artscapeレビュー

カン・アイラン 鏡─ユートピアとヘテロトピアの間

2009年06月01日号

会期:2009/05/01~2009/05/31

eN arts[京都府]

カン・アイランの作品といえば、書籍の形をした発光するオブジェ。半透明のプラスティック製ボディの中にLEDが仕込まれたものだが、技術の発展につれて作品の説得力が増していることを本展で実感した。なかには文章が表示される作品もあり、一瞬ジェニー・ホルツァーを連想したのだが、カンの場合は書籍の文章をそのまま表示しているのだった。これは、男尊女卑の気風が今なお残る韓国にあって、知性を得る手段であり、自身の内面を鍛えて自立するためのツールだった書籍に対するオマージュなのだとか。ただ、技術面の進化により発色が著しく向上しており、テキスト以上に色彩が主張しているようにも感じられた。かつて作曲家のスクリヤビンが音楽と色彩の融合を目指したように、彼女の作品も色彩による神秘主義的な表現が見込めるのかもしれない(本人がそれを望むかは不明だが)。

2009/05/02(土)(小吹隆文)

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