artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

林勇気 展 あること being/something

会期:2011/02/18~2011/03/19

兵庫県立美術館[兵庫県]

兵庫県立美術館が、注目作家の紹介を目的に新たに始めた企画展「チャンネル」。その第1弾として、林勇気の個展が行なわれている。出品作品は、新作《あること》と、旧作5点。見どころはやはり新作で、天地6メートル以上、左右10メートル以上の大スクリーンに投影される映像大作となった。本作の特徴は、作中に登場する人物や素材の一般公募が行なわれたこと。延べ121人から集められたスチール画像は林の手で編集され、巨大スクリーン上で浮遊しながらゆっくりと上昇して行く。画面を見つめていると、まるで自分が世界そのものと対峙しているような気持ちになった。本作は、デジタル技術の進化により従来とは異なる質と形態でコミュニティーが構築されるようになった今日の世界観をビジュアライズしたものかもしれない。豊かな才能を持つ作家に活躍の場を与えるという美術館の狙いは、1回目から見事に的中した。

2011/02/18(金)(小吹隆文)

池田高広 展─Wonderful Choco─

会期:2011/02/14~2011/02/19

番画廊[大阪府]

ココアパウダーやチョコレートをインクに溶かして、特異な版画作品を制作している池田高広。今回は版画だけでなく、絵画や陶芸にも挑戦し、その方法論をより進化させていた。特に絵画の出来は良く、とても初出品とは思えないほど。作品の特徴を考慮すれば異業種とのコラボレーションも不可能ではなく、制作ジャンルを拡張したことも相まって、今後の展開に期待が持てる。

2011/02/14(月)(小吹隆文)

京都オープンスタジオ桂

会期:2011/02/11~2011/02/13

桂スタジオ、うんとこスタジオ[京都府]

昨年は京都市内の8カ所で同時開催され、大きな話題をさらった「京都オープンスタジオ」。だが、今年は2会場に縮小した。やはり、大人数が同レベルのモチベーションを保ち続けるのは難しいということか。かといって、誰かが強力に仕切るとイベント本来の自主制作的な持ち味が損なわれる訳で、あくまでも作家たちに任せるしかないのが難しい所だ。逆に言うと、今年開催した2会場は本気ということ。特に桂スタジオの展示は力が入っていて好感を覚えた。今後オープンスタジオの流行ががどう推移するのか不明だが、こちらとしては徐々に賛同者が増加することを期待する。今年は桂以外の場所で同時期にオープンスタジオを行なった作家が2組いた。潜在的賛同者は決して少なくないはずだ。

2011/02/12(土)(小吹隆文)

横山裕一 展

hitoto[大阪府]

会期:2011/02/01~2011/02/14・19・20・26・27

イラスト、挿絵、漫画などで活躍する横山裕一のことは一応知っていたが、あくまで漫画をチラ見する程度。また、当方は関西在住なので先日終了した川崎市民ミュージアムでの個展やその評判も詳しく知らなかった。そんな状態で横山が大阪で個展を行なっていることを知り、とにかく実物を見ようと出かけた次第。展示していたのは、主に顔を描いたドローイング30数点だった。その特異なセンスは確かに窺い知れたが、私としては彩色したペインタリーな作品よりも、線だけで構成された作品に興味がある。もし次回があるなら、線画中心のセレクトをお願いしたい。

2011/02/08(火)(小吹隆文)

チャンキー松本 おいてけぼりの町

会期:2011/02/07~2011/02/20

ギャラリー月夜と少年[大阪府]

彼が近年精力的に取り組んできた貼り絵のシリーズを中心に、ドローイング作品も併せて出品。貼り絵は手でラフに裂いた紙を貼り付けたもので、水平線を強調した風景画が多い。絵柄は作者の心象を反映しており、メランコリックな風合いが持ち味だ。また、作品は1点ずつポートフォリオ仕立てになっており、観客は作品を手に取り、一対一で向き合うことになる。それはまるで作家の独白を聞いているような感覚で、額装された作品を見るのとは全然違う濃密な体験だった。この展示方法こそが本展のキモである。

2011/02/07(月)(小吹隆文)