artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
デュフィ展
会期:2014/08/05~2014/09/28
あべのハルカス美術館[大阪府]
競馬場、カジノ、音楽会、パーティー……、20世紀前半のパリや南仏ニースでのブルジョワ・ライフを、軽快な線と鮮やかな色彩で描いたのがラウル・デュフィだ。本展では彼の代表的油彩画だけでなく、テキスタイル、版画、家具、陶芸といった幅広いジャンルの仕事を展示しており、デュフィが独自の画風を構築する過程で何から影響を受けたのかを明らかにしていた。また、ペン画も多数出品されており、彼の線描の魅力を堪能できたのも収穫だった。デュフィが描いた華やかな世界といまの自分のしょぼい生活は正反対だが、人生を謳歌し肯定する彼の姿勢は見習いたいと思う。
2014/08/04(月)(小吹隆文)
ART SHOWER 2014─SUMMER─
会期:2014/07/29~2014/08/17(公開制作)、2014/08/19~2014/08/31(展覧会)
海岸通ギャラリー・CASO[大阪府]
3週間の公開制作と2週間の展覧会からなる公募展。今回は5名の美術家(乾美佳、齊藤華奈子、水城まどか、安里知陽、吉田達彦)と1名の服飾クリエーター(gwai.)が参加し、招待作家としてスコットランドからメリッサ・ロージー・ローソンが来日した。海岸通ギャラリー・CASOで公開制作することのメリットは、バスケットボールやテニスができるほどの広大なスペースをひとりで使用できることだが、乾、gwai.、齊藤、水城はその特性を活かしてインスタレーション、服飾、立体の大作を制作。その結果、今回の「ART SHOWER」はこれまでで最もダイナミックな展示となった。特にgwai.が制作した超巨大なジーンズは、東京のお台場に立つ某有名キャラクター(全長18メートル)が着用することを前提にした破天荒なもので、本展終了後もプロジェクト化して実現を目指してほしいと思う。
2014/08/02(土)(小吹隆文)
ヨコハマトリエンナーレ2014 華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある
会期:2014/08/01~2014/11/03
横浜美術館、新港ピア[神奈川県]
美術家の森村泰昌がアーティスティック・ディレクターを務めた今回のヨコトリは、その長文の副題だけでなく、作家と作品のセレクトにも大きな特徴があった。ひとつは屋内の展示にほぼ特化したことであり、もうひとつは物故作家も含めたさまざまな時代・世代・傾向の作品を揃えたことである。一見して思ったのは、昨今大流行している地域型アートイベントに見られる、アートを町興しのツールとして扱う風潮、あるいはアートを消費物のように扱う風潮へのアンチテーゼである。しかし、現状批判にばかりとらわれると、森村が掲げたテーマ「忘却」を見失うことになる。森村は、いまの美術界(あるいは世の中)で忘れられがちな、しかし決して忘れてはいけない問題意識を持った作品を取り上げ、その存在を多くの人に気づいて欲しいと思ったのではないか。2つの会場を見終わったとき、そこには森村から観客への切実なメッセージが凝縮しているように感じられた。「アートがアートであり続けるために、見失ってはいけないものがあるはずだ。皆そこに気づいて欲しい」と。
2014/07/31(木)(小吹隆文)
Lucie & Simon: in search of Eternity
会期:2014/07/10~2014/08/02
TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]
今年の「ART OSAKA 2014」(7/11~13)に企画展で参加したルーシー&シモンが、TEZUKA YAMA GALLERYで個展を同時開催。会期後半に観覧することができた。本展の作品《in search of Eternity》は、パリ市内のなかでも移民や貧困層が多く住む地域を自動車でゆっくり走りながら撮影し、スローで再生したもの。音声は宗教音楽にも似た瞑想的な楽曲が全編を通して流れていた。そこに映し出されているのは、多くの日本人が想像するパリとはかけ離れた情景だが、これもまた現在のパリのリアルな姿なのだ。パリでは現在、土地の高騰が問題視されており、移民や貧困層はますます郊外へ追いやられつつあるという。10年後に同じ地域を撮影すると、全く違う風景が広がっているのかもしれない。なお、本展では別室で写真作品も展示されていた。
2014/07/26(土)(小吹隆文)
プレビュー:サイネンショー
会期:2014/08/26~2014/09/06
MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w[京都府]
「サイネンショー」とは、家庭で使われなくなった不要陶器を回収し、再び窯に入れて再焼成したものを、作品として提示する活動のこと。作品の仕上がりは千差万別で、なかには実用品として再使用できそうなものもあるが、大半は絵付けや形態の変貌によりオブジェ化している。陶芸家の松井利夫を中心としたメンバーたちの狙いは、陶磁器が大量生産され死蔵品が溢れ返る現状への危機感、そして中古陶磁器の再生法の模索、さらには売上金から経費を差し引いた利益を東北の芸術活動支援に回すことである。筆者は昨年の展覧会で初めて彼らの活動に接したが(画像は昨年の展示風景)、その作品は上記の理由を抜きにしても面白く、造形活動の新たな地平を切り開けるのではないかと感じた。今年の作品が更なる飛躍を見せてくれるよう期待している。
2014/07/20(日)(小吹隆文)