展は今までの認識を一新させてくれる目の覚めるような企画だった。彼はその流浪の生涯のなかで、写真はもとより、絵画、彫刻、グラフィック・デザイン、映画、舞台美術と、まさに八面六臂の大活躍。元祖マルチアーティストというだけでなく、コミュニケーションを重視するという点で現代アートの先駆者とも呼べる人物だったのだ。もしモホイ=ナジが現代に生きていたら、デジタル機器を用いてどんな表現を見せてくれただろうか。また、モダニストだった彼には、ポストモダン以降の世界がどう映ったのだろうか。作品を見ながらそんな夢想がどんどん広がっていった。
2011/07/19(火)(小吹隆文)
あたらしいビョーキ いくしゅん・林圭介 二人展
会期:2011/07/01~2011/07/31
Gallery OUT of PLACE[奈良県]
写真家のいくしゅんと画家の林圭介。2人は共に奈良県在住で、年齢も30歳前後と同世代だ。いくしゅんは、過去約5年間に撮りためたスナップ写真を編集して、壁面にランダムに直貼りした。人、風景、動物など主題はさまざまだが、そのどれもが絶妙な瞬間を捉えており、写真家として不可欠な眼と運を持ち合わせていることがわかる。林の作品は、ブラックでグロテスクな情景を青一色で描いたユニークなものだった。
2011/07/17(日)(小吹隆文)
美術の中のかたち─手でみる造形 桝本佳子 展 やきもの変化
会期:2011/07/16~2011/11/06
兵庫県立美術館[兵庫県]
美術品に手を触れられる、兵庫県立美術館恒例の小企画展。今年は陶芸作家の桝本佳子をフィーチャーした。桝本は、陶芸界で行なわれている「写し」(過去作品のコピー)に着目し、兵庫陶芸美術館所蔵の古陶(それ自体も「写し」)をモデルに「写し」を制作、そこからさらに着想を広げて新作を作成し、「写し」が繰り返されることでフォルムや装飾が元々の意味を失っていく過程を明らかにした。陶器は本来が実用品であり、触れて使用するものなので、この企画には馴染みが良い。割れる危険を承知で出品を快諾した桝本には拍手を送りたい。また、彼女の過去の作品にも「写し」が重要な要素として織り込まれていた事実に、今回改めて気付かされた。
2011/07/16(土)(小吹隆文)
嶋田康佑 展
会期:2011/07/09~2011/07/17
楽空間 祇をん小西[京都府]
段ボールの芯や建材などで用いられるペーパーハニカムを素材にした、オリジナルのプロダクトデザインを出品。それらは、普段はコンパクトに折りたたまれているが、両端を磁石でつなげば変幻自在にフォルムが変わり、テーブル、座布団、植木鉢カバー、間仕切りなど、幅広い用途に対応する。強度は十分で外見も美しいので、十分に実用可能ではないかと感じた。また、大学院時代に発表した、同様の手法による移動式茶室も展示されており、こちらも秀逸であった。
2011/07/12(火)(小吹隆文)
西村陽平 展「時間と記憶」
会期:2011/07/11~2011/07/30
GALLERY ZERO[大阪府]
平面作品数点と小立体による小規模な個展だったが、大作1点がとてもユニークだった。それは、中国の古書を解体して大きな1枚の平面につなぎ合わせ、前の持ち主が引いたアンダーラインのみを残して白く塗りつぶしたもの。とにかく線の引き方が尋常ではなく、線だけを抽出すると構成主義絵画のような画面ができあがる。主体的行為をほとんど行なわずに作品を作り上げてしまう作家の手腕に感心した。
2011/07/11(月)(小吹隆文)