artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

パリ 大阪──街と芸術をめぐる物語

会期:2013/05/01~2013/05/13

大丸ミュージアム〈梅田〉[大阪府]

今月は奇しくも、都市「大阪」をテーマに取り上げた展覧会が並んだ。ひとつめの本展は、世紀末以降のパリと1920年代以降の大阪というふたつの「街」を切り口に、60点余りの作品を展観したもの。パリが「古き良き時代(ベルエポック)」と「狂乱の時代(レ・ザネ・フォル)」、そして大阪が「大大阪(だいおおさか)」と呼ばれ繁栄した時期の作品が集められた。世紀末パリの街頭を飾ったロートレックやミュシャ、ボナールらのポスターの数々から、エコール・ド・パリ、シュルレアリストの作家たちの作品群まで。片やモダン都市・大阪のイメージを喚起する浅井忠や池田遙邨の画から、パリの街角を描いた佐伯祐三、関西を拠点に活躍した吉原治良らの油彩画まで幅広い。興味深いのは、同出展作の多くを大阪市の「中之島ミュージアムアイランド構想」により建設が予定される、大阪新美術館の収蔵品が占めていること。そして、デザイン史を学ぶ人にとっては、同時開催されたミニ展覧会「発見!大大阪展」(大阪大学教授・橋爪節也氏のコレクション)の資料、例えば大丸呉服店(現、大丸百貨店)の『衣裳』(明治41年5月~8月号)ほか、情報メディアの出展が参考になる。[竹内有子]

2013/05/08(水)(SYNK)

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ミュシャ財団秘蔵 ミュシャ展──パリの夢 モラヴィアの祈り

会期:2013/03/09~2013/05/19

森アーツセンターギャラリー[東京都]

日本でミュシャの回顧展が最初に開催されたのは1978年だという。それ以来、数多くのミュシャ展が開かれてきた。今年は森アーツセンターギャラリーから始まるこの巡回展のほか、美術館「えき」KYOTOからは、チェコのチマル・コレクションの巡回展が始まっている。また堺市立文化館アルフォンス・ミュシャ館ではミュシャのデザイン集である『装飾資料集』の全図版が公開されている。
 サラ・ベルナールの公演のためのポスター《ジスモンダ》(1895)以来描かれたアール・ヌーボー様式のポスター、グラフィックを欠かしてはミュシャの人気はあり得ないだろう。しかし、近年は彼が描き続けていた油彩画や、祖国チェコに帰国してからの作品を紹介し、その祖国愛に満ちた人間像を描き出す試みが行なわれるようになってきた。チマル・コレクションの展覧会タイトル「知られざるミュシャ展」にも、本展のキャッチコピー「あなたが知らない本当のミュシャ」にも、そのような背景が現われている。展示は六つの章に分かれている。第1章は、ミュシャのチェコ人としてのアイデンティティを自画像や家族の肖像画から探る。第2章は、良く知られたサラ・ベルナールのポスターを中心とした仕事。第3章は、アール・ヌーボー様式の広告など。第4章は装飾パネル画。第5章は、1900年のパリ万博前後の作品。オーストリア政府の依頼でボスニア=ヘルツェゴヴィナ館の内装を担当したことによってスラブ民族のおかれた複雑な政治状況を再認識した時代にあたる。そして第6章は、《スラブ叙事詩》への道。ここでは、パリを離れて祖国に戻ったミュシャの思想をたどる。
 良く知られたポスターはもちろん、ポスターや装飾画の下絵、《スラブ叙事詩》の習作、そして30点にのぼる油彩画が出品されている。また、友人たちや作品のためにポーズをとるモデルを写した写真もあり、思想から制作のプロセスまで、ミュシャの作品と人間を包括的に知ることができる展覧会である。[新川徳彦]

関連レビュー

知られざるミュシャ展──故国モラヴィアと栄光のパリ|SYNK・金相美

2013/04/23(火)(SYNK)

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奇跡のクラーク・コレクション

会期:2013/02/09~2013/05/26

三菱一号館美術館[東京都]

クラーク美術館の所蔵作品から、印象派を中心とするフランス絵画を紹介する展覧会である。ルノワール22点、コロー、ミレー、マネ、ピサロ、モネなど、合計73点で、そのうち59点が初来日だという。
 アメリカ、マサチューセッツ州ウィリアムズタウンに1955年に開館したクラーク美術館(Sterling and Francine Clark Art Institute、通称The Clark)では2010年から増改築工事(安藤忠雄設計)が行なわれており、2011年からコレクションの海外巡回展が始まった。そのコレクションはこれまでまとまったかたちで海外で展示されることはなかったといい、コレクションの質の高さと合わせてタイトルに「奇跡の」と冠されている所以である。
 コレクションの主は、スターリング・クラーク(1877-1956)。スターリングの祖父エドワード・クラーク(1811-1882)は、法律を専門とする弁護士であった。19世紀半ばにミシン製造の特許紛争に関連して、アイザック・メリット・シンガーの法律顧問となったエドワードは、1851年にシンガーとともにI・M・シンガー社の共同創立者となった。I・M・シンガー社は優れた経営でたちまち世界最大のミシン・メーカーになったが、エドワードは家庭用ミシンに月賦販売を導入するなど、マーケティング面でその発展に大きく寄与した。また、1870年代からは息子のアルフレッドとともに盛んに不動産投資を行ない、マンハッタンにもたくさんの土地と建物を所有していた。ジョン・レノンが住んでいたThe Dakotaもそのひとつである。エドワードの4人の孫がその遺産を受け継いでおり、次男であるスターリングのほか、四男スティーヴン(1882-1960)も絵画蒐集家として知られている。
 1910年にパリに渡ったスターリングは、舞台女優フランシーヌ・クラリー(1876-1960)と恋に落ち、そのころからアパルトマンを飾るためにふたりで絵画の蒐集を開始したという。ふたりが結婚したのは、第一次世界大戦直後の1919年。彼らの蒐集品は、ルネサンス期のオールドマスター作品から近代までのヨーロッパ絵画。陶磁器、銀器、素描、彫刻など多岐にわたり、第二次大戦直後にはその数は500点に上った。最初に購入したルノワール作品は《かぎ針編みをする少女》(1875年頃、1916年購入)である。クラーク家がミシンで財をなしたことと、フランシーヌの母親がお針子であったことは、この絵の選択に影響したであろうか。彼らはその後30点に上るルノワール作品を購入している。第二次世界大戦前から美術館の設立を構想していたクラーク夫妻は、戦後その場所をウィリアムズタウンに決め、2年の歳月をかけて1955年に美術館が開館した。専門家・批評家の意見は参考にせず、自らの趣味、鑑識眼に従って選んだという作品の数々は、ふたりの邸宅を飾るに相応しく、明るく華やかな作品が多く、何よりも見る者を幸せな気持ちにさせてくれる。[新川徳彦]

2013/04/16(火)(SYNK)

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超・大河原邦男 展──レジェンド・オブ・メカデザイン

会期:2013/03/23~2013/05/19

兵庫県立美術館[兵庫県]

メカニカルデザイナー、大河原邦男の原画などを集めた展覧会。メカニカルデザイン(通称メカデザイン)とは、主にアニメーション作品に登場するロボットや宇宙船などの機械デザインのこと。大河原は日本でメカデザインの仕事を確立させた人物とされる。1972年放送の『科学忍者隊ガッチャマン』でロボットなどのデザインを担当して以来、40年以上にわたって日本のメカデザイン界を牽引してきた。展示は設定資料や原画約400点が時間軸に沿って七つコーナーで構成されている。会場には家族連れやアニメファンが多く訪れており、懐かしさや、各々の思い出を楽しんでいた。[金相美]

2013/04/14(日)(SYNK)

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『なぜデザインが必要なのか──世界を変えるイノベーションの最前線』

著者:エレン・ラプトン他
訳者:北村陽子
出版社:英治出版
発行日:2012年1月24日
価格:2,400円+税
判型:B5変型、208頁


本書は、2010年にニューヨークのクーパー・ヒューイット国立デザインミュージアムで開催された「なぜ今デザインなのか?(Why Design Now?)」展をもとに刊行されたもの。同館は2000年にデザイン・トリエンナーレを開始し、当該展は第4弾にあたる。この回は初めて、アメリカのみならず、全世界44カ国から集めた134の先進的なデザインを紹介している。テーマは、「エネルギー、移動性、コミュニティ、素材、豊かさ、健康、コミュニケーション、シンプリシティ」の八つに設定される。これらの主題を貫く思想は、デザインはいかにしてよりよき社会の形成に貢献をしていけるかという問いである。例えば、「エネルギー」の章では、自給自足型の未来都市のデザインから海の波力で電力をつくるシステムまで、環境における持続可能性を追求するデザイン・プロジェクトの数々をみることができる。「移動性」では、人とモノの移動が扱われるが、リサイクルできる軽量素材を用いつつ高速・高エネルギー効率に配慮した次世代高速鉄道AGVなど、都市の交通・輸送システムの問題解決をするデザインが提示される。「コミュニティ」では、地元住民だけでなく弱者のためになにができるかについて問うた建築、「素材」では〈リデュース、リユース、リサイクル〉を志向する新素材が紹介されている。個人と社会の健やかさに資する「豊かさ」と「健康」と「コミュニケーション」、そしてモノの外観についてだけでなくデザイン・プロセスの簡素化までをも含む「シンプリシティ」を実現するデザイン。「デザイン」とは、たんに製品の完成形やモノの外観だけを指すのではない。同書は、社会文化、政治経済、技術、倫理、美的価値すべてに関わる「デザイン思考」をつまびらかにしようとする。本展が端的に示すとおり、デザインとは本来的に「未来」を志向するものなのだ。[竹内有子]

2013/04/12(金)(SYNK)