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小吹隆文のレビュー/プレビュー

フォトフォビア アピチャッポン・ウィーラセタクン個展

会期:2014/06/14~2014/07/27

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

タイを拠点に活動する美術家で映画監督のアピチャッポン・ウィーラセタクン。彼の、映像、写真、絵画など約40点が展示された。主たる出品作品は映像で、日記的な小品から上映時間約20分の大作まで、さまざまな作品が見られる。多くの作品に共通するのは、彼が住むタイ東北部の風土、習俗、伝承をベースにしていることと、論理的なストーリー展開を半ば意図的に無視していること、現実の社会問題を想起させるイメージも挟み込まれるが、決してジャーナリスティックではないこと、などである。つまり、現実と夢の境界を写し出したかのような映像世界であり、その流れに身を浸すような鑑賞態度が求められるということだ。筆者のお気に入りは《ASHES.》という上映時間約21分の長尺作品。作品を見るうちに一種の喪失感に包まれ、深い感慨を覚えた。

2014/06/17(火)(小吹隆文)

国際現代アート展なら2014:後期特別展 美の最前線・現代アートなら~素材と知の魔術(マジック)~

会期:2014/06/14~2014/07/21

奈良県立美術館[奈良県]

滅多に現代美術を扱わない奈良県立美術館が、今年はすでに2度も現代美術展を行なっている。その第1弾は、CCGA所蔵の版画の名品を紹介した「アメリカ現代美術の巨匠達」(4月~5月)であり、第2弾で、奈良とゆかりのある現代美術作家7名(ふじい忠一、竹股桂、森口ゆたか、絹谷幸太、三瀬夏之介、菊池孝、下谷千尋)を紹介するのが本展である。会場は一人あたりの展示面積が広く設定されており、どの作家も力の入った展示を見せてくれた。特に三瀬夏之介と下谷千尋の展示は迫力があった。ふじい忠一の巨木を捻じ曲げた立体も観客を驚かせたのではないか。また、菊池孝は過去の作風とは異なる展開を見せており、興味深く鑑賞した(私が久々に彼の作品を見たせいかもしれないが)。同館が現代美術に積極的になった背景には、全国各地で隆盛する地域型アートイベントが影響しているのかもしれない。1、2度の実績で性急に判断するのではなく、長期的な視点で現代美術展を継続してほしい。

2014/06/14(土)(小吹隆文)

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東京 ソウル 台北 長春 官展にみる近代美術

会期:2014/06/14~2014/07/21

兵庫県立美術館[兵庫県]

第二次世界大戦前の日本と、当時日本が統治していた朝鮮、台湾、旧満州で行なわれていた官展の出品作を通して、20世紀前半の東アジアの美術状況を考える展覧会。各地域の官展出品作や、審査員を務めた作家の作品約130点が出品された。企画にあたっては日本だけでなく、韓国、台湾の研究者・学芸員も共同参加している。4つの地域のうち旧満州の作品は少なかったが、その背景には、同地域の歴史的経緯、研究者の不在、現在の日中関係が影響している。作品を見ると、民族衣装や地域特有の風土を強調した作品が少なくない。その背景には、審査員(=日本人)がエキゾチックな表現を求めたという側面もあるようだ。図録を見ると、綿密な調査が行なわれたことがわかり、本展が労作であったことがわかる。このような企画は、四半世紀ほど前なら「反動的」の一言で葬り去られていたのではなかろうか。そう考えると、本展の実現は画期的な出来事と言えるだろう。戦前の官展作品以外にも、歴史的経緯や政治状況により客観的な評価が阻まれている作品があるかもしれない。今後、そうした作品にもスポットライトが当たることを望む。

2014/06/14(土)(小吹隆文)

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瀧本晋作 展「崖・Yellow cliff」

会期:2014/06/10~2014/06/18

LADS GALLERY[大阪府]

プラスチック製ダンボールを積層し、熱線ワイヤーでカットした立体作品を制作する瀧本晋作。彼はこれまでは具象的なモチーフを選んできたが、本展では巨大な崖を思わせる大作や立方体など、抽象度の高い新作を発表した。崖にせよ立方体にせよ、新作の魅力は巨大さゆえの量塊性と、素材特有の軽やかさが同居していることだ。また、作品表面に刻まれたザクザクとした切断面も見所のひとつである。作家自身、この新たな方向性にはまだ迷いがあるようだが、はっきり言って、過去作よりも今回の新作の方が遥かに面白い。当分この方向性で制作を進めるべきだ。

2014/06/11(水)(小吹隆文)

杉浦康益 展「陶の博物誌─自然をつくる」

会期:2014/06/07~2014/08/03

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

石や岩を写し取ったかのような《陶の石》と《陶の岩》、大規模なインスタレーションである《陶の木立》、花や実を詳細に描写した《陶の博物誌》などの陶製オブジェ作品で知られる杉浦康益の個展。筆者は彼の作品を見た経験が少なく、《陶の博物誌》以前の仕事を見られたのが収穫だった。《陶の岩》は、まるで本物かと思うほどリアルだったが、陶以外でも可能な表現ではなかろうか。一方、《陶の木立》は、大規模なインスタレーションでありながら、ディテールを見ると陶ならではの質感が感じられた。そして、本展で最も見応えを感じたのは《陶の博物誌》であった。花や実を徹底的に観察し、その内部構造まで精緻に再現した本作は、陶である必然性云々を超え、作家の執念すら感じられるほどだった。

2014/06/10(火)(小吹隆文)

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