artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
プレビュー:若手芸術家・キュレーター支援企画 1floor 2014「またのぞき」
会期:2014/11/01~2014/11/24
神戸アートビレッジセンター[兵庫県]
神戸アートビレッジセンター(KAVC)が2008年から毎年開催している、若手芸術家・キュレーター支援企画。出展者たちは展覧会実施に関わるさまざまな段階、場面に直接的に関与し、KAVC内のギャラリーとコミュニティスペースを舞台にした企画をつくり上げる。今回選出されたのは、内田聖良と貴志真生也の2作家。内田は、書き込みや染みなどの手垢がついた古書を販売するオンラインプロジェクト《余白書店》を共同で運営しており、貴志は、ブルーシートや角材、発泡スチロール等を駆使して、既存の価値観や認識では捉え切れない空間をつくり出す。本展のタイトルである「またのぞき」とは、景勝地の天橋立で行なわれる股間から景色を見る行為のこと。視点を切り替えることで事物の新たな価値観を発見する両者の作品に共通する言葉として選ばれた。
2014/10/20(月)(小吹隆文)
記憶の遠近術 篠山紀信、横尾忠則を撮る
会期:2014/10/11~2015/01/04
横尾忠則現代美術館[兵庫県]
2012年11月の開館以来、7つの企画展を開催してきた横尾忠則現代美術館。8つ目となる本展で、初めて横尾以外の作家が主役となった。本展の作品は1968年から70年代半ばにかけて写真家の篠山紀信が撮影したもの。当初は横尾と彼に影響を与えた人物の2ショットで、相手のキャラクターに合わせて演出が施されていた。しかし、1970年に横尾が兵庫県西脇市に帰郷した際に、友人、知人、恩師、身内らとフレームに収まったことから作風が変化し、2人にとって重要な転換点になったという。篠山はそれまでのつくり込んだ作風から自然体のスナップショットへ、横尾はスピリチュアルな世界に傾倒し始めたのだ。昭和の著名人たちが写った写真は時代の息吹きを生々しく留め、西脇での写真はどこかほのぼのとした風情が心地よい。巨大にプリントされた写真作品が持つ力を再確認できたのも収穫だった。
2014/10/10(金)(小吹隆文)
吉川直哉 展 ファミリーアルバム
会期:2014/10/07~2014/10/19
ギャラリーアーティスロング[京都府]
写真家・吉川直哉の4年ぶりの個展。彼は2001年から「写真とは何か」というコンセプトで作品を発表しており、本展は2010年に行なわれた個展の続編となる。前回は写真史上の名作を複写やアニメ化したが、今回のテーマは「家族写真」。実家に残っていた古い家族アルバムから選んだ写真をマクロレンズで複写し、歪んだ画像として提示した。ご存知のように写真業界ではデジタルが主流になり、アナログの銀塩写真はノスタルジーの対象かマニアの愛玩物になりつつある。吉川はそうした現状をただ嘆くのではなく、さりとて無闇に肯定するのでもない。家族アルバムとの対話を通して、写真とはかけがえのない記憶が物質化したものであり、写真が存在することで時空を超えた対話が可能になるということを訴えたかったのではないか。もちろんそれは写真の本質の一部に過ぎず、切り口次第でまた新たな解答が紡ぎ出されるのであろう。いずれにせよ、ひとりの写真家が真摯な態度で写真に向き合った本展は、見る者それぞれに「写真とは何か」を考えさせる機会であった。
2014/10/09(木)(小吹隆文)
THE NIPPON POSTERS
会期:2014/10/09~2014/12/20
dddギャラリー[京都府]
大阪・南堀江にあったdddギャラリーが、京都・太秦のDNP京都工場内に移転。その第1弾として開催されたのが本展だ。内容は、「日本の伝統美」という視点で戦後日本のグラフィック・デザイン史をたどるもの。年代別に6つの章が立てられ、幅広い世代のポスター約130点が展示された。昭和から平成に至る巨匠たちの競演はガラコンサートのように華やかで、新ギャラリーの門出を祝うのにふさわしい企画展であった。なお、ギャラリーの隣には「京都太秦文化遺産ギャラリー」も新設されており、フランスのルーヴル美術館や京都の社寺で行なわれている文化遺産の収録・保存事業の一端を垣間見られる。また、工場内に移転した立地を生かし、今後はワークショップなどの教育普及プログラムにも力を入れていくという。立地こそ市内中心部から離れているが、地下鉄東西線「太秦天神川駅」から徒歩すぐの距離なので、さほどハンデにはならないだろう。dddギャラリーの活躍に期待する。
2014/10/09(木)(小吹隆文)
国宝 鳥獣戯画と高山寺
会期:2014/10/07~2014/11/24
京都国立博物館[京都府]
ウサギとカエルが遊戯する場面などで知られ、マンガの元祖ともいわれる、国宝《鳥獣人物戯画》。その保存修理が完成したことを記念して開催されているのが本展だ。甲乙丙丁の全4巻が一堂に揃うのは、京都国立博物館では33年ぶりとのこと。一部の巻は、元々は料紙の表と裏に描かれていたものを後世に剥がして巻物に仕立てていたなど、保存修理で得た新知見ももれなく紹介されている。ただ、絵巻物は覗き込む姿勢で鑑賞するので、込み合う展示室で心ゆくまで鑑賞するのは不可能に近い。本展では大型パネルを大量に用意し、行列待ちの間に解説を読んでもらうよう工夫をしていたが、そろそろ新たな展示法に移行すべきではなかろうか。例えば、作品本体の展示に加え、デジタルアーカイブした高精細画像を大型モニターに映し出すのである。これならば、クローズアップやスクロールが自由だし、画面に文字情報を載せて解説を行なうことができる。行列待ちの時間もむしろ楽めるのではなかろうか。もちろん、費用や著作権等の問題が多々あることは承知しているが、技術的にはすでに可能であろう。なお、本展では《鳥獣人物戯画》4巻以外にも、同作の所蔵元である高山寺の中興の祖、西行ゆかりの文化財も多数展示されている。
2014/10/06(月)(小吹隆文)