artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

ベ サンスン展「Over & Over」

会期:2014/07/05~2014/07/26

イムラアートギャラリー京都[京都府]

漆黒のベルベット地に面相筆で白い線を無数に描き重ねた絵画作品。その画面では、描かれた白い部分よりも余白の黒に目が行き、視線が無限に吸い込まれていくような視覚体験を味わえる。特に壁一面を覆う大作はその効果が顕著で、隣接する壁面に掛けられた小品群との対比も鮮やかであった。彼女が京都で個展を行なうのは約5年ぶりのこと。その間に作風が変化し、私生活でも子を授かるという大きな節目があったが、彼女のバイタリティはまったく衰えていないようだ。本人とも久々に再会し、作品について直接話を聞けたのも収穫だった。

2014/07/09(水)(小吹隆文)

今井祝雄─Retrospective─影像と映像

会期:2014/07/08~2014/08/02

ARTCOURT Gallery[大阪府]

今井祝雄が具体美術協会時代の白い造形から映像表現に軸足を移した、1970年代の仕事を中心に展覧。作品は、21点組の写真作品《ポートレイト 0~20歳》、1979年に始まり現在も継続しているポラロイド写真の自写像《デイリー・ポートレイト》、テレビの放映で使用されなかったフィルムを素材にした映像&インスタレーション《ジョインテッド・フィルム》(画像)など12点。《デイリー・ポートレイト》が名作なのは言うまでもないが、他の作品にも1970年代の問題意識が濃密に立ち込めており、それを21世紀のいま追体験できることが嬉しかった。こんな機会は滅多にないので、20代・30代の若手作家がひとりでも多く本展を見ておいてくれればよいのだけど。

2014/07/08(火)(小吹隆文)

藤原敦 写真展 南国頌─幻影への旅─ 同時開催:蝶の見た夢

会期:2014/06/28~2014/08/03

GALLERY TANTOTEMPO[兵庫県]

2008年に写真雑誌『ASPHALT』を創刊し、若手写真家に発表の機会を与えてきた藤原敦。その仕事を終えた彼が、「南国頌」と「蝶の見た夢」という2つのシリーズを携えて、神戸で個展を行なった。「南国頌」は、教師で歌人だった祖父の痕跡をたどって、鹿児島や沖縄を旅した際に撮影したもの。展覧会タイトルは祖父の歌集からの引用だ。一方「蝶の見た夢」は、宮古島出身のひとりの女性の、地元と都会での生活を写し出している。2つの作品に共通するのは、モンスーン気候的とでもいうべきムッとした湿度を帯びていることだ。精神の奥底に沈殿するドロッとした部分に触れられた気がして、不快さを伴いつつも目を反らすことができない。平成の日本が失った情念と重さを思い出させてくれる個展であった。

2014/07/05(土)(小吹隆文)

西村一成 絵画展 幻たちのブルース

会期:2014/06/28~2014/07/20

ギャルリー宮脇[京都府]

西村一成は独学の画家で、2000年頃から自身の欲求の赴くままに制作を続けてきた。作品の特徴は思い切りのいい筆致と斬新な色使いで、モチーフは人物、風景、想像の世界など実にさまざま。何よりもよいのは、どの作品も見る者の喉元にぐっと踏み込んでくるようなパワーを持っていることだ。本展では新作40点が出品され、西村の多様な作品世界を知ることができた。彼は統一的なテーマやコンセプトを持たないが、それが作品の価値を下げることにはならない。表現することの根本について、改めて考えさせられた。

2014/07/01(火)(小吹隆文)

長尾恵那 展 みどりいろのかたまり

会期:2014/06/21~2014/07/13

ギャラリーあしやシューレ[兵庫県]

長尾恵那の木彫作品といえば、つぶらな瞳でこちらを見つめる人物像が思い浮かぶ。特に少年をモチーフにした作品は秀逸で、その健康優良児的な存在感には有無を言わせぬ魅力が感じられた。ところが本展では作風を一転、民家の生け垣など植物をモチーフにした作品ばかりが並んでいた。出品作品には大作と小品があり、後者は一目でモチーフがわかるものの、前者は緑の巨大な球体や長方形で、抽象彫刻のようであった(画像)。彼女は実力のある作家なので、この新展開でも一定レベル以上の仕事を残すであろう。しかし、人物像を手放そうとしているのであれば、それはあまりにも勿体ない。できれば今後も、あの魅力的な少年たちと再会したいのだが……。

2014/06/27(金)(小吹隆文)