artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

橋本満智子 展「孕む青」

会期:2014/09/12~2014/09/20

艸居[京都府]

白い素地と青のコントラストが印象的な陶芸作品。花をモチーフにしたオブジェと、花入などの器を出品していた。前者は蕾から開花までの花の状態を手びねりで表現しており、大胆さ、豪快さ、力強さを感じる造形と、胴体の窪んだ部分に見られる青の釉薬が鮮烈であった。一方器は、粘土の小さな塊を積み上げて成形しており、表面には石垣のような模様が残っている。その模様部分に青の釉薬が広がっているのだが、オブジェとは対照的にきわめて繊細な表情を見せており、筆者自身はオブジェ以上に魅力を感じた。

2014/09/16(火)(小吹隆文)

いくしゅん「愛。ただ愛」

会期:2014/09/14~2014/09/28

FUKUGAN GALLERY[大阪府]

マンホールの蓋の小さな穴からはい出ようとするネズミ、うんと背伸びしてガラス窓の向こうを覗いているカエル、子どもたちの奇妙なポーズ、普通の人々が醸し出す強烈な違和感……、いくしゅんの写真にはスナップショットの魅力が詰まっている。しかも画面からにじみ出るのは、シリアスな批評的視線というより、愛情のこもった微笑みである。奇跡的な一瞬を切り取った写真を見たとき、われわれは写真家の類まれなるセンスに驚愕する。しかし、いくしゅんの場合は、むしろ奇跡の方から彼に近づいてきたかのようだ。また、連続する複数のショットを3コマ、4コマと並べてショートストーリーをつくり上げる作品が幾つかあり、その手法にも彼ならではのものがあった。

2014/09/15(月)(小吹隆文)

六甲ミーツ・アート 芸術散歩2014

会期:2014/09/13~2014/11/24

六甲ガーデンテラス、自然体感展望台六甲枝垂れ、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲山ホテル、六甲ケーブル、天覧台、六甲有馬ロープウェー(六甲山頂駅)[兵庫県]

六甲山上のさまざまな施設にアート作品を配置し、ピクニック感覚で山上を周遊しながら作品を体験することで、アートと六甲山双方の魅力を再発見できるイベント。今年で5回目を迎えることもあり、もはや円熟味すら感じさせる盤石の仕上がりになっていた。ただし、円熟味=予定調和ではない。たとえば、バス1台をサウンドシステムに変換させた宇治野宗輝、鉄人マラソンを控えてトレーニング兼パフォーマンスを行なった若木くるみ、会期中ずっと被り物スタイルで作品制作を続ける三宅信太郎など、こうした場でなければ出会えないタイプの作品が多数ラインアップされており、現代美術の尖端性もフォローされているのだ。昨今は地域型アートイベントが全国的に乱立し、アートが地域振興のツールに堕しているとの批判もあるが、「六甲ミーツ・アート」は双方のバランスを上手に保っていると思う。昨年は台風の影響でケーブルカーが長期間不通になるアクシデントがあったが、今年は天候に恵まれて滞りない運営が行なわれるよう期待している。また、今年は「ザ・シアター」と題したパフォーマンス系プログラムが多数予定されている。それらの反応も気になるところだ。

2014/09/12(金)(小吹隆文)

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平成知新館オープン記念展 京へのいざない

会期:2014/09/13~2014/11/16

京都国立博物館 平成知新館[京都府]

長らく完成が待たれていた京都国立博物館の新たな平常展示館、「平成知新館」がついにオープン。開館記念展として、1階から3階までの13展示室すべてを使用した大規模展が開催されている。その内容は、古代から近世までの美術工芸品を通して京文化の粋を見せるといった趣で、ジャンルは、陶磁、考古、絵画、彫刻、書跡、染織、金工、漆工など。出品点数は前後期合わせて400点以上、うち、国宝が62点、重文が130点という豪華さである。展示室は、スポットライト以外は照明を控えており、黒を基調としたシックな装いだ。谷口吉生建築のなかでも、東京国立博物館法隆寺宝物館と共通性が感じられる。展示スタイルは、以前が旧態依然とした標本展示だったのに対し、平成知新館では考古品であっても1点1点を美術品のように見せており、大幅にグレードアップしている。展示内容に建築の魅力が加わって、本展は今秋の関西で最注目の展覧会となるであろう。

2014/09/10(水)(小吹隆文)

ただいま。カーネーションと現代美術。

会期:2014/09/03~2014/09/10

岸和田市立自泉会館 展示室[大阪府]

岸和田城に隣接する瀟洒な近代建築を舞台に、岸和田市とその周辺の出身または在住作家である、稲垣智子、大﨑のぶゆき、永井英男、西武アキラ、吉村萬壱、ワウドキュメントがグループ展を開催した。稲垣と大崎は映像インスタレーション、永井は彫刻、西武は絵画、吉村は小説家である自分の仕事場を再現したかのようなオブジェ、ワウドキュメントは一軒家を移動させるプロジェクトの記録映像を出品。規模こそ大きくないが、それぞれの持ち味がよく出た気持ちのよい展覧会に仕上がっていた。なお、筆者が訪れた日は、有名なだんじり祭りを前にだんじりの試験引きが行なわれており、街中が早くもヒートアップしていた。美術展と祝祭を一度に味わえ、2倍得した気持ちであった。岸和田といえばだんじり祭りが有名だが、同時に岸和田は歴史のある城下町であり、市内の至る所に古い和洋の建築物が残る文化的な土地柄でもある。そうした岸和田のもうひとつの顔を対外的に認知してもらうためにも、本展のようなイベントは有効だ。地元民と行政がそのことに気付いてくれれば、本展は大成功と言えるのだが……。

2014/09/07(日)(小吹隆文)