artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

村山秀紀─異国浪漫にあそぶII

会期:2011/05/17~2011/05/29

ART SPACE 感[京都府]

表具師の村山は、伝統的な仕事だけでなく、現代アートとのコラボレーションや現代生活にマッチした表装の提案を積極的に行なっている。今回は、19世紀英国でつくられた手刺繍の栞や古書の挿絵を掛軸にしたり、アンティークのタイルを風炉先屏風と組み合わせて展示した。手刺繍に合わせて通常の掛軸では用いられない布地を組み合わせた掛軸は、無国籍なメルヘン感覚に溢れており、特に女性の指示を集めそう。風炉先屏風はモダンな仕上がりで、これならマンションの洋間にもしっくりと馴染んでくれそうだ。また、ウィリアム王子とキャサリン妃のご結婚にちなんでつくられた若き日の英国女王エリザベス2世の掛軸は、表層でユニオンジャックを表わしたり、床に女王の写真が載った『タイムズ』紙を添えるなど、思わずニンマリする仕掛けが満載だった。

2011/05/17(火)(小吹隆文)

吉田重信「臨在の海」

会期:2011/05/10~2011/05/22

立体ギャラリー射手座[京都府]

吉田重信は光をテーマにした作品で知られる作家だが、近年は大量の子どもの靴と暗闇と赤色の照明を用いて、ジェノサイドや児童虐待問題を想起させるインスタレーションを発表している。本展でも、約1,000もの白菊を暗闇の中に配置し、一隅を赤色の照明で照らすインスタレーションを発表。死と再生を同時に想起させる重厚な表現を展開した。会場の立体ギャラリー射手座は本展をもって42年の歴史に終止符を打つので、その手向けの意味合いもあるのだろう。また、吉田は福島県いわき市在住で、東日本大震災では市内沿岸部が甚大な津波の被害を被った。そして、現在も続く福島第一原発の事故は誰もが知るところである。本展の作品は震災前から準備していたものだが、その性格上、被災者へのレクイエムと取ることもできる。実際、画廊の床にはいわき市の海岸で採取した砂が敷き詰められており、画廊の外に向かって歩む子どもの靴が付け加えられたことにより、その意味合いが一層強調されていた。

2011/05/10(火)(小吹隆文)

臨生のアート 精神病院内での芸術活動:1968-2011

会期:2011/05/10~2011/05/19

Galerie Aube(ギャルリ・オーブ)[京都府]

美術家の安彦講平が約40年間にわたり精神病院で続けてきた〈造形教室〉から生み出された作品を展覧。驚いたのは、作品の多くが典型的なアール・ブリュット風ではなかったことだ。事前説明なしに出合ったら精神病の人が制作したとは思わなかったかも。どのようなメソッドが用いられたのかは分からなかったが、自分自身がステレオタイプなアール・ブリュット観に侵されていたことを自覚した。

2011/05/10(火)(小吹隆文)

イェンス・ブラント展「BRAND G-PLAYER4」

会期:2011/05/07~2011/05/28

CAS[大阪府]

現在、大気圏上を周回する人工衛星は約1,200もあるそうだ。そのどれかをランダムにキャッチし、人工衛星をレコード針に、地表をレコード盤の溝に見立てて、地球の音をサウンドアートとして提示したのが、イェンス・ブラントの作品《BRAND G-PLAYER 4》だ。作品は2種類あり、ひとつは既成のオーディオを流用した外観で、もうひとつはスマートフォンのアプリケーション仕立てとなっている。また、リアリティを追究して商品カタログを製作するなど、芸の細かさにも感心した。スケールの大きさと、ディテールへのこだわり、その両方が高い水準で両立した個展だった。

2011/05/09(月)(小吹隆文)

佐藤貢 展

会期:2011/04/27~2011/05/15

iTohen[大阪府]

和歌山の海岸で拾った漂流物を用いて、詩的なジャンクアートを制作していた佐藤。その後、名古屋に居を移し、昨年に開催した個展では環境の変化もあってか、ドローイングを発表して観客を驚かせた。次はどんな世界を見せてくれるのか、興味津々で待っていたのだが、彼の返答は再びジャンクを用いたオブジェを制作することだった。以前とは環境が違うため素材には変化があり、ガラスやメモ片を多用しているが、作品から醸し出される空気感は以前と変わらない。私自身はこの作風の方が彼らしく思えた。一方で、ドローイングの展開が気になるのも確か。別の機会に新作のドローイングも見たいものだ。

2011/05/05(木)(小吹隆文)